連載小説『ヰタ・セクスアリス・セーネム』一章 グラビアアイドル(ニ)
柏葉由香が可愛くて美人なことは間違いないけれど、難を言えば鼻が……。と細部にこだわれば、別の見方も出てくる。幅が、少し広いのだ。小鼻が膨らんでいるというか、下に向かって末広がりな印象がある。
実は、本人もまさにこの点に今までコンプレックスを抱いてきたと、別動画で明かしている。少しでも化粧でカバーしようと工夫を重ね、自分なりに納得する仕方をあみだしたそうだ。
すっぴん状態から完成形までのコスメの様子を完全収録した別動画もアップしているのを順平はみた。ということは、整形をしていないということだ、と順平は理解した。
でも、思うにこの特徴があるから彼女がいっそう映えるのではないか。整い過ぎた美人には、しかし冷たい印象をいだくかもしれない。美しさに親近感を添えて、すぐにも手の届きそうな雰囲気を醸している柏葉由香。欠点を昇華させてみごとだ。
「自分はメンタルが強く自己肯定感のレベルも高い」と彼女は明言している。インタビューでの受けこたえでも声のテンションに自信のほどうかがえる。
まあ、有名アイドルグループで長く主要メンバーを張っているのだから当然かもしれない。半端ない努力もしたに違いない。涙もいくどか流したに違いない。
「はあ、メンタルに自己肯定感か、自分は弱いな」そう心のなかでつぶやきながら、順平は就活のため最寄り駅まで歩いている。「そやけど、若見えには自信ある」昔から気が小さい性格だと順平は自覚している。それによく、人から実年齢より若く見られてきた。
今朝は、次の駅にあるハローワークの出張所へ行くのだ。これが何度目になるだろうか。いい就職口が見つかればいいなと思いながら。
夫婦の年金を足せば、家賃と生活費を払っても赤字にはならない程度なので、働かなくてもぎりぎりはやっていけるとは思う。まだ働くのか、と友人から言われた。彼は趣味やら何やらで結構忙しいらしい。
自分もまあ、引退したまま、いわば隠居生活でもいいと思うこともある。しかし、この半年間「毎日が日曜日」の生活を経験して、時間を持て余すことがしばしばあった。
テレビ、ユーチューブ以外にネット通販、ブログ、旅行、趣味、友人付き合いその他時間を使う方法は山とあるはずだ。順平も以前はそう思っていたが、休日を待ちわびるあの心浮き立つ感じがなくなってしまった。それが大きい。目の前に広がるのはあまりに平坦で茫洋とした荒野の景色だ。
それと、就職すれば妻の和美から受け取る小遣いが増える見込みがある。小遣いは多い方がなにかといいに違いない。
九十九屋さんた さんの画像をお借りしました。
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