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ショートストーリー#1『少年の日々』

道徳の授業の最後に鶴を折ることになりました。だけど、僕は最初の二つ折りが綺麗に出来ません。先生は「じゃあまずは半分に折って」って簡単に言ったけど、どうしてもずれちゃって、だから何回も挑戦して、ようやく出来たと思って喜んで顔を上げると、先生はとっくに次の工程を説明していて僕は置いていかれました。

仕方ない、だから僕はジロジロ見ていると思われないよう、バレないようにそっと周りの子の動きを盗んで、今度こそは置いていかれないよう少しくらい雑でもとにかく進みました。

そしたら途中でいびつな鶴になるともう分かっちゃって、それがすごく嫌で、僕はもう一回紙を開いて初めから丁寧にやり直す事にしました。さっきまでの折れ線も残ってるし、開いた通りに、丁寧に戻せばきっと大丈夫だからと思っていました。でも、もっとひどくなって、そしてどんどんどんどんひどくなって、何回もやり直したら紙がぐちゃぐちゃになって、とうとう進め方を忘れてしまいました。

僕はとても焦りました。でも、そんな良いタイミングで先生がみんなに向かって「出来てない人ー?」と手を上げて聞いてくれたんです。

でも、僕は手を上げられなかった。

そしてぐちゃぐちゃになった鶴を、僕は机の中に隠しました。

その事が先生や周りの子にバレないように、教科書を開きました。もうとっくに鶴を作り終えて、道徳の教科書を読んでる人になりすましたからです。

鶴も折れない自分が悲しかった。手を上げられない、助けを求められない自分が悔しかった。そして泣きたくなった。


そんな時、バサバサッという音が机の中から聞こえてきたのです。

僕はびっくりして机の中を覗いてみると、さっき隠した途中までの、ぐちゃぐちゃな鶴が暴れていたのです。高く飛び立とうとしているのか、何度も机の中でぶつかって、バタバタバタバタ彷徨っていました。きっと僕がぐちゃぐちゃにしちゃったから上手く動けないのだと思います。とにかく、一旦机の中から出してあげようと思い助けました。

そして僕が鶴を机の上に置いた時、後ろの席のつばさちゃんが僕の肩を叩いてきました。

「ねえ、ひろきくん出来た?」

「いや、それがまだ出来てなくて、それに…」

「あ!良かったー、私もなんだよね」
僕の鶴が動き出したと素直に話そうか、話さないか迷っていると、つばさちゃんは少し嬉しそうに言いました。ただ、そう言われてもどうすれば良いか分からずに、つばさちゃんがキョロキョロしているのを真似して、僕もキョロキョロしました。

そうしていると、つばさちゃんの隣の席のたかしくんが、二人の方へ身を寄せて来て、

「ふたりとも大丈夫?ちょっと見せて見せて」

たかしくんは僕の紙を取りました。僕はさっきのように鶴が動き出さないか、そしてぐちゃぐちゃな紙について言及されないか考えて心臓の鼓動がうるさくなりました。

「はい!出来たよ」
それでもたかしくんはあっという間にニ人分の鶴を完成させました。僕が最初にぐちゃぐちゃにしたせいで少しだけ情けない形だけど、それでも立派な鶴にしてくれました。

「ありがとう」

僕は嬉しくて、鶴を机の上に置いて眺めていると、鶴はまたピクピクと動き出し、不器用ながらも蛇行して、大空へと飛び立って行ったのです。

雲ひとつない、青い空でした。

ショートストーリー『少年の日々』

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