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君が君なのは偶然じゃない、必然だ

作品を作っていると、偶然性に頼りすぎているな、と感じたことがある。
そもそもアイディアというもの自体、私は偶然に頼っていた。
カラーバス効果というものがある。意識していると、街を歩いて風景を眺めるだけで、欲しい情報が目に留まるようになる。
それに頼って、普段からアンテナの感度を上げ、いくつかのキーワードに似つかわしい情報を収集していく。
さながら、餌や仕掛けを使わずに釣りをするようなものだ。

そうして、いざ作品の設定を考え始めると、偶然得られた情報同士を組み合わせていくことになる。
あくまで、自分が面白いと感じるかどうかだけが判断基準だ。
こんなふうに書いてみると、いかにあやふやな作り方をしているかがわかる。

例えば設定段階で、主人公は男性がいいと思ったとする。
ある程度、年齢を重ねた男性だ。そんな人者が活躍する物語なら、自然と世界観や文体も、渋くてかっこいい感じにしよう。
そういう想定は、元となるアイディアにもぴったりだ。
最初のインスピレーションを、うまく表現できそうだ。
そんな手ごたえを得る。

だが、本音で言うと、女性の主人公の方が書きやすいとする。
女性にすれば、フットワークが軽く、動き回ってくれそうだ。
世界観は自然と明るくなるし、ポップで読みやすい文体が求められるようになるだろう。
元となるアイディアとは違うが、こっちの方が面白そう。
自分が読者となった時に、読みにくさが消えるかもしれない。
そんな手ごたえを得る。

こんなふうに、主人公の性別が定まらない時。
欲張って、あれもこれもと詰め込みたくなる時。
知らず知らずのうちに、頭の中で算盤を弾いてしまっている時。
偶然に頼りすぎたひらめきだけでは、突破口が見いだせないことに、ようやく気付くわけだ。

無論、プロの中には、それで作品を作れる人もいる。
キャラクターや世界観を決めたら、設定を煮詰める作業をそこそこに、書き始めることができる。
そうして書き進めているうちに、テーマなどはおのずと見えてくるもの。
まさしく天才的な書き手だ。

だが、残念ながら、私は天才ではなかった。
自分のセンスを信じて基準にし、まとまっていくのなら良い。
だが、設定作りに筋金を一本入れずに作り始めると、案外、あっさりと翻意することがある。

もし、主人公を男性にするか、女性にするかで迷っていた時に。
偶然、面白い漫画に出くわし、その主人公が女性だったとしたら。
「やっぱり女性だよね!」と風見鶏のようになってしまうことだって、ありうる。
作っている間、ふらふらしすぎで、最初に何を表現をしたかったのか、すっかり忘れているのだ。

面白いアイディアを思いついたのなら、絶対に大事にしよう。
決して焦らない。ゆっくり、こつこつと進めよう。

その主人公が、その性別の、その名前である必然性は、何なのか?
設定を考えるなら、必然的理由を考えたい。

冒険に出るのなら、羅針盤は必需品だ。
方角を確かめながら、一歩ずつ進もう。


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