「ぼくの反抗期」 *青猫さんからのオーダー作品です*
ぼくはそれなりに幸せだった。
両親に妹とともに健康的に育ててもらった。家庭はみんな仲がいい。それはケンカをしたことがないから。ぼくが生まれて15年間一度もイザコザを見たことがない。そうゆう家庭なのだ。これはどう考えても仲がいいのだと思う。
ただひとつ変わっているのは家族内のルールだ。これ、どうやら友達の家とは全然違うみたい。ここ最近やっとそのことに気づいたのだ。
ぼくは学校からの帰り道は、1人きりで歩くことになっている。家庭の規則なのだ。つまり母が作った決まり事は絶対なのだ。
「ただいまー」
ぼくは自宅のドアを開けて声を出した。
ドタドタドタ、、
毎回だが、母はすごいスピードで走ってくる。
「はーい。じゃさっそく脱いで!」
私は玄関先で体にまとっていた電磁波防護服のチャックを開けて脱いだ。それを防電グローブを手にはめている母に渡すと即座に専用の巨大洗濯桶になげ入れる。ぼくは順番どおり上着、ズボン、Tシャツ、パンツを脱いでいく。母はそれをリズムよく受け取り「バンバン」洗濯桶になげ入れる。
その後母は丸裸のぼくに電磁消去棒をこすりつけてすばやく電磁波をとってくれる。母はぼくの健康を気遣いいつも一生懸命だ。防電フェィスシールドを片手であげながら母は言った。
「はーい、これで電磁波はきれいにとれたよー。優ちゃんおかえり。お腹減ったでしょう、いま夕飯準備するからね!」
ようやくぼくは家の中に入った。
父も妹もリビングにいた。当然ながら2人とも全裸でくつろいでいる。神棚のところにはうちの家訓が大きく貼ってある。
「電磁波は、出さない、入れない、持ちこまない」
これを毎朝家族いっしょに大声で唱和するのだ。この電磁波を完全に遮断する取り組みは約10年前から始まった。ぼくの兄が亡くなった時からだ。兄は脳腫瘍で
亡くなった。落ち込む家族へ医師からの説明があった。その内容は、兄の脳腫瘍の原因は電化製品から出す電磁波も関係しているかもしれないという話だったのだ。
それを聞いた母はまだ幼い兄が突然亡くなったショックもあって、医師の話を完全に信じ込んでしまった。それから母は人が変わってしまい家庭内は一変した。家庭内には電磁波を出す物体はすべてなくなった。家具も持ち物も全て電化製品は処分されたのだ。外に出る時は電磁波防護服とフェィスシールドは絶対につけなければならない。学校帰りの寄り道は禁止。友人には不要不急で近づいてはいけない。こうした厳しいルールが大量に作られていったのだ。
夕食を食べた後、母は得意げに言った。
「皆さん、今日はすごいもの買ったのー、みて!」
何やら15センチほどの箱型のものが食卓に乗せられた。
「これは電磁波を吸い込む物体が近くにないかがわかるセンサーです!」
母はついにこんな便利なものが発明されたと嬉々としている。
「じゃ、さっそくセンサーをつけてみるわよ」
箱の後についているスイッチを押すと、ボウッと緑色に明かりがついた。家族全員が近くで見守る中そのセンサーは
「ピーピーピーピー」
と警告音がして赤色の明かりが回転しだした。明らかに電磁波を吸い込みやすい物体が近くにあるらしい。
「えー!!おかしいわ、こんなに気をつけているのに!何に反応してるのかしら」
家族全員不思議な顔で考え始めた。妹がボソッと言った。
「もしかして、、私、歯の治療した時、、銀の被せもの入れたよ」
「あ!それだ、、じゃぁ私もブリッジや部分入れ歯してるからその影響ね」
母は言った。
隣で青い顔をしながら父が言った。
「私は、以前インプラントを入れてしまった」
しばらく考えた母は意を決した表情で
「すべて抜くのよ。家族の健康のためだもの。歯医者さんは電磁波が多いから家でやるしかないわね。」
そう言って母は恐ろしい道具を準備しはじめた。
ぼくはトイレにいくフリをして玄関に向かった。そしてドアに手をかけて外に出た。防護服を着ずに外に出たのは生まれて初めてだった。それどころか服すら着ていない。足はブルブルと震えている。頭はうまく整理できずモヤモヤがひどい。ただ体は急激に拒否反応が出ておりとにかくこの家を出なければならない。ぼくの生きる道はここにはない、本当の幸せは家の外にある。そんな感覚で体が勝手に動いていたのだ。恥ずかしさなど感じるわけもない。
すべてから解放されたぼくは全裸で夜の街を駆け抜けた。もう電磁波も母たちもどうでもいい。服、家、家族、そして母、そのすべてを捨て去った初めての軽やかさを全身で感じていた。自分でもびっくりするほどの笑顔で繁華街を駆け抜けたのだ。
初めての反抗期は突然にやってきた。ただし取り返しのつかないカタチで。
おわり
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