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女による女のためのR-18文学賞から読者賞が消えた件

女による女のためのR-18文学賞の最終候補作が決定し、作品が公式ページで公開されている。

https://www.shinchosha.co.jp/r18/

この文学賞、私は10年ほど前からかかさずチェックしている。
理由は短編である事、候補作全てを読む事ができる、この2点だ。
どの作品も作家の感性が現れていておもしろい。

今年で23回目にあたるこちらの賞だが、第21回から大きなリニューアルがあった。

現在、大賞の他に選考委員を務める友近氏が送る友近賞がある。

そこにもう1つ、候補作を読んだ読者の声が最も多かった作品に贈られる読者賞というものがあった。

これが廃止されたのだ。

個人的に、これは大きな改悪だと思っている。

文章やストーリー部分を評価し、最も優れた作品に賞を与える、それはごく当たり前の事だろう。

しかし、この読者賞、過去をさかのぼるといい意味で個性的、尖っている。
ひねくれた言い方をすると
作品の出来よりも読者が好みそうな作品が選ばれている傾向がある。

例を挙げると

第11回 「ハロー、厄災」※収録時「僕の災い」に改題 こざわたまこ
第14回 「くたばれ地下アイドル」小林早代子
第15回 「西国疾走少女」一木けい
第17回 「空におちる海」 夏樹玲奈
第19回 「カラダカシと三時の鳥」梅田寿美子
第20回 「ありがとう西武大津店」宮島未奈 ※大賞・友近賞も受賞

第15回の一木けい氏の場合、大賞は「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」。
作者は町田そのこ氏である。
選考委員の辻村深月、三浦しをん両氏とも大賞作品を絶賛していた。
第17回の夏樹玲奈氏の場合、大賞は清水祐貴氏の「手さぐりの呼吸」。
大賞をこの2作品の内どちらにするか選考過程でかなり議論があったようで、選評を務めていた辻村深月氏(当時)は「読者賞に夏樹氏の作品が選ばれてホッとしている」という旨の発言をしている。

どちらの作品も詳細は手に取って読んでいただきたいが
一木氏・夏樹氏の作品は読者賞がなければ受賞に至らなかったのではないかと思う。
ちなみに第20回の宮島氏の場合、これはもう文句なしの受賞だろうとしか言えないくらい群を抜いて面白かった。
その時の最終候補「悪い癖」が次点かな?と思ったがまさかのトリプル受賞になるとは思わなかった。

他にも
ヤリ〇ンと噂の同級生との交流(第11回)
男性地下アイドルにはまった子(第14回)
体の一部を貸す仕事をする女性と関わる主人公の話(第19回)
変わり種のある作品が揃っている。

第19回作品以外は書籍化されているのでぜひ読んでいただきたい。

現在はその代わりなのか、優秀賞が与えられるようになったのだが
作品として優秀なのか、読者の反響が大きかったからなのか、判断しにくくなってしまった。
選考委員が△の評価をつけても、読者が◎をつけるような作品が世に出てもいいではないか。
個人的には読者賞を復活してほしいと思っている。



余談

友近賞は、友近氏が地方出身というのもあってか、地方色が色濃い作品が受賞する傾向がある。
興味のある方は他の作品と読み比べていただきたい。

もう一つ、作品の傾向として女性ならではの生きにくさ、痛みをベースにした話が多い。
読んでいて辛い、という事ではないのだが
どうせだったら宮島未奈氏の「ありがとう西武大津店」のようなとにかくポジティブな人物が登場する作品もいち読者として読んでみたい。


(4/12追記)
「成瀬は天下を取りにいく」が本屋大賞を受賞しました。
おめでとうございます。
二度書きになりますが、生きにくさやヒリヒリする内容よりも、成瀬のようにまっすぐ突き抜ける主人公が登場する小説作品が、もう少し増えないかなと思うこの頃。

https://www.shinchosha.co.jp/special/naruten/

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