見出し画像

2022年の五大感動本

去年に引き続き、2022年に感動した本を5冊紹介する。

今年は情緒的な感動というよりも、新規性で感動することが多かった。「こういうものの見方があったか!」や「これとこれを組み合わせるのか!」という斬新さへの感動だ。

それは情報としての新規性もあれば、読書体験としての新規性もある。というわけで、「この本を読むと、どういう新しさに感動できるのか」でまとめていきたいと思う。

では、推して参る!

「読む」って、どんなこと?

読書論についての本だ。何気なく行っている「読む」。その「読む」という行為について、我々はどこで身につけ、どういうバイアスがかかっているのか?について考えさせられる。

読書論というと、情報の取捨選択や、思考の整理のための読書術を扱う本が多いと思うが、そうしたテクニカルな話ではない。個々の人間同士の対話の手段としての「読む」について語られた本だ。

この本を読むと、作者と一対一で向き合い、どこまでも個人の営みとして読書したい、という気持ちになる。

僕にとっては、「慣れ親しんできた読むという行為に、こんな奥深さがあったか!」という感動を覚えた本だ。大きな字で、100ページくらいなので、サクッと読めるのもありがたい(内容はサクッと済ませられないけど)

紹介されるテキストも面白いものばかりで、本を買って全文を読んでみたくなる。

嫉妬/事件

今年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの小説。

これは自伝的小説というジャンルだが、もはや小説ではない。研究論文だ。それくらい自身について、徹底的に観察して心理状態を描ききっている。

不思議なのは、これだけ冷徹に自身を見つめられる作者が、感情に突き動かされた人間の内面がわかるということ。作者の中で、完全に分離された2つの人格が存在するんじゃないかという気さえする。

「気持ちの昂りも、ひたすら冷静に描き続ければ、ここまで共感を生めるのか!」という感動を覚えた。ノーベル文学賞をとる作家は伊達じゃない。

聞く技術 聞いてもらう技術

今年、集中的に作品を読んだ著者が2人いる。1人が東畑 開人だ。

どの著作も面白かったが、中でもこの本は、今の時代の多くのビジネスパーソンに役立つだろう。3行で要点を伝えるならば、

  • 「聞く」は「聞いてもらう」に支えられている

  • 現代は、「聞く」不全に陥りやすく、「聞く」を回復する必要がある

  • 「聞く」は現実に直接作用しないけど心に作用する。それは間接的に現実を変える力になる

である。「自分のことを聞いてくれる人がいると、誰かから聞くことができる。だからまず聞いてもらおう」というのは何となくわかっていたが、言語化・意識化したことがなかったので感動した。

瓢箪から人生

もう1人、集中的に作品を読んだ著者が『プレバト!!』でお馴染みの夏井先生だ。

今年から家内と俳句を始めて、上達のために一通り夏井先生の本を読んだ。ついでにエッセイも読んだところ、これが面白かった。

この本が特徴的なのは、随所に俳句が織り交ぜられていること。そして、エッセイ部分との掛け合わせの効果で、俳句に感動できることだ。

自分には、単独の俳句に感動できるほどの鑑賞力はまだない。だが、この本は俳句で感動するための補助輪が豊富だった。だから、「俳句に興味があるけど、そもそも俳句で感動したことがない」という人はまずこの本を読んでみるといいと思う。

ちなみに僕は今年の夏休みに、俳句の勉強のために愛媛の松山まで行ってきた。夏井先生に俳句を見てもらったり、この本にサインをもらったりした。来年も趣味として結構俳句に取り組むと思う。

もはやただのファンですね

統計学入門I, 統計学入門II

データ職種としての今年の1冊。大学、大学院時代の恩師の著書である。

この数年間、先生は統計学の利用に関する重要な部分において、新たなスキーマを提唱してきた。その活動や苦労を傍から見てきた者として、この本を挙げずにはいられない。

少し長いが、2巻目のあとがきを抜粋する。感動した部分を黒太字にする。

 現状において,有意性検定を割愛し,初等統計の教程の大幅な変更を提案することは,即座に統計学の主流派から外れることを意味しています.組織における当然の力学です.たとえば原子力発電からの完全脱却論を主張した元総理大臣は即座に主流派から外れました.有能な与党の政治家や官僚は,現状を大筋で認めねばなりません.現実政策とは,日々山積する懸案を卓越した調整能力で解決し続けることです.原発からの完全脱却などという大幅な変更は,それが正しいか否かとは関係なく,短期的には与党の政治家や官僚の選択肢にはなり得ません.だから筆者は,自身の教え子たちには,頼まれたら有意性検定の講義をして欲しい,主流派に留まっていてほしいと願っています.
 ましてや筆者ごときが教程の変更を主張しても,短期的には,大勢は動きません.よくて「傾聴の価値は認めるけれど,あなたしか言ってない」と言われるのが関の山です.それでもなお,教程の変更を主張し続けることは大切です.大幅な変更を唱える非主流の改革者が一定数存在するからこそ,長期的にみれば大きな変化が社会に生じるのです.授業中に「少し前までは,電車や飛行機の中に灰皿があったんだよ」と言うと,今の大学生は信じられないと笑います.変わらないように見えて,変わるときには,時代は急速に変わります.深刻な被害が出ているのですから,再現性問題がこのまま放置されることはあり得ません.「論文の採否を,主に p 値が5%を切るか否かで判定していた時代があったんだよ」という笑い話が,授業中に語られる日が,きっと来ます.
(中略)
 「統計学入門」という書名の書籍を出版することは,20代の頃からの夢でした.国内外に類書が全くなく,しかも自身で満足できる内容の「統計学入門」は,自分にはとても書けないだろうと思っていたからです.夢が叶い,感無量です.

出典)https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=12272

最後の一文は、同じようなことを、いつか何かで自分も言えたらいいなと思う。

今年もよき本と出会えたことに感謝です。なお本記事はヤプリ Advent Calendar 2022 4日目に捧げます。本年もお世話になりました。Happy Reading!!

この記事が参加している募集

読書感想文

サポートされた者たちから受け継いだものはさらに『先』に進めなくてはならない!!