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佐藤宏美個展「mymyth」の思い出

ゲーム制作の相棒が、先日、とある個展に行きたいと言い出した。
「何の個展?」と問うと、見せられたのがこの記事のヘッダー画像。
色彩のない写真だったこともあり、私は最初、何かの生き物の死骸かと思った。本当は死骸ではなかったものの、生命の重さやリアリティのようなものが見て取れた。
それが、アーティスト・佐藤宏美さんの創作物の第一印象だった。

佐藤宏美さんの個展「mymyth」(マイミスと読み、「私の神話」という意味)へ、そんなわけで相棒と行ってきた。
初日の18時から、ギャラリートークがあるということ。佐藤宏美さんご自身が作品の解説などをしてくださるそうで、楽しみにしながら二人で出発。

初めて訪れる会場は、地下鉄中島公園駅のそばにある、ギャラリーの一階だった。大きな窓ガラスから、中のミステリアスな様相が見て取れた。

中に入ると、生成り色の綿糸と流木などを用いて作られた、不思議な造形美術の作品群が迎えてくれた。

最初は「なんかすげー」くらいの感想しか持てなかったけど

彫刻でない、異素材を組み合わせた造形美術を見るのは、私も相棒も初めて。
一つの作品を上からも下からも見て良いとのこと。作品で空洞がある物も、中を覗いてみて良いと言われた。

佐藤宏美さんご自身も会場にいらっしゃった。
私はイメージスケッチやラフを描いたりするのかを質問したが、今思うと月並みだった。
佐藤さんの返答は、情報収集をしっかり行い、熟考し、自分の感覚に都度問いかけながら、作品のあるべき形をつかんでいくそうだった。

一方相棒は、イラストレーター志望ということもあり、私とは全然違う質問を投げかけた。
表現方法よりも、まず作品の着想をどこから得るかという段階について質問。そこからどう素材を選び、集め、形を作っていくか。過程について、根源的なことを問い続ける。もはや質問というより、師に教えを乞うような格好だった。
だけど思いなしか、佐藤宏美さんも表情がにこにこ。生き生きとして、丁寧に制作について語ってくれた。

やっぱり芸術家同士は、凡人とは全然違う脳みその構造なのかもしれない。
芸術って、言葉ではとても言い尽くせるものではないのだろうなぁ。


生命力や思想が、だんだん奔流みたいに感じられてきた!

ギャラリートークでは、いくつかの写真をオブジェクターでスクリーンに映し出しながら、どういう経緯で現在の制作スタイルに行きついたかという説明があった。
これが私にとっては非常に参考になった。まずは自分の目指すところを明確に決める。そして、制作スタイルを少しずつ模索。私もまさに今、そうしているところだった。

だけど佐藤さんの方が、ずっと慎重で、ストイックだった。試行錯誤をする期間を経て、一切の贅肉を排除した作品を作り上げている。今の自分に満足せず、これからさらに成長していこうとしているのだろう。

トークが終了すると、相棒は帰り際、佐藤さんに挨拶をしていた。
「また、どこかで」と、佐藤さんは笑顔で返してくださった。小柄なのに偉大なるアーティストに対し、親近感を抱きながら、二人で会場を出た。
質量を伴う純粋な美と、それを彩る原初の物語にふれた一夜だった。


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