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夜空ノムコウに誰がいる?

夜の匂いが好きだ。妖しさを含んだ真夜中の湿り気が、「大人」に閉じ込められた自分に適度な狂いを与えてくれる。大人ってなに?生計を維持し、社会的な役割を担い、自己現実を図る。大人になるってのは、たぶんそういうパーツを揃えていく営為だろう。控え目に言ってKUSOですねと、かつての自分なら七色の吐瀉物をケツの穴から逆噴射したほどの、うんざり度MAXの学説である。大人であることの立派さを俺に強いるほど、あんたらの立派さは確かなのか?あん?小一時間ほど問い詰めたい案件だ。

と、まあ、そんなスピード感で、世界に鉄槌を下してやるぜ!その一事にかけて燃焼していたガラスの十代。それが僕だったし、雑にかじった自己啓発書の断片を、あたかも宇宙の真理の如く吹聴していたエヴァンジェリスト気取り、それもまた僕であった。後悔はない、無駄でもない、ただ若かっただけ。ただ今となっては、いかに生きるかよりも、いかに感じるかの方に意識がフォーカスするようになった。目指すところの精神的荒野は変わらない。変わるとすれば僕自身の感じ方だろう。

ハレー彗星の話をしようか。

周期は76年。これはほぼ人間一人の寿命に当たる。つまり一度目にしたら、生きているうちにもう二度と目にできないことを意味する。この彗星を幸運にも網膜に収め得た人物の一人がエドモンド・ハレー、天の星々に全血液の関心成分を吸着された若き俊英である。「星の軌道、どげんなっとうと!?知りたかばい!」―彼が果たして博多弁の話者だったかどうかは学術的な検証が待たれるところであるが、それはひとまずおいといて、好奇心の階段をまさに彗星の速度で駆け上っていくハレーが突撃をカマした先は「世界の全てを計算できる男」という中二病の腐敗臭をそこはかとなく漂わす二つ名を持つ先輩科学者、アイザック・ニュートンだった。

「ニュートンパイセン、惑星の軌道なんスけど・・・」

「ああ、それ?もう証明したよ」

「ファッ!?」

「長楕円か放物線」

「マジパネェす!」

想像するにこんなIQ爆上げな会話が交わされていたことだろう。彼我のあまりの絶望的な知性の格差に死にたくありませんか?僕はありませんけど。

そんでハレーはニュートンから貰った公式で自分が目撃した彗星の軌道を計算、この星の再来を予言した。後年、彗星は再び飛来し、時を経て二人の正しさが証明されたってわけだ。ハレーもニュートンもこの世を去った後、ではあるけれど。その彗星に与えられた名前がハレーだった。彼ら自身がもう見ること叶わない彗星の存在を、計算用紙の上からその存在を今の僕らに感じさせてくれる。星と人との清烈な一期一会、それもやはり夜空の元で語るにふさわしい物語なのかもしれない。

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