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2023年の五大感動本

去年一昨年に引き続き、2023年に感動した本を5冊紹介する。

今年の感動のテーマは「よくぞ書いてくれた!」だ。今まで漠然と感じていたことや、全く思いもよらなかったこと、待ち望んでいたことについて読むことで、感動することが多かった。

たまたま海外の本に触れる機会が多めだったので、そうなったのかもしれない。では、参ります!


反脆弱性

『ブラック・スワン』で有名なナシーム・ニコラス・タレブの著書。

「すべてのものは変動性によって得または損をする。脆さとは、変動性や不確実性によって損をするものである」というアイディアを、あらゆる角度から語る。組織から個人まで、あるいは社会から人生まで、絨毯爆撃するようにあらゆる角度から語り上げる。

僕は現職が5社目で、サバイバルできるようになることを目指してキャリアを積んできたつもりだが、この反脆弱性を手に入れる方向に進もうとしてきたのだと、一定整理できた。

また技術界隈だと「不確実性」がキーワードとしてよく挙がるが、その不確実性を味方につける(敵に回さない)ためにも役立てられるだろう。頑健さの先へ行くための方針を、よくぞ書いてくれた!と思う。

ちなみに以前、共同研究レポートでご一緒した、WACULの垣内さんのポストがきっかけで読みました。垣内さん、ありがとうございます。

街とその不確かな壁

僕は村上春樹ファンで、新作は必ず予約している。

村上春樹の本を読んでいると、イチローを思い出す。あるいは宮崎駿。みな長い年月をかけて鍛錬を続け、孤高と呼ぶべき表現方法や技巧に到達している。

村上春樹の場合、それは「文章の滑らかさ」だと思う。複雑なことも、字面としてはスルリと読めるように磨き込まれている。そういう意味で、文芸という言葉は、村上春樹にこそ相応しいと考えている。

そして、この新作で村上春樹はその最高到達点を更新してきた。『街とその不確かな壁』は過去作品を再構築した作品だ。ファンにとっては、レベルアップした村上春樹が、過去書ききれなかったテーマを倒してくれたような気持ちになって胸熱だった。リマスター版をよくぞ書いてくれた!

パチンコ

日本に渡った韓国人一家の、四世代にわたる壮大な作品。Apple TV+でドラマ化もしている。

ルーツをテーマにした作品というのはいつの時代にもあるものだが、日本に移り住んだ一族について、ここまで話題になった作品は寡聞にして知らない。

今後、移民の増加が予想される日本にとって、この作品が登場したことは意義深いと思う。日本という国への移住がもたらす葛藤をよくぞ書いてくれた!

すごいのは、作者にとって馴染み深いはずの現代パートと、過去パートで描写の密度が変わらないこと。むしろ、過去パートの方がリアリティがあるようにさえ感じられた。作者は膨大な時間を時間をかけて取材をしたらしいが、その成果が存分に感じられる書きぶりだった。

あと本作や、『ザリガニの鳴くところ』の作者もそうだが、アメリカではいち職業人として長く生活してきた人が小説を書いて、文学的にも売上的にもいきなり素晴らしい成果を残すケースがある。そこにアメリカの底力を感じる。

ひとりの双子

白人になりすます「パッシング」にまつわる、双子とその家族の物語。

リズムの良い文体かつ、ミステリー的にストーリーが進むので、グイグイ読める。今年一番ページをめくりやすい本だった。

不勉強にして僕はパッシングという言葉を知らなかったが、この本を読んで、二度とその概念を忘れなくなったと思う。人種や肌の色が、個人レベルに及ぼす影響に関して考えたくなる一冊だ。原作は2020年3月に刊行されているが、BLM運動が盛んになるタイミングでよくぞ書いていた!と思う。

あと人種に限らず、夢や情熱など「捨てられないものを抱えて、何かになりすました」場合の心情も、パッシングに近いものが幾ばくかあると思う。そういう意味で、誰しもが自分ごととしてこの本を読めるのも面白い。

死すべき定め

「豊かに死ぬ」ことについての、外科医の作者の考察本。

本書は作者の3つの立場での経験を総合して書かれている。医師として看取った経験、同業者として各種施設を取材した経験、そして息子として父を見送った経験。

いずれも著者が医者として冷静かつ俯瞰的に、死の現場を綴っている。何か1つの明快な答えや、理想像が提示されるわけではないが、比較的満足そうな死を迎えるケースについて共通していたのは、「死に向けての準備や、変化する状況について都度率直な対話が行われた」ことだったと思う。

逆にいうと、その対話がいかに難しいか、元気な者が死にゆく者へいかにステレオタイプになってしまいやすいかを、克明に描いているとも言えるだろう。よくぞ書きにくいことを書いてくれた!と思う。

できれば家族みんなで読みたい一冊。


今年もよき本と出会えたことに感謝です。なお本記事はヤプリ Advent Calendar 2023 3日目に捧げます。本年もお世話になりました。Happy Reading!!

おまけ

感動本に選ぶかどうか迷った5冊

「経済人」の概念に足りないものについて、よくぞ書いてくれた!

チェコの若者世代から見た日本について、よくぞ書いてくれた!

忘れていた古代の神々について、よくぞ書いてくれた!

紙の本が要求する読書文化のマチズモについて、よくぞ書いてくれた!

京都のほろ苦い青春話を、よくぞ書いてくれた!

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