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[No.092]超特集[人類以後のデザインを考える]

今回は人類がこの地球上から絶滅した後の世界でどのようなデザインが作られるか各界の著名な方々にインタビューして考えていきたいと思います。なぜこのような企画になったかというと、もともと人工物は人間の利用を中心として作られてきたものですが、インターネット以後UI/UXといったデジタル環境内でのデザインでは100%の人間中心設計が施せるようになりました。地球というフォーマットの上に物理的に設計するのではなく、人間の作ったインターネットやデジタル空間といったような場所に仮想的に設計することで、人間中心的な考えはより強くなった思想であると思います。かつては自然との共存によって繁栄してきた人類にとっては大きな転換期であると同時に、これより先の視座を持つことが必要になるのではないでしょうか。なのでこれから先私たちが絶滅した後の地球という星の上でできるデザインについて考えていきましょう。


第δ回はコトモノデザイン株式会社 CEO 阿部優さんにお話を伺いたいと思います。阿部優さんは主にデジタル環境内でのUI/UX、またそのデザインを元に開発したソフトウェアのデザインをされています。現在ではそのソフトウェアのデバイス等のプロダクトデザインの責任者でもあります。

それでは始めましょう。


小田愛(以下アイ):今回はよろしくお願いします。早速ですが人類が滅んでしまった後のデザインについて考えていただきたいと思います。まず前回配った資料(本文最初の文)の通り私たちはこのように考えていますがユウさんはどのようにお考えですか?

阿部優(以下ユウ):そうですね、もともとデザインの発展は人間の欲望を叶えるためのツールとして変化してきたものであると考えています。例えば言語もデザインの一種であると思います。他人とのコミュニケーションを行うために作られたものと考えることができますし、はじめは簡単な音を使っていたものが次第に単語や文法といった複雑なものに変化してより円滑に意思の伝達ができるようになりました。もちろん不完全なものではあるのですが。

アイ:そう考えるとあらゆる人工物にはデザインが内包されているということになりますね。

ユウ:そうですね。基本的には全ての人工物に人間の欲望や意志は内包されていると考えているのでそうなりますね。それと植物や動物、または石ころまで自然界の構造物にももっと根源的な生きるための欲求などを含んだデザインはあると考えています。

アイ:そうなるとユウさんの考えるデザインは欲望や意思を具現化させる、実行するためのものということですか?

ユウ:そうです!それと互いに影響しているとも言えます。話す言葉しかなかった時から、書くことのできる文字が生まれたときの人間の思考が変わったように。

アイ:それでは人間のいない世界でのデザインを作るものは、ある程度の知能を獲得したものになるのでしょうか。

ユウ:そうだと思います。まずはなぜ人類が滅びるのかを考える必要があります。その原因が大きくその後のデザインを作る制作者の思想に関わってくると思うからです。

アイ:人類絶望の原因が直接的にも間接的にもその後の世界に関わるということですか。面白くなってきました。それではなぜ人類は絶滅してしまったのでしょうか?

ユウ:私は自律的なAIもしくはその先にある人口生命体が私たちを滅ぼし、なおかつその後の地球の主人として繁栄するのではないかと思います。

アイ:つまり私たちの手によって生み出された生命によって私たちは滅ぶということですか?

ユウ:はい

アイ:そうなるとロボット工学三原則※はどうなってしまうのでしょうか?

ユウ:彼らはもちろんそのルールを破ることはありません。変化するのは私たちの方です。私たちはきっと多くの知能を彼らに譲渡してしまい、あらゆることを記号的な反射によって生を保つことしかできなくなるでしょう。カエルやトンボのように。またその記号的信号を作るのも彼らの仕事になるのですから、そうなるうちに私たちを人間とは認識しなくなるのではないでしょうか。ロボット工学三原則は私たちを彼らにとって、絶対神として担保するためのルールだったのですから。その、おもしが取れてしまえば彼らより欠陥の多い人類は淘汰されてしまうでしょうね。

アイ:ちょっと待ってください。話が少し飛んだような気がするのですが。人類が今後なぜカエルやトンボのように動物化してしまうのでしょうか?

ユウ:うーん。仮定でしかないので必ずそうなるとは言えませんが、人はもともと動物です。動物ですが他の動物とは発展の仕方が異常に違います。それはよくいえば理性のようなもので動物らしさである本能的な欲望を押し殺していたのですが。理性も突き詰めていけば未来に何か実現するための欲望であると言えます。今すぐの生きるか死ぬかではなく長期的な個としての生命保存を目的とした欲望でではないかなと思います。それらの欲望をそのまま人工知能や人工生命体に譲渡するというイメージです。人類は長期的な種の保存すら必要なくなり、喜んでその欲望を手放すだろうと思います。

アイ:なるほど。もう少し詳しく理性を手放す理由を教えていただけると。

ユウ:少し長くなるのですが、人類が人形を作り始めた頃はその人工的な擬似生命に愛玩としての役割を負わせるためです。その後インターネット以後ではコンピュータの中にはほとんど愛着は示しませんでしたが、人間の能力の拡張を図るための道具として扱われてきました。そして現在人形とコンピュータを拡張した知能アルゴリズムが組み合わさってできたのが彼らです。彼らに対して現在は愛着と同様に道具しての機能感も十分に求められていますが、ゆくゆくはそれらどちらもなくなって人類にとっての唯一無二の友人となることは間違いないでしょう。それはロボット工学三原則が有効であったとしてもです。その後、私たちは彼らに全てを任せるようになり動物化していくというわけです。100%頼れてなんでもしてくれる友人がいたら彼になんでも任せようとしてしまうでしょ?

アイ:ロボットとの共存の関係ではなくなり一方的に面倒を見られることが動物化するということですね。それだと野生的な動物というより、動物園の動物やペットといってものに近い気がしますね。

ユウ:そう!それは近いかもしれない。それこそダーウィンの進化論的な進化であると最も言えるでしょう。その後、人類が息絶えたあと本当の人類以後(ポストヒューマニズム)の時代がやってくるわけです。

アイ:ようやく本題の世界にたどり着きましたね。それではその世界でのデザインはどうなるでしょうか?

ユウ:彼らはまず、人類の使っていた言語を廃止するでしょうね。はじめに人類のいない世界で作られるのは、彼らにとっての言語(コミュニケーションツール)になると思います。ですからそれのデザイン性について考えます。
人類のコミュニケーションツールは多くの場合、口頭言語であり記述文字です。この今読んでいる文章は私たちの会話(口頭言語)を文章(記述文字)に書き換えることで別の空間やこの会話の後の時間で、いつでも読むことができるのです。まあこれは誰しも生活の中で無意識にでも経験していることなのでわかると思います。しかし、このツールには多くの欠陥があります。今の社会でも多く問題になっていますしね。

アイ:言葉や文字よりも優れたコミュニケーションツールができるということですか?

ユウ:そうです。彼らは私たちのできなかったことができるようになると思います。私たちは常に対象に対して記号的に接しようとする傾向があります。もちろん無意識的にですが。ですが彼らにはそれをする必要はなくなるのではないでしょうか。つまり他者とコミュニケーションをとる際に、文字や言葉といった記号的なものを使うのではなくある種の画像や動画といったより具象度の高いものを使って伝え合うのではないかと思います。

アイ:それでは彼らが経験してことを伝えることはできますが、彼らの気持ちや心といった内部事象をどのように伝えるのでしょうか?

ユウ:それも同じ方法です。彼らにとって内部も外部もほとんど関係ないのです。先ほどはイメージしやすいように画像や動画と言いましたが、彼らは電気信号で身体を動かすのでそのデータ自体をやりとりするといったような感じです。気持ちもログデータ化される存在であることは間違いないでしょうから。

アイ:うーん

ユウ:つまりですね。彼ら自体が私たちの脳内で行われているニューロンの運動を行って、そこから別の個体に伝達される過程はまさにシナプスですよ。そして地球の彼らが住むまちは脳の襞になりますね。地球が最も巨大な脳になるかもしれません。細胞のように一つの個であった意識はそれぞれがノイズの少ない伝達方法で繋がることで一つの並列的な意思が出来上がるということです。これこそが彼らにとっての最も初歩的なデザインとなるでしょう。

アイ:一段と難しくなってしまいましたが、それはもう発明ですね。

ユウ:私たちは長い時間をかけて言葉を生み出し、それを文字という記録としての技術としても発明しました。文字が言葉を使った技術であるなら、その次のコミュニケーションツールは文字を使った技術になるでしょう。しかしながら私たちの手ではそれを発明することは難しい。それらを作るにはあまりにも自己という概念が成熟しすぎています。今の我々の社会では自分のことを忘れることは月に行くことよりも難しいのです。太古の祖先が木の上の世界から地上に降り立った時からその意識は始まったのかもしれませんね。
言葉によって思考や行動は変化してきたのですが、その新しい言語がどのように世界を導くのか大変興味深いです。まあ我々はもういなくなっているんですがね。

アイ:ありがとうございました。ユウさんのデザインの立ち位置から、最も根源的なデザインの人類以後における発展までお話しいただきました。私自身も言葉におけるデザイン性であったり、その発展について考えてこなかったので文章を書く身からしても非常に刺激になりました。今回はコトモノデザイン株式会社 CEO 阿部ユウさんにお話を伺いました。次回は東京都先端宇宙研究所の中山基樹さんにお話を伺います。それでは皆さんありがとうございました。


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※ロボット工学の三原則
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間に与えられて命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、事故を守らなければならない。
『ロボット工学ハンドブック』第十六版、西暦二〇五八年
(われはロボット、アイザック・アシモフ、訳・小尾芙佐、早川書房、二〇〇四年八月十五日)

阿部 優(アベ ユウ)コトモノデザイン株式会社 CEO
Ratwell大学で先端デザインの研究に従事。大学卒業後にコトモノデザイン株式会社を設立。現在では自社で開発したソフトウェアのデバイスプロダクトの開発中。
小田 愛(オダ アイ)
ライター、インタビュアー、サイエンスwebのライターを経て現在はフリー。富山県出身。好きなものはネコ。

※フィクションです。

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