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「寝癖のジョージ」 ショートショート

またアイツ、寝癖がひどいな。私の前の席の霧島丈二は毎日寝癖をつけて登校する。

「おいジョージ!俺らは高校生になったんだぞ。寝癖くらい直してこいよ」

何度かそう言ったがいっこうに変化がない。相変わらず眠そうな顔で机にもたれ、後頭部の寝癖を揺らしている。

私はそんな寝癖をため息混じりで見ていた時、ふと気づいた。ジョージの寝癖の奥に何か見える。そう寝癖の雑木林のその奥、つまり右側の頭皮に何か見えるぞ。

私は先生に見つからないよう努めてゆっくりとジョージの後頭部に顔を近づけた。ん?なんだ?文字みたいなものが見える。あ!分かった。そこには黒い色で確かに「苦」という一文字が書いてあった。なぜ、頭皮に「苦」の文字が。理解できない。毎日寝癖をつけてくることも理解できなかった上にこの難題。ジョージお前はなんなんだよ。

私は友人なのに理解できない事柄にすっかり疲れてしまった。まぁ、別にどうでもいいか、ジョージの頭の文字なんか。私はそう断ち切って帰宅した。

次の日。

あーあ、やっぱりジョージの寝癖、今日もひどいわ。女子たちも失笑してるよ。今日の寝癖は左から右斜め上に向かって一直線だ。長さはざっと二十センチ!その寝癖のせいで後ろにいる私は黒板の字が見えにくい。それほどの寝癖であるのだ。

あれ?私はまた気づいてしまった。左側にまた文字らしきものがチラリと見える。私は気になってしまい、わざと消しゴムを落として拾うついでに間近でのぞきみた。

「夜」と書いてある。いったいどういうことなんだ。机でグッタリしているジョージよ。こう見えて実は何かに苦悩しているのだろうか。夜に何か関係があるのか?夜に苦しいのか、苦しい夜なのか。苦しいから夜に何かするのか…。私はだんだん頭がおかしくなりそうになって、フルフルと頭部を振って正気に戻した。

また次の日。

ジョージが登校してきた。私は今までみたいにあきれた感じではもう見れなくなって、恐る恐るジョージの頭を見た。うぅ、やはり寝癖。今日は若干左斜め上にはねているスタイルだ。そして問題はその奥の頭皮。私は細めていた目をゆっくりと開けていき、ジョージの頭皮に焦点を合わせていった。その文字はすぐに私に飛び込んできた。

「死」である。

これはいけない。やはりジョージは苦悩していたのだ。理由は分からないが人生に夜な夜な苦しんでいる。そしてついに力尽き自ら死を選ぶというのか。

私はいてもたってもいられず休み時間にジョージと二人で話をした。

「田中、用ってなんだよ?」

「ジョージ、何か悩んでるなら言ってくれよ!俺、たいしたことはできないかもしれないけど、なんか解決できるかもしれないだろ」

「田中、何言ってんだ?」

「ジョージ!俺、分かってるんだぞ、お前の頭の文字のこと。そうやって助けて欲しい気持ちを暗に表現してるんだろう」

ジョージは頭のことを言われ急に逃げ腰になり、両手で寝癖を抑えて足速に逃げていった。素直じゃないなジョージは。でもこれで少しは心を開いてくれるといいんだが。

次の日。

ジョージの寝癖はだいぶ落ち着いていた。今まで初めてみた、こんなに普通の髪型は。私はなんか嬉しく感じてしまうと同時に物足りなくもあった。いや実のところあの「死」の文字のあとはどうなったのか気になっているのだ。死ぬことをやめて「生」とか希望の「希」とか、そんな文字になっていて欲しいなと思っていた。そう思い始めたらいてもたってもいられず、鉛筆をわざと落として拾う時にヒジでジョージの髪かきあげて見た。

「露」の文字。

露、、なんで、、?

ジョージを問い詰めると白状した。ジョージは中学生の頃かなりヤンチャをしており、スキンヘッドに刺青していたらしい。

「夜露死苦」の文字を。

「よろしく!」とジョージは親指を立てて調子づいた。

ジョージは苦悩などしていなかったのだ。まったく人騒がせな奴だ。私は前より、ちょっとだけジョージが好きになった。


おわり


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