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連載小説『ヰタ・セクスアリス・セーネム』一章 グラビアアイドル(三)

 持参した受付票を出張所の受付の女性に見せて番号票を受け取った。平日の午前中なので混んでいないからすぐに番号を呼ばれた。何箇所がある窓口のうちの一つへ行って担当者の前に座る。
 受付票を渡して、本人確認のために生年月日を聞かれてそれにこたえる。通過儀式が済んだ。
 彼女がパソコンを操作して、勤務地や週の勤務日数などでしぼり込んで、検索をかけてくれている。何件かヒットしたらしい。
「こちら、なんかはどうですか?」求人票を渡してくれて彼女が説明する。「週5日午前中勤務、土日祝日休みですよ。年齢不問です……」マンション清掃業務をすすめてくれる。
「家でもあんまり掃除したことがあれへんから無理とちゃうかなあ」と順平は遠回しにことわる。「あと、午前中だけいうても週五日はきついですわ」だめ押しする。

 前の職場で、一旦定年退職後に再雇用でお世話になった順平。当初は、週五日勤務だったが三年後からは週三日勤務にしてもらえて楽だった。からだがそれに慣れてしまっている。
「清掃以外の仕事で、もうちょっと勤務日数が少ない案件を探してもらえませんか。たとえば、マンション管理業務の仕事やら」清掃と並んで高齢者求人の多いのがマンションの管理スタッフだ。
 何件か候補の求人票を出してもらったので、持ち帰って検討することにした。勤務日数や時間が少なければ当然給料もひくくなるし、通勤時間など細かいことも気になる。

 帰り道、順平は銀行で預金を引き出して帰ることにした。財布さいふの中身が心細くなてきたのを思い出したからだ。街へ出れば特に用事がなくてもデパートや本屋へ立ち寄ったりカフェに入ったりしがちだ。ちょこちょこ買い物をしたり電車賃やらでいつの間にか小遣いがあっという間に減っていく。通勤定期がなくなったこともけっこうこたえる。

 ビルの階段を上がって通路を進んでいく、そのときだった。順平はつまづいた。しまったと思ったがすでに遅く、バランスを崩して右肩から床に倒れ込んだ……。




mono236  さんの画像をお借りしました。


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