薬と宗教(エホバの証人)
血液製剤と宗教のお話です。
輸血は手術のとき、ヘモグロビン値が著しく低下しているときなど、医療上、治療を受けるうえでなくてはならないものです。
しかし、その教えにより、輸血を受けられない宗教があります。
それがエホバの証人です。
【エホバの証人】
エホバの証人とは、キリスト系の宗教で、国内では212,802人の信者がいるとされています。(2018年)
詳細は割愛しますが、
全血輸血は拒否、血液分画(アルブミン・免疫グロブリン・凝固因子・ヘモグロビン・ヘミン・インターフェロン)や透析などは個人の決定に委ねられるとされています。
医療における宗教の課題で確認すべきはその患者さんごとに厳格さには度合いがあるということです。
エホバの証人の輸血拒否に関しては有名な事件があります。
【エホバの証人輸血拒否事件】
宗教上の理由で輸血を拒否していたエホバの証人の信者(患者)が、手術の際に無断で輸血を行った医師、病院に対して損害賠償を求めた事件です。(1992年)
患者自己決定権の行使、説明義務、インフォームドコンセントなどの側面が問題となりましたが、
この事件は、最高裁までいき、最終的に患者側が勝訴となり、国(病院が国立のため)、医師が敗訴になっています。(2000年判決)
この事件をきっかけに、各学会で宗教的輸血拒否に関するガイドライン、未成年者における輸血同意と拒否のフローチャートが策定されました。
このガイドラインは日本輸血・細胞治療学会、日本麻酔科学会、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本外科学会が合同で策定しています。
また、各病院も対応に追われることになります。
各病院のホームページにも輸血拒否に関する対応が掲示されるようになりました。
しかしながら、実際の医療現場では教科書通りにはいかないものです。
こんな事例もありました。
24週の妊婦が破水してしまった。緊急帝王切開が必要な状況である。
帝王切開をするにあたり、輸血が必要になる可能性があるが妊婦はエホバの証人であり、輸血を拒否している。
また、児も未熟児のため、輸血が必要となる場合が考えられる。
妊婦は児に関しても輸血を拒否している。
リスクはありますが、輸血をせずに帝王切開をすることは可能です。
問題はその児です。
ガイドライン通りですと、親権者が輸血を拒否した場合、医療ネグレクト(医療的な虐待)として、親権喪失を裁判所に申請し、親権が喪失された場合ならば輸血を行ってよいことになっています。
自分の子どもに輸血をさせるか、親権を放棄するか、難しい問題です。
日本人は海外に比べると宗教に関する意識は低いですが、医療の現場では様々な患者さんがやってきます。患者さん一人ひとりと向き合い、話し合いを経て双方にとっての最善の医療が行われるよう願っています。
Jeff JacobsによるPixabayからの画像
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