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「演劇の手法によるセールスの絶対教科書」

 私は社内の研修講師を担当し、導入研修をメインの業務として担当している。仕事の都合で、日本人と外国人の同僚が半々で、20代から50代まで幅広い年代が活躍している。
 このようなグローバルな環境で、一人一人とのコミュニケーション・スタイルが当然異なり、高いコミュニケーション能力が仕事に求められている。

 だが、私自身は、コミュニケーションする際に、少しでも面倒なこと(特に説得しないといけない場面)になりそうなときに、すぐにその状況から避けるタイプであり、無意味な口喧嘩や、無理やり自分の意見を通す場面から避ける人間だ。その結果、いつも自分から妥協し、コミュニケーション自体を諦めてしまっている。
 自分の特性が分かりつつも、仕事上では説得しないといけない場面があり、面倒な場面に直面しないといけないこともある。そのため、いかに効率よくコミュニケーションできるのかをずっと本や講座などを受け、また周囲の手本を見て学んでいる。

 先月、好きな芸人さんのYOUTUBE LIVEチャンネルで、今彼が読んでいる岡根芳樹さんの【セールスの絶対教科書】を紹介された。

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 LIVE配信中にすぐAmazonで調べていたが、すでに売り切れて、仕方がなく中古品を購入した。この本を届いていた日、ワクワクしながら開封したら、書店でよく見かけるビジネス書の文字配置ではなく、演劇用の台本のようなレイアウトだった。
そう、この本は他のビジネス書と違い、台本だ。

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 セールスマンになるためのノウハウやコミュニケシーションスキルなどもちろん紹介しているが、何より、舞台用の台本のため、声を出して読むのがこの本は一番の特徴だ。

本書のストーリーは大雑把に以下となる。


 現役高校生に1科目20万円もする大学受験用の高額教材を販売するセールスマン桑森は、いくら努力しても契約一つも結べず、諦めようとするときに、ブチョーというホームレスの不思議なおじさんと出会った。
 ブチョーの指導のもと、桑森がプレゼンスキルやコミュニケーションスキル、そして仕事に対する使命感に気づき、マスター・セールスマンに成長した物語。

 私は営業職についたことがなく、実際どれほど内容が活かせるかは私からは約束ができない。ただし、この本はセールスマンになる人向けの本だけではなく、自己成長したいあらゆる人が読める本だ。ここでは、「おお!そうなんだ」と個人的に感動したシーンをピックアップしてみなさんに紹介したい。

●「ちょうどよかった」という魔法のトーク

 本書の主人公である新人セールスマン桑森はアポをとり、訪問販売をするにも関わらず、「やっぱり子どもが興味ないって言っているから説明は結構」といつも門前払いをされていた。結局契約を一つも結べなく、セールスを諦めようとしていた。
 
 その時にブチョーというホームレスのおじさんに出会って、魔法のトークを教えられた。それは【ちょうどうよかった】。

 本書であげた例を見てみよう。


▶︎(ピンポ)
セールスマン桑森:あの、学習教材のニコニコ研究社です。
お母さん:あのー、悪いけど、子どもがやっぱり興味ないっていうのよ、だから今日の説明は結構です。

 一般人はここまで言われたら、もうそのまま帰ってしまうだろう。では、【ちょうどよかった】を使ってみよう。

▶︎(ピンポ)
セールスマン桑森:あの、学習教材のニコニコ研究社です。
お母さん:あのー、悪いけど、子どもがやっぱり興味ないっていうのよ、だから今日の説明は結構です。
セールスマン桑森:お母さん、ちょうどうよかった!実はそういう興味がないお子さんに渡す資料をちょうど持ってきていますので、ちょっと開けてもらってもいいですか。…

 もし、あなたはこのお母さんだったら、どうするだろうか。次に「何がちょうどうよかったの?」と聞きたくなるじゃないか。
 もし「ちょうどうよかった」ではなく、「でも、しかし、だけど」などを使ったら、どうなるだろうか。おそらくその後いくら話しても結果は門前払いされるだろう。

 お母さんの断り文句を相手からのパンチに例えとするならば、【でも、しかし、だけど】などは相手のパンチにパンチで返すことになる。相手が反撃される感覚を覚えるので、無意識的に心が閉じる。

 これに対して、【ちょうどうよかった】は相手パンチの力を利用してぶん投げる技を使うことになり、相手の言葉に同調する役割を果たしている魔法な言葉だ。
 そして、その後に、必ず相手は「何がちょうどうよかったのか」と尋ねてくる(もしくは疑問を持つようになる)ので、それは屁理屈でもいいので事前に準備しておけば大丈夫だ。

●「あほな」ルールで話し、相手を惹きつける。
 相手を同調したり、褒めたりすることで相手の心が開ける。ただし、それだけでは十分ではない。相手を惹きつけなければ、話が次に進まない。「あほな」ルールで話すと、相手を惹きつけられる。

あ・・・安心 相手を安心させる
ほ・・・本音 自分の本音を言う
な・・・理由 「なぜ」で述べる (相手にとって唯一な理由で述べる)

 私は最近医療保険を検討していて、保険会社の方々やFPの方と10人ほど話していた。10人の中で、うまい人の話し方は、最初はこの「あほな」ルールで話していた。ここで「あほな」ルールを使って、保険会社の人と相談する際の話をまとめてみる。

▶︎例:
「安心」・・・今日は弊社の保険を買うための時間ではありません。ご安心ください。お客様の家計状況に合わせていくつ商品をご提案させていただきますが、ご提案した商品が合わないようであれば、ご遠慮なく教えてください。お客様にとって本当に必要がなかったら、無理やりにお勧めしません。
「本音」・・・ただね、本音を言えば、お客様みたいな方はぜひ弊社のいろいろな商品を考えていただきたいです。
「なぜ」・・・なぜかと言ったら、お客様は現在ご自身の家計状況をある程度把握されていて、上手に弊社の商品を活用でき、お役に立てると思うんです。


 このように最初に話をされたら、「無理やりに勧めてこない約束されていてよかった。とりあえず商品ラインアップを聞いてみよう」とほっとして、安心していろいろと話が聞けるようになるのではないか。

●「失敗」に対する考え方
 ブチョーは桑森にあげる試練の一つとして、「ナンパしてきて」というシーンがある。それを受けた桑森は結果一晩で二人しかナンパしなかった。なぜかというと、桑森はナンパするなら成功させなくちゃいけないと無意識に思い込でしまっているからだ。「断れたらどうしよう、失敗したらどうしよう」という心理が働いてメンタルブレーキがかかった。

 私も仕事上でそうだった。上司から「〇〇プロジェクトをリードして欲しい」とか、新しいことを頼まれた際に、まずとんでもないプレッシャーが感じ、抵抗感を覚える。
 何に対して抵抗しているかというと、「せっかく私を信頼してこの仕事を任せてくれたので、成功しなくちゃいけない!でも今までやったことがないから失敗したら恥じゃん」という矛盾な心理が働いている。迷いに迷って、そこまで難度が高くない仕事でも、自分から断ったり、諦めたりはしていた。

 ここでは、逆転の発想でメンタルブレーキを外すことができると教えてくれた。「失敗」に対する常識的な解釈は二つある。それは「失敗は辛い」「初めは誰でも失敗するので、失敗は当たり前だ」というのは一般的な解釈だろう。
 ただし、この解釈の前提は「失敗は悪いことだ、してはいけないことだ」という価値観だ。「失敗は悪いことだ」という価値観を持っている限り、メンタルブレーキを外すことできないだろう。また、この価値観は子供のときから周囲に何度も何度も刷り込まれている価値観なので、そう簡単には覆すこともできない。

 第三の解釈で「失敗」を考えてみよう。それは「失敗は面白い」ことだ。
ドラマのシーンを考えてみよう。成功するシーンと失敗するシーンはどっちが面白いだろう。おそらく多くの人は失敗するシーンが面白いと答えるだろう。

 セールスも、新しいことへの挑戦も、自分の人生ドラマのワンシーンとして思い、初めからうまくやろうと思わず、むしろ逆で初めはドラマを盛り上げるために、わざと失敗するようにやってみようと。
 そうすると、失敗に対するメンタルブレーキを外すことができ、自分の自然体で新しい挑戦に対応することができる。
 失敗は自分の人生ドラマを豊かにしてくれる栄養素だという考え方が本書から学んだ。
 

 他にも、仕事に対する使命感は一体どのように考えれば良いのか、桑森は最後にどのように成長したのかなど、さらに面白いクライマックスの部分は文章量を考慮し割愛するが、ぜひ皆さんに読んでいただきたい。

きっと、主人公の桑森と一緒に、ご自身のコミュニケーションスタイルや人生を考え直すチャンスになると思うから。


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