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感想(1)『一三分間、死んで戻ってきました』

『一三分間、死んで戻ってきました~臨死体験と生きることの奇跡~』 旧友、吉村萬壱くん((芥川賞作家)が感想を送ってくれた。 その前に母の死などに踏み込んだ私信もくれていたのだが、転載していいか?と聞くと、それなら、外向けに書くと言って、まとめてくれた。

 『一三分間、死んで戻ってきました~臨死体験と生きることの奇跡』の著者・長澤靖浩氏は私の高校時代の同級生で、私は彼から文学や哲学の方面で大きな影響を受けた。
 もともと生きることの意味や実存の問題に大きな関心のあった長澤氏は、2013年に13分間の心停止によって臨死体験した後意識を取り戻し、その経験から人生の課題についての洞察を深め、本書を書くに至った。
 「完全に透明で静かな『永遠の今』でした」と語られる臨死体験の世界そのものは特に意外性を感じなかったが、「あの『完全な世界』のたったひとつ寂しいところは、この世に具体的にはたらきかけることができないということなのです」という一文には、経験者ならではの強いリアリティを感じた。
 身体を伴ってこの世界に在るということは決して当たり前のことではなく、愛し合ったり助け合ったりすることのみならず「対立したり、傷つけあったりすること」も含めて存在の奇跡なのだということが、著者の専門である仏教の教えも交えながら一貫して強調される。
 障碍を持つ仲間との活動や、母親の介護と死などのエピソードを読み進めるうちに、その「奇跡」はより一層実感を帯びて迫ってきた。
 死への恐れが減って生きる力が増える良書であると思う。大変真っ当なものを読んだ気がして、汚れで詰まっていた心のパイプが気持ちよく通った。   吉村萬壱


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