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「独創的なひまわり」 ショートショート

小学校二年生の作太郎は変わった少年だった。
学校へは来たい時にふらっと立ち寄り、授業中は一生懸命イタズラ描きに専念する。写生の時間では空に木々を泳がせ、山の色を七色に塗った。友達とも仲良く遊ぶが、ふとした時にはひとりで学校の隅にうずくまり、蟻の巣を何時間も見ている。それでいて成績は中の下くらいにとどまっており、うまい具合に問題児扱いは免れていた。父親は今も海外で働き、母親はもと画家というから、変わった子供に育つのも自然の流れなのかもしれない。

夏の初め。

理科の時間ではひまわりを育てる授業が始まった。クラスの子どもたちは先生に連れられ、学校向かいの小さな畑に集まった。先生の指示通り一定の間隔をあけて土にひまわりのタネを埋めていく。作太郎もみんなにならいタネを二粒埋め、土を優しくかけて水をやった。

一週間ほどで芽が出はじめた。若干の大小の差はあるが緑の芽がぽつぽつ出だした。作太郎の種はまだ芽を出していない。

それから数日かけて小さな葉が両手を広げるように左右に分かれ、日に日にぐんぐんと伸びていった。ところが作太郎の場所だけは何も生まれてこなかった。先生たちも不思議に思ったが確かにタネを入れたことは確認していたので、発芽を信じて待つことにした。作太郎は何も言わず、じっとタネを埋めた場所を見つめている。

一カ月が過ぎた。こうなると高さは百センチを超えて緑の茎が太くなり、葉が横に大きく伸び始めてくる。それでも作太郎の場所は何ひとつ生まれてこない。そしてとうとう二カ月目となり、友達全員の分は大きなひまわりを満開に咲かせたのだった。ところが残念なことに作太郎のところだけは土のままで何も表面に咲くものはなかった。それでも作太郎は悲しい顔はひとつも見せずに、むしろイキイキとして土を見つめているのだ。

それを見ていた先生たちは、やっぱりタネを入れ忘れたんだろうという結論になり、みんなが下校した後、作太郎の場所を掘り返してみたのだ。すると掘れば掘るほど理由が分かってきた。作太郎の埋めたタネはなんと独創的なことに、地下に向かって成長していたのだ。茎や葉は地面の中をぐんぐん元気に伸びている。しかもその深さは掘っても掘っても掘り切れず、計り知れない成長を遂げていることを思い知らされたのだ。

ブラジルの農業研究所で働く作太郎の父親は、小さな庭がある家に住んでいる。夏が終わるころ、その庭に突然として地中から茎が伸びてきて、一本の見事なひまわりが咲いたという。ひまわりの色が独創的な七色だったことから、息子の作太郎が手掛けたものだと父親はすぐに気づいた。


おわり


私の新作(作品集)のご紹介です!
よりすぐりの不可思議なものを集めました。


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