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Mイズムと緊縛の間に見えたものは「対等の愛」だった

仮題「ミルキイズムと緊縛のとき」



その日五反田は暑かった

いや、最近ずっと暑いらしい


旅も二度目

いつものホテルに荷物を預け

身軽になったら

待ち合わせの場所へゴー


駅から程なくの場所にある

隠れ家のようなレストラン

その前で待つ男女が

今回のランチオフのメンバーらしい


まだまだ時間はあるので

熱風まとわりつく中しばし待つ

一人、また一人と

最終総勢8名の男女で

イタリアンを食す事になった


自然と壁側が女性陣

広いフロアを背にして男性と

主催の方が席につく

各々頼むメニューに悩んでいると

右隣の可憐な女性が

ここはボリュームがすごいんです

だから少なく頼もうと思います

と、そっと教えてくれた

とはいえ

私は朝早起きしたまま

何も口にせず

リポビタンとユンケルを

新幹線で飲んだきり。


食べ切れるだろうと高を括って

ノーマルサイズを頼んだら、こう。



どーーーーん


なんか前菜も多い

デザートもボリュームある

部活帰りの高校生集団御用達かな?


咀嚼嚥下消化が麻痺して2週間

リカバリー食でなんとかしのいでいる

現状プラス

25年憧れ続けた人の前にして

ズルチュル貪れるほど

マッチョなハートを持ち合わせてなかった私

大量に残してしまった

大反省


かなりオープンマインドな

ミルキーウェイの星々は

親戚で会食した時みたいに

シェアしたり

つまみ食いしたり

味見したりと

なんだか距離感めちゃ近い


そんな中

憧れの奥様は

心を震わせる素敵な話を

一つ一つしてくれる

私にとっては感動でしかないし

ますます憧れは増し

エピソード毎に心が滲みていく


素敵な人の伴侶はやはり素敵だ

最終ご夫婦に会いたくて

縄会へ参加するのが目的だが

聞く話全てに憧れる

キモがられてもいい

好きだと伝えたい!

しかしココロとは裏腹に

まだ目がちゃんと合わせられない

ファン心理

裸眼で来ればよかったな…


今まで私は

かしずいて、おもんぱかって、耐える

が最上のM女だと思っていた

事後に疲れているのは

興奮のせいだと思っていたし

私の性格もあるからなーと

自分の方に答えを求めていた


違った


このコミュニティのスタンダードは

たとえ30分の緊縛の場であっても

「愛」が根底にある。

だから

パーソナルスペースが強固で

相当時間をかけないと

心開けないこの私が

さっきあったばかりの人に

縄をかけられている最中に

相手の腕に頭を預けるなんて

人生でも相当レアなことを

縛り手さんにしてしまっていた


ずっと私の表情を見ているのがわかる

肉の多い私の肌が挟まれていないか

何度も指をすべらせて

壊れ物のように丁寧に扱ってくれる

縄が体に触れて

少しでも快感として反応したら

そこを何回もリピートして

私を盛り上がらせ

唇から気持ちいいと言わしめると

すかさず

内ももを膝で踏み押さえ

快感で震えが来て顎が上がったあと

反動で頭が垂れたところに

腕が待ち受けている


私は何も考えなくていい

ただ

名前も知らない縛り手さんに

謎の安心感と全幅の信頼を寄せ

演技も盛りもしなくていい

縄から伝わる

強い充足感に浸ればいい

縄が大好きになった


実は

私が縛られたのは

縄会のあとのバータイム。


縄会というものに

生まれて初めて行ったのだけど

卑猥なことは一切なく

もちろんセクハラ厳禁

技術はもとより

相手との目線をしっかり交わして

受け手の少しの変化に気づくように

縛り手は細心の注意を払うこと

と説明された


今まで私が受けてきた縄は

男性の自己満足のための

縄でしかなかったんだーと

目から鱗の価値観に泣きそうになった


受講者の皆さんが緊縛に勤しんでる間

私と他の見学者は

カリキュラムを読んでいた

そう!カリキュラム!

この段階が完全でないと

次の段階には進めない

自動車教習所方式

チェック項目の欄には

受け手さんが記入するところもある

本当に、真摯に縄と向き合い

受け手と心を通わせ合う

大事な時間だと感じた


それと同時に

私はここの受講生の人と

お付き合いできたら幸せだろうなと

話を聞く毎に感じていた


受け手も縛り手も

同じ方向性を目指せるなら

性の価値観のすりあわせが

その点では完全一致すると思う

もし受講できなくても

この場に連れて来て

ミルキイズムに触れてもらい

その反応を見ることで

盲目になりがちなこの性格も

客観的判断ができる


実際に

見学に来た単独M女さんが

お付き合いに至ったパートナーを

連れてくることも多いらしい

私もそうしたい

我こそはと思われる方いらしたら

3度目のデートは都内なので

覚悟してくださいねー


ああもう2000字だ、

どこで切ろう…


縛られたあと、

差し入れのケーキをいただく

なかなか飲み込めなくて

かなり時間がかかったけど

とても美味しい時間でした



小休止のとき

奥様から質問された

「100%安全な緊縛は何点?」


安全という言葉に敏感な

職務についていたこともあり

無条件での100%の安全は

存在しえないという頭があるため

当初、言われた言葉が

1つの質問にまとまっていることに

理解が追いつかなかった


2つに分けるとしたら

なんとなくの答えは出るけど

全くベクトルの違う質問が

一つになっているので

聞き間違いなのかと思い聞き返したが

同じ言葉が返ってきた


100%安全な緊縛は存在するか

なら
無抵抗の生身 対 物質の組み合わせの時点で
答えはNOで


安全な緊縛は何点か

なら答えは100点


ただ

これらが一文にまとまると

NOが出ている時点で100点は

意味をなさない

だから

間を取って50点とかの折衝案は

答えではない

となると

出せる答えはこれしかなかった

『0点』


正解だった、

しかし奥様はそこに

ミルキイズムM女としての解説も

付け加えた

もしも

100%安全な緊縛が存在するとして

そんな縄受けたい?

私なら嫌だー


たしかに。

それは緊縛ではなく

荷造りの様相でしかない

安全に全振りするということは

その他求めるところに

多かれ少なかれ手が届かないだろう


私は長期パートナーに

身を預けたことがないから

私を相手してくれるだけで

御の字だ、という思いで

今までずっと

野良野良している


この考えは

一度誰かのものになり

揺るぎない関係性で

色んなことを乗り越えてきた

SM婚夫妻だから

導き出せた答えかもしれない

だけど


もしこの考えに賛同する

男性がいるのであれば

ミルキイズムに触れたことのない

男性と並んだ時

私は迷うことなく前者を選ぶだろう

それほどまでに

衝撃的な

意識転換となった夜なのでした。



全部が終わり

まったりムードな店内


あちらでは車座でUNOをして

ギャーワハハの空気

そちらでは

壁に背中を預け

カウンターを見つめながら

ポツリポツリと静かに語る

机のあるところでは

誰が聞いても特別なお客さんと

歴の長いベテラン勢が

真剣に話をしている

スタッフはその間を

忙しく行ったり来たり


まるで

大学時代、打ち上げのあと

誰かの部屋に押し寄せて

銘々に過ごしている

あの時の懐かしい感じ


この雰囲気を味わうために

今後も足を運ぶだろうなと

店をぼんやり見回し

みんなの顔を見ながら

そう思った。


第一夜 結

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