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その音楽はどんなカタチで届くのか?

みなとまちのうたプロジェクト

鍵盤楽器と声を用いたアンサンブルユニットのmica+hachi。「みなとまちのうた」をテーマにした彼女たちの楽曲制作過程を音と文字で綴ります。
聞き手は、港まちづくり協議会の古橋、アッセンブリッジ・ナゴヤ(以下:アッセンブリッジ)音楽プログラムディレクターの岩田、アシスタントの了徳寺でお送りします。

第1回:はじまりのオトケシキ はこちらから


第2回:その音楽はどんなカタチで届くのか?


2019年10月。リサーチで港まちを訪れたmica+hachiが目にしたのは、地元の小学校の運動場で開催されていた港まちの運動会。徒競走で鳴り響くスターターピストルの破裂音におっかなびっくりだったmica+hachi(笑)。2人は並々ならぬ盛り上がりを見せる港まちの運動会の様子、それに興じる人々の活気に魅了されてしまいます。
そこで「この街が元気なのは、『みなと祭』があるから」と雄弁に語ってくれた地元学区の早川会長のお話がアイデアの種になり、ひとつのマッシュアップ(異なる二つの曲を合わせること)ピースが生まれました。一つは、港まちの人なら誰でも知っている「みなと区音頭」。では、それに重ねたもう一つの曲とは?


音頭にはならないんです


古橋
僕は最初この曲、携帯電話にイヤホンして、電車の中で聞いたんですよ。もう、1人でニコニコしちゃって大変でした…(笑)

一同
(笑)!

岩田
蘇州夜曲(昭和15年にヒットした映画「支那の夜」の劇中歌で知られる)ですよね。

mica
そうなんです。

古橋
アン・サリーさん?の曲にありますよね。

mica
あるある。有名なカバーです。

hachi
昔の曲ですが、いろんな方々がカバーされてますよね。

古橋
名古屋港で海を見ながら紅茶をいただく感じというか…。すごくいいなぁと思って。勝手な僕のイメージかもしれないですか⁉︎

hachi
紅茶なんですね(笑)でも、その通りかもしれない。

古橋
ちょうど今、レジデンスプログラムで港まちに滞在している人たちが、弦楽…?

岩田
弦楽四重奏ですね。パシフィックカルテットの皆さん。

古橋
そのパシフィックの皆さんは、「大名古屋音頭(だいなごやおんど)」っていう盆踊り曲を忠実に再現してくれていて。これが結構すごいんです。個人宅のダイニングキッチンみたいな場所で、鑑賞者はおばあちゃん2人だけみたいな(笑)。でも、その演奏がメチャクチャいいんです!ダイナミックで本当に贅沢。おばあちゃんも感無量…。

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だからそのイメージが頭にあったこともありますが、mica+hachiさんがアレンジした「みなと区音頭」も、勝手に盆踊り曲のアップテンポな感じをイメージしてたんですが、全然違っていて…。

岩田
さすが!と思いましたね。

古橋
どうして、ああなるんですか?みなと区音頭を聞いたときに、なぜあのアレンジが湧くのか?ということなんですが。

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hachi
(笑)!!
もう単純に「音頭にはならない」っていうのが、micaちゃんと私の中では、言葉にするまでもなくあったというか…。

古橋
音頭にはならない⁈

hachi
ならないです。

mica
ならないですね(笑)
なんとなく、テンポ落とすよね?みたいな感じで…。
以前別の曲をやっているときに、hachiさんに遊び弾きしてもらいながら、私が歌を乗せてみたことがあったんです。最初そんなのがあって、で、今回音源を作ろうってなったときに、「マッシュアップ」って言うんですけど、また別の曲を挟みこんでいくのをやってみたいな、と。
私もhachiさんも蘇州夜曲を前からオトケシキの中でやりたいと思っていて、「合わせるんだったらこれだよね」みたいな。
そしたらhachiさんが、「コードがこれならいけるいける」みたいになって。「じゃあこういう入れ方をしよう」みたいなノリで。それを聞きながら、「私はアコーディオンも入れてみようかなぁ」って。お互いにどうする?どうする?ってやりとりしながら作りました。


私たちの中にあるもと合わせる

古橋
その…「蘇州夜曲がやりたい!」っていうのは一体どこからくるんですか?

mica
私とhachiさんでこれまでにカバーしたことがあったというのもありますし、アッセンブリッジ にお越しいただく方々のことを考えてみたりだとか…。
お客さんに少しでも耳馴染みのあるものをやろうとしたときの、カバー曲として持っていたものではあったんです。

古橋
なるほど。
でもやはり、なぜその引き出しが、そのタイミングで開くのかについて関心があります。

mica
え?!(笑)
どの引き出しですか?

古橋
ココにソレが来るっていう(笑)

hachi
蘇州夜曲が来るってことがですか?

mica
私たちがこの街でやるなら私たちの中にあるものを合わせる方が面白いと思ったんです。

古橋
いや…もうその通りなんですけど(笑)
なんていうのかなぁ…。そこに見合うものを選ぶのってセンスですよね。
強いて言えば、、お年寄りに耳馴染みのある曲って他にもあるんですが、蘇州夜曲って、おそらくそれなりに若い人が聴いても、(たくさんの人がカバーしていることもあってか)古ぼけてない。むしろ若い人にさえ耳馴染みがあるっていう幅広い層をカバーする曲ですよね。
しかし、それが港区音頭に対して、引き出されるっていうのが…すごいなぁって。

岩田
異なる文化を掛け合わせるんだけど、それを考える人は、やはり自分が知っている何かと掛け合わせるんですよね。そこに何を持ってくるのかは確かにセンスです。

hachi
それがまさにマッシュアップですよね。

mica
良かった(笑)
私、最近ラジオでマッシュアップしたカバー曲が演奏されているのを聞いてワクワクを覚えたんですよ。で、蘇州夜曲に港区音頭って、普通は合わせないと思うから(笑)

岩田
考えない(笑)

mica
考えないでしょうね。だから、どうせやるんだったらやってみたいなぁと。
私がhachiさんに無理難題をお願いして(笑)

hachi
今年3月に中止になってしまった「オトケシキvol.2」(2020年3月14日には、「音景色ーオトケシキvol.2」コンサートを予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大により中止となった)では、蘇州夜曲を1回歌って、それからみなと区音頭に続くという構成を考えていました。でも今回の音源制作で、micaちゃんから新しくそのマッシュアップっていうアイデアが出てきたんで、「じゃぁ合体させよう!」みたいな。

mica
私も無理くり歌い入れたりして(笑)

hachi
あと、完成形を作ってから気づいたんですが、歌詞とのリンクも意図せずあるんですよ。水辺のまちの情景だとか、鳥が歌っていたりとか、思わぬところでミックスされていて、面白かったんです。

mica
最初は、ピアノだったんですけど、hachiさんの演奏を聴いて、「ウーリッツァー(エレクトリックピアノ)の音の方が合うから」ってお願いしたりして。

hachi
ピアノの段階ではもう少しクラシカルな印象でしたが、ウーリッツァーにしてまた違うアプローチになりました。
ピアノの段階ではもう少しクラシカルでしたが、ウーリッツァーにしてまた違うアプローチになりました。

mica
そうやって実験しながら、いろいろ構築していって…。

hachi
そうそう、変わって行った果てに今回の音源ができています。


いろんなシチュエーションを想像してしまう

古橋
今回の音源は、同じ場所で一緒に作られているんですか?

mica
はい。一緒に作りました。

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岩田
それでは即興的に作られていく部分も…。

mica
ありました。

岩田
ゼロから作曲されることもあると思うんですけど、今回はあるものとあるものを2人の中に取り入れてやられてますよね。

hachi
そうです。今回は、LIVE録音なんで、その瞬間の音がパッケージされてますね。

古橋
なんか面白いですね。

mica
お二人の反応がうれしいです。

岩田
私は「寝る前に聞きたいなぁ」とか思いましたね。

古橋
いいよね〜。

mica
ソレ!ソレ!(かけ声)いってますけど(笑)。

岩田
いやでも、ほら。宵祭(よいまつり)で屋台が出てて。ほろ酔いだったりして。その帰り道に遠くから聞こえてくる歌声…みたいな。なんていうんだろう?いろんなシチュエーションを混ざって想像してしまうような不思議な感覚がありますよね。

mica
LIVE録音なんですけど、後でいろいろいじれるような事は考えて録音しました。なので例えばキーボードの音を差し替えたりですとか、先ほど話した、後半のソーレ!ソレ!ソレ!をブラー(ぼやかす)にしたりだとか…。

古橋
いろいろ遊びを入れてるんですね。

mica
そうそう。最後のスパイスみたいなもので。
いろいろしてますね。


古橋
街の人が聞いたらどういう反応するんだろう?

mica
「気づかないんじゃないんだろうか?」って。それを心配してました。

hachi
そもそも音頭をやろうっていうのは、去年のアッセンブリッジのリサーチの時に、ちょうど学区の運動会をやっていて、それを見に行ったら早川会長に再会して。
結構衝撃を受けたんだよね(笑)micaちゃんは、あのような地元の運動会みたいなことって「経験したこともない」って言ってたよね。

mica
そう、そうなんです。

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mica+hachiがリサーチ時に訪れた学区の運動会


hachi
そのとき早川さんから聞いた「みなと祭」の話として、すごく印象的だったのが「3本進んで2歩進む」って言う流し踊りの話。それと、お祭りで仮装を楽しんでいる写真をみせてもらったことが記憶に残っていて。
そこから街中がお祭りムードになっていくイメージが、港まちをイメージしてときの土台になっていったんです。
そこにmica+hachiらしさを加えるとどうなるの?って考えたときに、まちづくりと同じで「新しいものと古いものを混ぜていく」っていう視点が見えてきて、これもある意味マッシュアップ?でしたね。多分そんなふうに発想が膨らんでいって、このアレンジにに辿り着いたんじゃないかって…。

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古橋
なるほど。でも、港まちでは、どこの町内にもこのアレンジはできないですよね〜(笑)

一同
(笑)

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学区の早川会長と


hachi
街の人が聞いてどんなことを思うのか興味があります。

mica
「これはみなと区音頭じゃないわね」って言われる気がして…。

古橋
でもですよ。例えば、みなと祭のダイジェストムービーとかを作ったとして、そのハイライトではなくて、余韻を表現する風景とか、つまり余白を表現するようなシーンに、この曲を差し込んだりすると相当いい感じになるなぁと。街の人には、それを合わせて見せたらいい。「あー」って、納得するんじゃないですかねぇ。

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昭和のみなと祭の風景

mica
あーなるほど!いいですねー。中止になった3月のオトケシキの企画段階では、港まちの懐かしい写真を使ったりして場づくりをするというアイディアがあったじゃないですか。だから私の中では、この曲は、そういうシーンに使われるつもりでいました。例えば、いろんな懐かしい写真を見て、お話をしたりした後で、それを踏まえてmica+hachiから音楽を届けるというようなシーンで演奏する、というような感覚で。

古橋
うわー!それいい!それは是非やりたかったですねー。

mica
いやーよかったです。本当にドキドキしてました。


やりとりの中から生まれる

古橋
蘇州夜曲は実際はもう少し長い曲なんですよね。これは少し短いですが?

mica
これに関してはこれぐらいの長さがちょうどいいなぁと思って。耳馴染みのある曲をアレンジしているので、それが何度もあると、逆にインパクトが弱くなってしまう。
だから、この曲は、これぐらいがちょうどいいなぁと思って。最初からこれぐらいの長さで行こうと思ってました。ライブの中でも写真を見たりした後には、これぐらいの長さがちょうど良いだろうって感覚です。
でも、例えばライブの中で別の組み立てをするのであれば、普通に蘇州夜曲を歌った後に、みなと区音頭とマッシュアップされたものを歌うとかも考えられます。それも一つの構成の仕方だと思いますが。

古橋
なるほど。そうやって、コンサートを組み立てるんですね。

mica
そうです。特に私とhachiさんの場合は、コンサートごとにどんな曲がいいだろう?ってすごく考えるので。


岩田
最初の金剛寺でされたオトケシキのコンサートのお客様をイメージしてと言われてましたが、蘇州夜曲を選んだとしても、それがみなと区音頭とつながるのって、やっぱり面白いというか。自然につながってミックスされていったんでしょうか?

mica
つながるとかは、あまり意識していないでピックアップしていて…。でもあるとき、ふとそれが「つながるじゃん!」って感じですかね。どちらかと言うと。

岩田
私は、お2人の中でのやりとりとか思考プロセスに興味があります。

hachi
「こうしよう、ああしよう」っていうのは、いっぱいやりましたね。

mica
どれくらいみなと区音頭が残っていると良いか?とか(笑)

hachi
どれくらい音を重ねていくと良いか?とかはすごく考えましたね。

mica
みなと区音頭で1番耳に残って、みんながグッとくるところって、ソーレ!ソレ!ソレ!のところじゃないですか(笑)その盛り上がりに向けて蘇州夜曲をどうやって合わせるといいかっていうことを逆に考えたりとか。


好きなシーンで聞ける音楽

岩田
クラシックの手法としては、もともとバッハ以前の時代から重ねるっていうのは当たり前の手法だったりしていて、バッハの後の作曲家が、例えばバッハの曲を自分の曲の中に入れるっていうこともあったりするんですよね。

mica
そうですよね。それ自体は特別な手法ではないです。

岩田
モーツァルトのオペラの中にも違う曲を同時に3つ同時に演奏する、貴族の踊りと市民階級の踊りと農民の曲を同時に演奏して、「階級を超える」という意図を表現したりだとか。だから、掛け合わせる手法そのものは、昔からありますよね。にもかかわらず、なんというか…。解釈って、後からいろいろ言えるんですけど、それが生まれるプロセスがやはりすごいというか、面白いですよね。
うまく言えないですけど、まだまだ新しいやり方がいろいろあるんだなぁと思って聞いていました。今日家に帰ったら、もう一回聞きたいなぁって思います。

mica
よかったぁ。嬉しいです。

古橋
それを聞いて、こういう風にやったら面白いなぁとか、こういうシーンで聞いたらいいよなぁとかが浮かんだりするっていうのは、もうその時点でとてもいいですよね。

岩田
それぞれの人がこの曲とどう向き合おうって考えられるというか、どう過ごすかって言うのを考えられるというか。好きなシーンを選んで聞けるっていうのがすごくいいですよね。
シーンを押し付けないとか。例えば音頭だったら、もう絶対踊るための曲ですよね。それ以外には用途があまりない。リラックスして聞いたり、紅茶飲みながら聞いたりとかって、音頭じゃできないですから(笑)
前回のお話のときも出てましたけど、その人の心の扉が開くって感じ?いいですよね。

古橋
前回の話つながりで言えば、コンセプトベースドの音楽っていうのがありましたね。それは、その音楽を受け取る人たちのことを考えることでもあるというか。それをすごく意識されているんだなぁと改めて感じました。

mica
例えば私が今年も六甲ミーツアートで参加させてもらった、照明のアート作品に付けたものがあるんですけど。作品も観てもらうにあたって、それをお客さんがどういう状態でご覧になるか、ということを考える必要があるんです。
事前の打ち合わせでも、これまでならたくさんの人が同時に来ていたのが、今年はコロナのこともあるし、少しずつ来るだろうとか。そして、その人たちは、ここで立ち止まるだろうね、みたいなことを話し合うんですよ。
そしたら、去年制作した曲は、もう少しビート(リズム感)があって、皆さんがワーっと上がるような曲だったんですけど、今年はテンション的にも、盛り上がるものではなくて、立ち止まって一瞬考えて作品を観るというような状態になるだろうなと。

古橋
なるほど。具体的だ。

mica
はい。そんな想像をすると、もう少し考えたり感じたりすることができる、隙間があるような曲がいいだろうって。そんな打ち合わせを経て、自ずと出てくる視点で曲を書いているのは確かです。それは既存の曲であろうが私の曲であろうがどちらも同じです。どういう形でその音楽が届けられるのかってことを考えている。
やっぱり主流として出ているのは音楽ストリーミングだから、みんながそこで新曲を発表してとか、ライブを無観客で、となりますよね。でもそれは、もうその人たちのバンドカラーがあったりだとか、この音楽を聴いてくださいっていう音楽側からのアプローチだと思うんです。
だけど、私が関わっているプロジェクトは、相互作用が大事だったりして。だから、どういう人たちがイベントに来るのかとか、作品を見に来るのかとかが気になりますね。

古橋
mica+hachiで何かするってときは、そういうmicaさんの発想をhachiさんが最初に受け止めるわけですか?そこにはどんなやりとりがあるんでしょうか?

hachi
私は私で思うアイデアがあって、micaちゃんはmicaちゃんのアイデアがあって、実際音を出しながら進めていきます。即興的に弾きながら作っていくことが多いので、今のよかった!って言ってもらっても、自分で弾いたことをもう覚えていなかったりするので(笑)、ボイスメモを残すことがとても大切です。一緒に音を出して、歌をのせて、だんだんとゴールに近づいていってますね。



言語化しながら考える音楽

古橋
後で気がつくとこんな意味があったって言う振り返りも面白いですね。

mica
そうですね。そういう発見みたいのが本当によくあります。

古橋
気づきや発見みたいなものや、さらには制作する側の人たちの意図みたいなものって言語化、しかもわかりやすく伝えることってとても難しいと思うんですけど、とても大切だと思うんです。それを敢えて避ける人もいるし、安易に解釈しないようにしている人もおられますので、やたらと誰にでも聞いたりはできないところもあります。
ただ、僕が聞く限りでは、西洋のアート専攻では、自分の作品のコンセプトを言語化することが強いて求められたりもするようです。もちろん限定的な正解ではなくて、開かれた解釈みたいなことが重要なんだとは思いますが…。

mica
確かにアート作品を見る場合でも、作家さんの話を聞いてから鑑賞するのって、とてもおもしろいですよね。建築も同じです。私の音楽制作は、そういう分野からの体験というか経験みたいものに影響を受けているのかもしれないですね。その作品の意図(≒コンセプト)みたいなものを、最初から言葉にしようとおもっているわけじゃないけど、制作段階から繰り返し繰り返し考えているのは確かです。

岩田
表現者がそのセンスを全開にして受け取ることって、きっとすごい情報量だと思うんです。そして、それをアウトプットする手法は、表現者によって様々だとは思うんですけど、例えば作曲家が制作した曲であれば、それは演奏家や鑑賞者がそれを追体験するんですが、その原点の作曲家の意図みたいなものを言葉として把握しておくと、その追体験の質って大きく変わってくると思うんです。

古橋
表現ツールとしては、アートも音楽も言葉もそれぞれに価値がありますが、より多くの人とのコミュニケーションするためのツールとしての言葉や言語化というのは、特に大事になってきているのかもしれないですね。

mica
わかる気がします。

古橋
港まちには、音楽家だけじゃなくて、たくさんのアーティストも訪れているんですが、スタジオプロジェクトなんかのアーティストと、彼らの作品を目の前に眺めながら、なんというか終わりのない語り合いみたいなことを何度かさせていただいたことがあるんですけど、それはもう本当になんというか、とても良い時間が流れて…。

hachi
すごく面白そう!

古橋
そして今、音楽にも似たようなところがあるのかなぁという感じがしているんです。

hachi
きっと、私たちも言語化してないだけで、すごくいろんなことを想いながら感じながら制作していると思う。演奏も歌も、あそこは〜みたいな細かい部分もきっと…なんというか身体が覚えてるんですよね。

古橋
昨年の愛知トリエンナーレでは、対話型鑑賞ツアーといって、鑑賞者が作品への感想を言語化できるようにお手伝いしてれる人と一緒に対話しながら作品巡りをするのが教育普及プログラムとして注目されてましたね。音楽でも同じようなことができるんでしょうか?

岩田
そうですね。美術の方が鑑賞教育って進んでるって言われてますよね。美術の対話型鑑賞の手法で音楽の鑑賞教育も生まれてきてはいるようですが、まだわずかですね。

hachi
「あなたは何を感じましたか?」という問いかけはmica+hachiの中でも、大切なテーマになってます。何を感じているの?って自分でも案外よくわかっていないことって多くて、言葉にしてみて始めて「そんなこと思ってたんだ」「そういうことを感じてたんだ」って、思わぬ事柄に気づくことがあります。そこから新しい見解が開く瞬間ってあるから、ある意味、カタルシス効果(言葉を通じて心を解放させること)みたいなところがありますよね。

古橋
えー、話そのものも思わぬ展開になってしまいましたが、なんだか面白いですね。音楽だけでない、いろんな分野に通じる大切なお話が聞けたような気がしました。

                          ↓次回へつづく。↓

           https://note.com/abn2020music/n/nc0ecf027e926

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プロフィール

mica+hachi/ミカハチ
mica bandoと長谷川久美子による、アンサンブルユニット。主に鍵盤楽器と声を用いる。音が作る空間、「まち」と「ひと」の繋がり、その瞬間に生まれる音楽を大切にするコンサート「オトケシキ 」を筆頭に、日本各地でコンサートやワークショップを行っている。

坂東美佳/mica bando
愛知県生まれ、東京都在住。
鍵盤楽器と声を用いてパフォーマンスや楽曲制作を行っている。2019-2020年六甲ミーツアート「ザ・ナイトミュージアム」、越後妻有「Gift for Frozen Village/ 雪花火」、2018年山口ゆめ花博「KiraraRing」「夢のたね」髙橋匡太作品音楽担当、2014-2018年パフォーマンスプロジェクト「SLOW MOVEMENT」他音楽担当、2018年オリジナルアルバム「Anonymoth」発表。東京芸術大学音楽学部ピアノ科・バークリー音楽院シンセサイズ科卒業。



長谷川久美子/Kumiko Hasegawa
東京都在住。
ピアノの遊び弾きから自然と作曲をはじめる。東京音楽大学作曲科 映画・放送音楽コース卒業。ピアノ連弾ユニットHands two Handsとして活動後、映画やCM音楽の作曲、アーティストへの楽曲提供やアレンジなどを手がけながら、池田綾子、松本英子、手嶌葵らのピアノサポートをつとめる。幅広い音楽活動の中、あらためて自身の音楽の原風景に立ち返り、2019年、1st.ソロアルバム「花を摘む」をリリース。




岩田彩子/Ayako Iwata
愛知県在住。
アッセンブリッジ・ナゴヤの音楽部門ディレクターを2017年より務める。生涯学習としての音楽のあり方や、演奏家の社会的繋がりに関心を持ち、コンサート企画や、音楽教育に携わる。

了徳寺佳祐/Keiske Ryotokuji
愛知県在住。
アッセンブリッジ・ナゴヤの音楽アシスタントとして2018年より制作勤務に就く。長久手市文化の家創造スタッフとして作曲・ピアノの業務にあたる。

古橋敬一/Keiichi Furuhashi
愛知県在住。
港まちづくり協議会事務局次長。学部時代にアラスカへ留学。アラスカ先住民族の文化再生運動に触れ大きな影響を受ける。帰国後、大学院へ進学すると共に、商店街の活性化まちづくり、愛知万博におけるNGO/NPO出展プロジェクト、国内および東南アジアをフィールドにするワークキャンプのコーディネーター等の多岐にわたる活動に従事。多忙かつ充実した青春時代を過ごす。人と社会とその関係に関心がある。2008年より港まちづくり協議会事務局次長として、名古屋市港区西築地エリアのまちづくり活動を推進している。






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