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生殺与奪の権を他人に握らされるゲーム【自作ノベルゲーム雑記】

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

 言わずと知れた有名なセリフですが、実際に生きていて生殺与奪の権を握る場面というのはまずやってこないと思います。
 広義的に見れば、入学や採用の判断を下す面接の担当とか、就職や転職、結婚のプロポーズといった自身や他人の人生を左右する選択という意味では、自分あるいは他人の生殺与奪の権を握るタイミングはあるかもしれません。
 が、今回語りたいのは引用したシチュエーションでも使われた、文字通り生かすか殺すか権利を握らされた時のこと。
 眼前にターゲット。貴方の手には一丁の拳銃。引き金に指をかけて少しの力を加えれば命を奪ってしまえる状況で、人は何を基準に生殺与奪の判断を下すのか。
 そんな「殺す」か「殺さない」かを選ぶだけの短編ゲームを作りましたという話です。

 


前置き【ネタバレ注意】

 ゲームの話を始める前に、この記事は上記に載せた作品「ある殺し屋の生殺与奪」のネタバレをがっつり含んでおります。
 そのため、もしこれからプレイしてみようかな~と考えている方がいましたら、ぜひ心ゆくまでゲーム本編を楽しんでいただいてから、本記事を読んでいただけたらと思います。

選ぶだけというシンプルなゲーム性

 本作は、なるべく短くてプレイしやすいゲームを作りたいと考えたのがきっかけでした。
 これまで自分が制作してきた二本のゲームは、どちらもプレイ時間が2~3時間というそこそこ時間のかかるものでした。
 特に育成ゲームである「従妹キミを大学へ連れていく!」については、より高い評価や未回収のイベントを見るためにもう一周したら、それだけで4時間とか平気で使う必要がありました。
 自分は、どちらかと言えば長めのストーリーを書くのが好きです。芽が出なかった話ではありますが、元々はライトノベルの新人賞を目指して文章を書いていたのもあり、大体10万文字程度の長編で話を収められるようにプロットを組んでいます。「七不思議の七番目」も大体それくらいの文字数だったかと思います。
 ですが、文章が多いということは、それだけ遊んでいただくプレイヤーの方にも相応の時間を求めるということでもあって。そして、既に著名な作品を世に送り出している方ならともかく、初めてその作者の作品に触れるという場合、いきなり長編から遊び始めるというのはなかなかに高いハードルであると自分は考えています。
 だって、何の保証もない知らない素人の作品なんです。本当に面白いかもわからないゲームに数時間を費やすのは、やはり尻込みしてしまうものでしょう。
 そんな指針のない暗中にもかかわらず、素人の長編二作品を遊んでいただいたプレイヤーの方には本当に心からの感謝をしています。しかし、一方で作る側の人間としては、やはり尻込みしてしまう初見の方でも遊びやすいゲーム――すなわち、30分くらいでさっくり出来る短編も作りべきだと考えました。
 そして生まれたのがこのゲーム――『ある殺し屋の生殺与奪』でした。

 ゲーム性は非常にシンプルです。キャッチコピーにもあるとおり「殺す」か「殺さない」かを選ぶだけ。
 まあ、途中で一か所だけ文字入力を求める場面があるので、厳密には選ぶだけではないのですが……。弁明の余地はないので、寛大な心で見逃してください。
 しかし、情報を整理して答えを探し出す推理要素や、科目を選択してパラメータを上げる育成要素といった複雑性は一切ありません。ノベルゲームの基礎ともいえる選択肢のみを使ったシステムは、はっきりいってめちゃめちゃ作りやすかったです。
 バグもほとんど出なかったし、デバックも通しプレイで完了しますし。プレイスキルを一切要求しないので、ゲーム初心者の方にもとても優しいです。
 ただ、ゲーム性がシンプルだからといって、内容も単調になってしまっては本末転倒。選択肢という基礎要素を主軸とする以上、その選ぶという行為に本質を見出せるゲームを作りにしたい。
 そうして選択肢をクリックする瞬間にピークを持ってくるゲームとして考え付いたのが、殺し屋が主人公の物語でした。

はちゃめちゃにかっこいいタイトル画面

自分以外の大切な何かを天秤にかける

 と、ここまでゲーム性がスタートでストーリーを生み出したような書き方をしてきましたが、実際のところ物語の構想自体はそれなりに前から思いついてはいました。ただ、殺し屋の話としてではなく、自分以外の大切なものを天秤にかける物語として。
 これはあくまでも自分の創作論であると前置いて、こと創作の物語において、読者視点で見る自分の命とはすさまじく軽いものだと考えています。この場合の自分とは主人公に限らず、そのキャラクター個々が持つ自分の命すべてに適用されます。いわゆる、自己犠牲というやつですね。
 世界とヒロインのどちらかを選ばなければならないなら、そのどちらをも助けて代わりに自分が犠牲となる。その精神はキャラクターの高潔さやかっこよさを演出する上ではかなり適切ですし、実際、他者のために自身を顧みないキャラクターは魅力的に映るものです。
 ですが、別の視点から見れば「そのほうがかっこいいから」という理由で投げ捨ててしまえるくらい、自分の命とは軽いものであるとも言えます。そして、その選択を――生殺与奪の権をプレイヤーが握った場合、大多数のプレイヤーは主人公が魅力的になる選択として自死を選ぶことでしょう。
 すなわち、主人公の命とは天秤に乗らないのです。「死にたくなければ○○をしろ!」という脅しは、創作においてなんの効力も示しません。むしろ、自身が追い詰められれば追い詰められるほど、熱い展開を演出する最高のスパイスとなるわけですから。
 そして、ここで前節にて挙げた「選ぶという行為に本質を見出せるゲーム」の話に繋がってくるのですが、上記の自分の思う創作論を前提としたとき、主人公の立場や命を天秤にかけた選択肢には一切の緊張が生まれません。少なくとも、自分はそう考えています。
 選択肢はあくまで後の熱い展開を盛り上げるための前振りでしかなく、むしろピークはその後に訪れる逆転劇あるいは自己犠牲の瞬間である。
 ならば、選ぶ瞬間にピークを持ってきたいならどのような選択を持ち掛けるべきか。そうして自分がたどり着いた結論が、自分ではない大切な何かを天秤にかけるという展開でした。

 本作では、主人公である殺し屋が便利屋より受け取った情報を元にターゲットの居場所を訪問し、殺しの判断を下すという流れを四人分繰り返します。
 殺せば、仕事の成功報酬としてお金がもらえる。殺さなければ、飼われている組織に自分が殺される。
 選択を行う四回とも前提条件は同じです。しかし、回を重ねるごとに天秤に乗せる大切な何かが変わっていきます。
 一人目の際は特に何も乗っていませんが、逆に相手の天秤にも特筆すべき事項がありません。ただ、いつも通りに仕事で殺すだけ。
 二人目の際、天秤に乗ったのは拾った少女との日常。自分が死んだら、残された少女はどうなるのだろうという漠然とした不安が主人公の心に落ち。
 三人目の際、天秤に乗ったのは少女を表社会に返すという使命感。仕事を全うし生きて帰ることで、少女を安全な世界に返すのだという明確な目的意識が主人公に芽生え。
 そして最後の四人目で、天秤に乗ったのは少女と便利屋の命。全ては組織に知られており、裏切ってしまったら二人の命はないかもしれないと、眼前のターゲットと二人の命を天秤にかけ生殺与奪を選ぶことになる。
 キャラクターやターゲットの個々の背景については、詳細に語っていると長くなってしまいそうなので後日別の記事にまとめるとしまして。ここでは主人公と拾った少女の選択にフォーカスを当てていきます。
 この選択において、主人公の命が失われることはあくまで副次的な効果に過ぎません。もちろん、主人公の――キャラクター本人の死を重く捉えて天秤に乗せるプレイヤーの方もいらっしゃるでしょうし、プレイしている各々が双方の天秤に何を乗せて選ぶかを考えることこそが本作の醍醐味です。
 ただ、この場において重要なのは主人公の死そのものではなく、その死によって及ぶ影響こそが生殺与奪を選んだ結果であるということ。
 ターゲットの中には同情の余地のない相手もいれば、慮る一面も見られる相手もいます。ただ主人公が死ぬだけならかっこいい美談に終わったかもしれない話も、そのせいで拾った少女や仲の良い便利屋にも危害が及んでしまうとしたら、殺さないという道を選ぶことが出来るのか。
 正解のわかりきった形だけの選択肢ではない、明確に未来が分岐するのだと否応なく理解させられる選択――それが、このゲームで自分が演出したかった、選択の瞬間にピークを持ってくるストーリー作りでした。

殺すか、殺さないか

正解のない選択肢

 前項の最後にて、正解のわかりきった形だけの選択肢という例えを出しましたが、本作ではどの選択肢にも必ずの正解はないという思想でエンディングを作っています。
 もちろん、メタ的な視点での正解はあるかもしれません。当然ながら、一人目を殺さずに主人公が死んだら二人目以降の話には進めませんから、物語を最後まで読むという意味では、必然的に選ばなければならない道もあります。
 ただ、この選択こそが正解であるという――プレイヤーの倫理や思想を強制するような要素は、なるべく排するように意識しました。故に、本作にはGOODエンド、BADエンド、TRUEエンドの概念はありません。だって、GOODエンドとか言われたらそれ以外が悪いみたいですし、TRUEエンドとか言われたらそれ以外はすべて偽物になってしまうでしょう?
 殺したか、殺さなかったか。どちらの選択も決して悪いものではないし、たどり着いた未来のどれもが真実である。
 プレイヤーの考え方や価値観が大きく影響するストーリーであり、生殺与奪の選択を考えてくれた過程こそがなによりも重要なゲームだからこそ、結末の捉え方は製作者が強制することなくプレイヤーの手に委ねたい。
 一本道な作品ばかり作ってきた自分にとっては初めての試みでしたが、これが良いゲーム体験に繋がっていれば製作者冥利に尽きるなと思います。

個人的におしゃれで好きなエンドスチル

おわりに

 といったところで、8月中旬に公開した短編ゲーム「ある殺し屋の生殺与奪」の制作雑記を書かせていただきました。
 最後まで読んでいただきありがとうございました!
 次は本記事では書ききれなかった、各章のストーリーやキャラクター設定についての裏話を書ければと思っています。
 ただ、9月に向けて一本ゲームを作っているので、その進捗次第では遅れる可能性もありますが……。
 もし本作や本記事を気に入っていただけましたら、次に投稿する記事も読んでいただけますと嬉しいです!

おまけ

 めちゃめちゃかっこいいタイトル画面は絵師さんに依頼して描いていただきました。
 その昔、望月けいさんのイラストをpixivで見てから、人生で一度は背景にタイトル文字を入れる演出をやってみたいと思っていたんです。
 叶って嬉しみ~。


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