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五七五の次を考えたくなる『絶対本質の俳句論』
苗字が同じ俳人は何となく気になる。歳時記で出会うと、ちょっと余分に目を通しておこうという気になる。僕の場合は、阿部みどり女、阿部青蛙、、、そして阿部完市だ。阿部完市の
すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる
草の中でわれら放送している夏
が好きだ。通称あべかん、本記事でも尊敬を込めてあべかんと呼ばせて頂きます。
そんなあべかんが『絶対本質の俳句論』という、インパクト絶大のタイトルの本を遺していた。鱗読書会で教えてもらって、すぐにポチった。
「絶対本質」なんてねぇ、なかなか言えないですよ。このタイトルはどうしたって「巷で言われているのは本質じゃないぞ!」的なニュアンスを醸し出してしまう。
自分の仕事で「絶対本質の〜論」なんて打ち出したら、ボコボコにされる未来しか見えない。それを俳句で打ち出したあべかん。シビれますね。
で、実際の中身はどうだったか?
タイトルに相応しい内容だったと思う。
「俳句とは、どういう詩なのか?」を論じ上げたように感じる。「次を求める詩」というのが、本書の答えだと思うが、そう答えるための論拠を、時間論、音韻論、定型論の3点から述べている。
いずれも古今東西の文献や実験結果から、論を展開していた。文献部分は読み飛ばしてしまったが、論の要所要所にあべかんの気合いが漲っているように感じる。
納得感のある言葉がたくさんあったので、以下まとめてみた。わかりやすくするために、本文をかなり編集していますのでご留意ください。
メッセージ1. 俳句は理性に頼らないものである
知的論理は拒否したところに俳句は出現する。例えば
「雪がとけたら何になるか?」
という問いがある時、知的論理によって導かれる答えは「水」である。
だが、感動を伝えやすい答えは「春」である。
日常生活を機能させるために知的論理は必要だが、俳句においては、句作も鑑賞も、知的論理を絶対に拒否しなければならない。そして知的理解を拒否して、心の直接の働きを基準にする以上、句作だけでなく選句や作品鑑賞も芸や創作となりうる。
俳句一行がひと筋だけの意味を示し、一義的にしか読み得ないとき、その一句は、言葉の本質からもっとも遠い業務用一行である。
《鶏頭の十四五本もありぬべし 正岡子規》
この句は子規庵句会での、長時間の意識集中の末に生まれた。19名による300句以上が作句された会の後半で作られたものである。
これは句座の共同的な無意識が、ふと子規の頭脳を通して姿を表した一句ではないか。そして元来、俳句とはそういうものではないか。ひとりの俳人が作ったことになっているが、共有の言葉や共感によって無意識が思わず洩れ、理性の向こう側へまたがるリズムとして俳句が生まれているのではないか。
メッセージ2. 俳句は直感的に把握するものである
私にとって一句は、一瞬であり、直感である。いきなり全体・全部である。
一口に嚥み下すことができる詩である。
メッセージ3. 俳句とは次を求める詩である
時間と同じように、言葉はいつも更新される。一語が現れたとき、書き手にも聞き手にも、新しい何かを与え加えてゆく。そして、その言葉自体が皆のものになり、大きくなる。
つまり、言葉は「新しい何か」をつくり続けているのである。そしてその「新しい何か」をたっぷりつくることができる言葉というのは、偶然によってもたらされる。
だから「感動に添って、もっともふさわしい言葉をえらんで、素直に書けばよろしい」などという言い方はまったくあたっていない。
感動を言葉にのせ続けたとき、ときに新しい、次の何ものかに突き当たることがある。俳句とは、その偶然の恩恵に預かるための活動である。
俳句は、五七五と読んだあとに、その次を呼び続けるものである。誰にでも声をかけて、鑑賞者からの無数の応答、感応を期待し続けるのが俳句である。次への門戸を明確にひらく、直感的な詩である。
連歌の発句から独立したという出生上、俳句は、「五七五」のあとに幻の「七七」を求める姿をとっている。ひどく不安定な形の詩形であり、補完や次を願うのが俳句なのである。その次なる思いへの飛翔を生むのが「切れ」である。
次とは「七七」であり、それに代わる想いである。真の「切れ」とは、鑑賞者に何かを直感させ、自らの思いをつけるように促すものである。
以上です。
本書の中で、あべかん自身が幻覚剤のLSDを摂取して句作するという、今では実現が難しそうな実験もしてたりするので、気になった方はぜひ手に取ってみください。
ありがとうございました!
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