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平壌(北朝鮮)に行ってきた時の話

「平壌のマラソン大会に出ないか?」

北朝鮮に行ったときの話を書く。

とはいえ、それは去年とか一昨年とかではなく2018年のことだから、いまはまた色々状況が変わっているかもしれない。それを念頭に置いて読んでいただきたい。

ちなみに「北朝鮮」という国はなくて、正式には「朝鮮民主主義人民共和国」だということはぼくも重々承知している。のだけれど、この文章の中でこの長い国名が何度も出てくるのもうっとおしいし、もっと言えば我々にとって馴染み深いのは、実は「北朝鮮」という呼称だったりすると思うので、こちらで行かせていただく。

ちなみに、かの国の人たちは自分たちの国のことを「朝鮮」か「共和国」と呼んでいたのを覚えている。

「平壌で行われるマラソン大会に参加しないか」と、友人に誘われたのだ。あ、一見「平塚」にも見えるけれど、当然「平壌(ピョンヤン)」である。そして、マラソン大会の正式名称は「万景台賞国際マラソン」。

万景台賞国際マラソンで使ったゼッケンと、完走後にもらったメダル(全員にくれた)

断っておくが、ぼくは別にマラソンが趣味でもないし、世界各地のマラソン大会にエントリーするのが好きなわけでもない。もっと言うとぼくは走るのが大嫌いだし、一生走らずに済ませたいとすら思っている。

のだが、ぼくはその誘いに乗った。何しろ「平壌の街中をマラソンで走る」ということに興味が湧いてしまったからだ。

ちなみに「どっちでもエエわ」と言われるとは思うけれど、あくまでフルマラソンではなくハーフである。それでも死ぬほどしんどかったのだが。

ぼくらの(そして、多くの日本人にとっての)北朝鮮のイメージは「独裁国家」「農村の子どもたちが飢えている」「食糧危機がヤバい」「その他いろいろヤバそう」というものだと思う。

ぶっちゃけ申し上げて、ぼくのイメージも同じようなものだった。

ただ、ぼくの座右の銘は「百聞は一見に如かず」だったりもする。テレビの報道だけで、全てを信じてしまうのも偏ってるんじゃないか。そう思って、思い切って飛び込んでみたわけだ。

北朝鮮って、どうやって行くの?

「そもそも、北朝鮮ってどうやって行くの?」と思う方も多いと思う。ぼくもそう思った。ところが、友人に言わせると「旅行代理店で手配してくれる」という。うそやん。

もちろん、J◯BやH◯Sといった大手旅行代理店に行って「北朝鮮に行きたいんですけど」と言っても「え?」という顔をされるのがオチだろうと思う。

ぼくは、友人が知っていた北朝鮮へ渡航するツアーを取り扱う旅行代理店を通じて手配をした。ちなみに、マラソン大会へのエントリーもその代理店を通じてフツーにできた。

北朝鮮に入国するルートはいくつかある(密航とか怪しげな船に乗り込んで、とかではなく)らしいのだが、往路は飛行機で中国の瀋陽に入り、そこで一泊。その後、瀋陽から平壌へ向かう飛行機に乗り換えて入国した。

復路は、平壌から鉄道で北京に出て、そこから飛行機で成田空港着、というルートだった。

帰路、平壌の駅にて。寝台列車で北京へ

「へえ」と思ったのは、パスポートの扱い。通常、海外の国に入国した際にはパスポートにビザ(ぼくのある友人は『ハンコ』と呼んでいた)を押される。そのビザが、入国審査を通過した証明になるわけだ。

ところが、中国から北朝鮮に入る際、ぼくたちは一枚の紙を渡された。そこに、ビザ(ハンコ)が押されている。要するに、入国時はそのビザを使って入国し、出国時にはそのビザ自体を回収する。実際には、そのことは出国時にわかったのだけれど。

これは、どういう理由かはわからない。そういう国が他にもあるのかもしれないし、特に理由はなく「その方が楽だから」かもしれない。

あるいは、日本と北朝鮮は国交がないから、入出国した証明を残さない方がお互いに「何かといいよね」ということなのかもしれない。そのあたりは、何とも言えない。

中国から北朝鮮に入国する際、もう一つ驚いたことがある。アングロサクソン系というか、明らかに欧米人が飛行機にたくさん同乗していたのである。

ちなみに後から知ったのだけれど、北朝鮮と国交を結んでいない国の方が少ないくらい、なんだそうな。一方で、北朝鮮の大使館がある国は世界中で13カ国しかないらしく、そのへんは何とも不思議なものがある。

「フツー」の国、北朝鮮

さて。北朝鮮という国に行ってみて、一番何を感じたか。

一言で言えば「フツー」だった。もう少し踏み込んで言えば「思っていた以上にフツー」だった。

もっとこう、街のありとあらゆるところに「偉大なる指導者」の肖像画とか、銅像とかが立ち並んでいて、人民服(は、中国か)を着た民衆たちが気難しそうな顔をして歩いている。そんな風景だと思っていたのだけれど、そうではなかった。

例えば、街並みは地味だけれどキレイだし、食べ物は美味しいし、民衆はみんな同じ服を着ているということもない。歌舞伎町にあるような派手なネオンや看板はないけれど、高層ビルもある。きわめて「フツー」だ。

マラソンを走っていても、それは感じた。

当時はネットのニュース番組でも取り上げられたらしい(友人がスクショを取っててくれた)

街中を走っていると、どこかへ向かう途中であろう自転車に乗ったおっさんや、歩いているおっさんがいた。我々が手を振ると、たいていの人は笑顔で手を振りかえしてくれた。中には、「急げ急げ、がんばれ」(意訳)とデカい声で励ましてくれるおじさんもいた。

子どもたちはぼくたちに「ハロー、ハロー」と声をかけ、ぼくらは「カムサハムニダ」と返す。そんなやり取り。

そこにあるのは、実は平和そのものだったのだ。驚くべきことに。

そうは言っても「不思議の国」北朝鮮

ただ、どう考えても「フツーではない」部分もある。

マラソン大会は陸上競技場からスタートしたわけなのだが、その競技場は人でいっぱい。まさに「立錐の余地もない」というくらい。

こちとら、マイケル・ジャクソンでもないしミック・ジャガーでもないのに、こんなに集まっていただいて申し訳ないというくらいである。

その時の映像が、こちら。

もちろん、有名な招待選手が出場するマラソン大会を見に来たのかもしれないが、それにしても、これを撮影したのは名もなき市民ランナーがぞろぞろとトラックを歩いているだけの時間帯である。

なぜ、これだけの人が集まるのかもわからないし、何を目的に集まっているのかもわからない。「集まっている」のか「集められている」のかすら、実際にはわからない。これは不思議だった。

もう一つ「フツーではなかった」ことを挙げるとすれば「一切の自由行動がNG」だったこと。空港に到着してから、ホテルに着き、マラソンを走り、終わり、出国するまで、必ず2人のガイドさんが付いて、車で移動することになる。

もちろん、観光(サーカスを見せてもらったり、地下鉄の駅を見学したり)もあるけれど、それも基本的には全てガイドさん任せ。こちらの希望を伝えれば、応えてもらえる(本屋に行きたいと行ったら、連れて行ってもらえた)けれど、自由に街中をフラフラ歩く、というのはNG。

買い物も、その本屋さんやホテルの売店などではできるのけれど、それ以外にちょっとそこのコンビニまで・・・というのはNGみたい(「みたい」というのは、ぼくがそこまでリスクを犯してチャレンジしなかったから。外出する際にはガイドさんに必ず声をかけてと言われていたので、どこかへフラフラ出かけようとは思わなかった)。

「正しい」とは何だろう?

何が言いたいかと言うと、我々は「自分が見聞きしていること」が絶対に正しいと思ってしまいがちである。でも、実際にそれが「本当に正しいか」はわからない。そもそも、ぼくが見てきたものだって、ある物事の一側面でしかない。

ぼくは北朝鮮に行って「え、思った以上にフツーの国じゃん」と思ったけれど、それはそれこそ「フツー」の部分だけを見せてくれていた、のかもしれない。さらにその裏側を覗いてみたら「マジでヤバい国」なのかもしれない。でも、それはぼくにはわからない。

ただ、ぼくが見てきた北朝鮮は本当にいい意味で「フツー」の国だったし、会った人や話した人はみんないい人たちばかりだった。ホテルの部屋が汚かったこともなかった(むしろきれいだった)し、何しろご飯が美味しかった(二度目)。

というわけで、ほとんどの人が足を踏み入れたことがないであろう「北朝鮮」という国で、マラソン(ハーフ)走ってきたよというお話を書いた。


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