あべたかふみ

なんか色々やってますわ。 ジュークボックスのようなnoteにしたいであります。 ht…

あべたかふみ

なんか色々やってますわ。 ジュークボックスのようなnoteにしたいであります。 https://twitter.com/dirtyrockhero

マガジン

  • 木曜日の恋人

    SKYWAVE FMで毎週木曜日23時から放送の「東別府夢のDream Night」にて朗読されましたおはなしたちです。読み切りですのでお好きな所からどうぞ。

  • 音楽

    音楽の寄せ集めでございます。

  • 短編映画

    2009年〜 自主制作した短編映画でございます。

  • アルバム『素晴らしい世界』

    2018年10月頃から作り始めて2019年の2月に完成したアルバムです。宅録です。収録曲順にまとめてみました。シェゲナベイベー。

最近の記事

ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜52 『21世紀のスマートな恋愛事情』

 待ち合わせ場所についた蓮は、スマートフォンのYouTubeアプリでショート動画を見ていた。いくつかの動画を見たあと、Xを開き、タイムライン上の投稿を見て三つの投稿に「いいね」をしてから、贔屓にする職業野球の球団の公式アカウントが上げた、今夜の先発投手の画像が付いた投稿を「今日も勝つぞ!」と文言を添えてリポストした。そこへ、さくらがやって来て「おまたせ」と言った。二人は付き合い始めてひと月で、いかにも仲睦まじい様子で腕を組み組み映画館へ向かって歩き始めたのだが、それぞれがやり

    • ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜51 『木曜日の変人』

       泣きながら彼は言った。 「どうして嘘ばかりつくんだよ」 「え?」とわたしは答えた。  それがわたしたちの交わした初めての会話だった。  携帯電話もインターネットもない、ゆるやかに、けれど大きく時が流れていた頃の話だ。  わたしはまだ十代だった。  大学に進学し、東京で一人暮らしを始めたばかりで、世の中についてなんにも知らない子供だった。  そもそものきっかけは間違い電話だった。 どしゃ降り雨のある木曜日、夜十一時のことだ。彼は雨に負けないくらい激しく泣いてい

      • 我が懐かしきジョイラック

        古書店で本を眺めていたらエイミ・タンの小説『ジョイ・ラック・クラブ』を見つけた。これはアメリカで89年に発売され、93年には映画化もされた作品である。 背表紙に記されたこの『ジョイ・ラック・クラブ』という文字に、僕の胸は深い郷愁に打たれた。 と言って、この小説を読んだことはない。映画を見たわけでもない。 そもそもどんな話なのかも知らない。 ではなぜか。 VHSを使っていた世代の人には馴染み深い習慣だろうが、昔はどこの家庭にも「誰が使ってもいいビデオテープ」というものが一本は

        • 世話がヤケるぜ

          過日、自宅本棚の整理をしていた所、背表紙が日焼けしていることに気がついた。 それはまあ当然のことである。 南にある窓に対し、本棚は北にあり、日中カーテンを開けておけば日差しは本棚に向かって差し込むのだ。 嫌だな、と思った。「あずましくないな」と自分の故郷である北海道弁で思った。 うちの本棚は手前と奥の二列に置けるもので、手前には特に好きな本を置いている。つまり一軍。 奥は一部は署名本とか、そういう貴重な本で、あとの多くは二軍の本たちだ。 ではこの二軍を前面に持ってきたら大切

        ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜52 『21世紀のスマートな恋愛事情』

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        • 木曜日の恋人
          52本
        • 音楽
          33本
        • 短編映画
          7本
        • アルバム『素晴らしい世界』
          15本

        記事

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊿ 『楽しいショーがはじまるよ』

          「舞台の脚本を書いてみないかね」と友人に誘われたのが二年前。  それはちょうど僕が脚本を担当していた深夜ドラマが打ち切りとなった秋の頃。『公然のアッコちゃん』というそのドラマは、ネットにより透明化された社会で会社員であるアキ子がプライバシーを失っていくという、デジタル世界における危機管理を題材としたブラックコメディ作品で、僕の意欲作だった。それが打ち切りとなり、当然自信喪失。ネット上では好意的な書き込みもあったものの、ほとんどは酷評という波に攫われていった。 「とにかく書

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊿ 『楽しいショーがはじまるよ』

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊾ 『日本バンガル通信』

           近頃、若者たちの間でバンガルが再び脚光を浴びている。  これは大変驚くべきことである。バンガルは日本において忘れられた存在となって久しい。  私のようにバンガルの普及運動を行なっている者にとっては大変喜ばしいことである。  約半年前のことだ。  多くの若者たちに支持され、絶大な影響力を持つユーチューバーのチュー太氏が自身のチャンネルである「チュー太のチューチャンネル」内で「目指せ日本代表! マイナースポーツに挑戦」という動画を公開した。その動画内で取り上げられていた

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊾ 『日本バンガル通信』

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊽ 『橋の上の物語』

           私がかつて住んでいた所は、大きな橋がある小さな町だった。  人々は毎朝、徒歩や車でその橋を渡り、職場や学校へ向かった。  橋は一級河川の上にかかり、全長は五百メートルはあった。幅も広く、車が片側二車線走行することができる。歩道は約百メートルおきに外側に向かって半円形に膨らみ、そのスペースにベンチが設えられていた。橋のちょうど真ん中にコンクリート製の台座があり、鐘が吊るされていた。晴れた日は、鐘の向こうに富士山を望むことができ、そこで記念撮影をすることが、町の新郎新婦の慣

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊽ 『橋の上の物語』

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊼ 『きつね色に染まった日』

          「かん、かん」となにかが屋根を打つ音で私は目覚めた。時計を見ると午前八時四十二分であった。年末の激務から昨夜ようやく解放されて、今日はなにがあっても昼までは寝てやろうと思っていたのに、雨だかミゾレだか知らぬが、とんだ邪魔が入ったものだ。私は猛烈に腹を立てたが、なんとかもう一度眠りにつこうと目を閉じた。やがてその音は、「かんかんかんかん」と激しさを増し、「が————」っと凄まじい音に変わっていった。  これはただごとではないぞ、と寝床を飛び出しカーテンを開け外を見て、私は驚愕

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊼ 『きつね色に染まった日』

          落ち着け、こういう時はランジェリーを見て落ち着くんだ

           長いエスカレーターにて、私は左側に立っていた。 エスカレーター会社が、エスカレーターでは立ち止まり歩くのはやめてくんろ、と再三に渡り利用者に呼びかけておるが、右側は歩くために空けておくというのが今や一つの常識となっている。  私の右斜め前に、カップルなのか夫婦なのか男女二人組が、エスカレーター会社が推奨する正しい乗り方で立ち止まっていた。  すると後ろからカツカツと靴音を鳴らし、中年の男が世間的な常識に従い右側を歩いて降りてきた。  おじさんはちょうど私の横で前方を男女に塞

          落ち着け、こういう時はランジェリーを見て落ち着くんだ

          俺はどうすりゃよかったんだ

          十月の朔日のことであるがサザンオールスターズが行った茅ヶ崎ライブの映画館に於けるライブビューイングに行ってきた。 コンサートなどというのは現地で鑑賞するのが一等良いに決まっておるが、その次に良いのは大きなスクリーンと音響設備の整った劇場でのライブビューイングかもしれぬ。五年前、サザン40周年のコンサート「ちょっとエッチなラララのおじさん」も劇場でみてそう思ったので今回も行くことにした。 しかし今回は残念であった。 サザンオールスターズの演奏が良くなかったのか? 選曲が好み

          俺はどうすりゃよかったんだ

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊻ 『神宮でナイター』

          一回の裏  ずっと野球が嫌いだった。  子供の頃、テレビで読売巨人軍の試合中継があると父親が必ず視聴し、他のチャンネルにすることを許さなかった。僕には野球の面白さが少しも分からず、それがまず最初のきっかけだった。水曜日に放送していたドラゴンボールのアニメが、野球によって休止になることも嫌だった。それから、そうとは知らず入学した高校が何年かに一度、夏の甲子園に出場するような強豪校で、その学校の野球部員である、というだけで横柄に振る舞う野球部員たちが嫌いだった。  そんなわ

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊻ 『神宮でナイター』

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊺ 『ハウオリ・オラ』(後編)

           ハワイにやってきて三日後。わたしは三十歳になった。  誕生日の早朝、まだ薄暗い時間に目覚めてしまったわたしは、一人で歩いてワイキキビーチに向かった。ダイヤモンドヘッドの頂から朝日が顔を出し、まるで太陽がわたしの誕生日を祝福してくれているみたいに、街を照らし出した。波は穏やかで、ココナッツの香りを含んだ風がわたしの頬をなでた。生まれ故郷から何千キロも離れた場所にいるのに、わたしは今まさに、故郷で過ごしているような穏やかな気持ちだった。ハワイという場所には、そういった包容力が

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊺ 『ハウオリ・オラ』(後編)

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          私立べーあん高校 校歌

          夏の甲子園を見ていたら、自分でも校歌が作ってみたくなり、 『私立べーあん高校(男子校)』の校歌を制作いたしました。 歌・演奏:阿部 敬史 アナウンサー:min

          私立べーあん高校 校歌

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          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊹ 『ハウオリ・オラ』(前編)

           丁寧にサーブされた機内食を、わたしは感動と共に眺めた。  隣に座っていたエッちゃんは、そんなわたしの様子を見て言った。 「え、メーメー初機内食?」 「そうだよ。というか、飛行機だって修学旅行で沖縄に行った時しか乗ったことないし」 「そっか、海外がはじめてなんですもんね」 「うん。機内食って憧れだったんだよねー」  わたしは何枚も写真を撮ってからようやく食べた。  食べ終えた頃、機長のアナウンスがあり、飛行は順調で、予定通りあと六時間もすれば目的地のホノルル空港

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊹ 『ハウオリ・オラ』(前編)

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊸ 『溶けたアイスクリーム』

           八月のある日曜日。午後二時十六分。外気温36℃。  閉めたカーテンの隙間から差し込む光。ベッド脇の壁に葉影を映す。  エアコンの室外機が顫動し、建て付けの悪いベランダの床板がガタガタと立てる音。窓の外を子供たちが何事か叫びながら走って行く音。金槌が木材を打ち付ける音。車の音。もっと耳をすますと、通りを二つ隔てた公園から大勢の蝉たちが歌うラブソングが聞こえてくるのが分かる。それから、ベッドが軋む音。わたしが上げる声。彼の鼻息。  それがいまわたしたちを取り巻くすべての環

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊸ 『溶けたアイスクリーム』

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊷ 『愛しい人よ、笑っておくれ』

           恐ろしい疫病が流行してしまった。  そのウイルスに罹患してしまうと、高熱が出て、激しい倦怠感に襲われ、咳が止まらず肺に炎症をおこしてしまう恐れがあった。重症化しなくとも、場合によっては嗅覚が失われ、それにより味覚が無くなるという症状もあった。でもそれは大分マシな方だった。命を落とすことの次に恐ろしいのは、いや、ある意味じゃそれより恐ろしいことは、その疫病にかかってしまった人から「笑い」が失われてしまうことであった。この疫病に感染した者は皆笑えなくなってしまうのだった。口角

          ショートストーリー劇場〜木曜日の恋人〜㊷ 『愛しい人よ、笑っておくれ』