夏目漱石「カーライル博物館」

カーライルというのはイギリスの評論家、歴史家。
ドイツ文学を研究し、後に『衣装哲学』『英雄及び英雄崇拝論』などで物質主義を批判、英雄、天才の優越を説いた。

なお、「沈黙は金」は元々カーライル『衣装哲学』の言葉である(正確には「雄弁は銀、沈黙は金」)。

彼の住んでいた家が今は博物館になっている。それを漱石本人を思わせる「余」が尋ねる話。
ちょっとしたイギリス観光でもするつもりで読むといいようだ。

(追記)個人的には

四階へ来た時は縹渺(ひょうびょう)として何事とも知らず嬉しかった。嬉しいというよりはどことなく妙であった。ここは屋根裏である。天井を見ると左右は低く中央が高く馬の鬣(たてがみ)のごとき形をしてその一番高い背筋を通して硝子張りの明り取りが着いている。このアチックに洩れて来る光線は皆頭の上から真直に這入はいる。そうしてその頭の上は硝子一枚を隔てて全世界に通ずる大空である。眼に遮るものは微塵もない。

この、世を嫌った引きこもり思想家カーライルの立てこもった四階の部屋の描写が、カメラで撮ったように鮮やかなことに驚いた。小説に限らず、文章を書くときの見本になる。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?