怒り
悩みは、怒りが変装したものである。
怒りは、変装が上手い。
悩むことの奥底には、あなたが表現することを止めた怒りが、ぐるぐると渦巻いている。
そもそも、怒りは偉大な感情だ。
怒りは、あなたが何を大事にしているかを、直接教えてくれる立派な教師だ。
怒りを知るから、あなたは自分の価値観を知る。
価値観を知ると、あなたがなぜ生きているのかという意味を知る。
意味を知れば、どんなに辛いことが起こっても、たくましく生きていける。
たくましい者は、真の優しさを他者に向けることができる。
怒り以上に、「あるがままのわたし」に真っ直ぐに繋がっている感情はない。
しかし、怒りほど、真っ直ぐに繋がっているが故に、上手く表現することが難しい感情もまたない。
なぜなら、下手に怒ってしまったら、あなたは誰かとの縁が壊れてしまうかもしれない。
自分に与えられている「恋人」や「妻」といった、社会的な立場を失うかもしれない。
怒りを表現することには、必ずリスクを伴う。
だからこそ、上手く表現することができたときには、あなたはとても生きやすくなれる。
肩の荷が、文字通りドサッと降りる。
その瞬間にあなたの背中に天使の羽が生えてくる。
…例えば、あなたが誰かにひどい扱いをされたとする。
例えば、約束を理由なくすっぽかされたり。
意味もなく、ひどい言葉を投げつけられたり。
その時、あなたは怒りを感じた。
怒りを感じても良かった。
しかし、あなたは無意識に「怒りを感じてしまった事実」に、怖くなった。
「わたしは、怒りを感じてしまった。」
「この怒りはどこに向かえばいいの?」と迷った。
本当は、あなたは怒りを相手に表現しても良かった。
怒りを上手く表現することで、新しく開かれる関係があったかもしれない。
しかし、あなたは、怒りを伝えるのが怖かった。
昔の私が、そうだった。
怒りを伝えようとすると、身体が異常にブルブルと震え出した。
自分の中に、違う生き物が入り込んでしまったかのようだった。
私は、弱い自分を感じるまま震えるしかなかった。
言葉を出そうとしても、どうしても出ないのだ。
震えの中で、自分がこのまま狂ってしまうのではないかと、とても怖かった。
今思えば、相手の存在に、いや、私の怒りに私が怯えていたのだろう。
怖さから逃げるため、あなたは怒りを表現することができなかった。
そして、心の底に深く抑え込んだ。
その深さは、底が見えない深い谷底のようである。
谷底に、あなたは怒りのタネを投げ落とした。
覗くほどにひどく恐ろしい。
下は真っ暗闇で、何も見えない。
谷のそばで、ただ震えるしかない。
抑え込んだものは、谷底で歪に育ち続ける。
まるで植物のように。
グロテスクに育った茎が、谷底から地表まで伸びている。
茎の先端には、おどろおどろしい花が咲いている。
怒りというタネから、悩みという醜い花を咲かせる。
悩みの花は、醜いけれど、ある意味では魅力的な見た目をしている。
本人は、なぜこの花が咲いたのかを忘れたまま、醜い花に見惚れてしまう。
見惚れているだけなのに、見惚れている時間に何か意味があるように感じてしまう。
見惚れている(悩んでいる)ことが、何かの運命であると、感じてしまう。
見惚れているうちに、若い時間がなくなっていくだけだというのに。
悩み依存症の人がいる。
何年も同じ悩みを抱えている人である。
その人は、何年も同じ悩みの花に見惚れている人である。
その人は、他者から「もう見惚れるのはやめなさい」と言われても、悩みの花を見ることをやめない。やめられない。
その人も、見ることに意味はないとわかっている。
しかし、悩みの花から目を逸らすことができない。
なぜなら、悩みの花に見惚れているがゆえに、本当に見るべき怒りのタネを見なくても済むからである。
悩みを見ている方が、妙な安心感を覚えてしまうのだ。
怒りのタネを見るのは、とても怖い。
幽霊を見るより、はるかに恐ろしい。
しかし、怖いままであると、その花を見たくないと言いながら、見ずにはいられなくなる。
悩みの花が、何もせず自然に枯れることは難しい。
あなたが日常の中で怒りを押さえ込むたび、知らないうちに怒りのタネに栄養を与えているからである。
悩みの花が枯れないのは、あなたが怒りの栄養を谷底に放り投げてしまっているから。
野に咲く美しい花に、水や大地、日光という栄養が必要であるように、悩みの花にもまた、怒りという栄養が必要なのだ。
栄養なき花は、枯れていくのが摂理である。
怒りをただ見ると、悩みの花は枯れていく。
自分はこんな風に怒っていたのだとわかれば、悩みの花はどんどんとしぼんでいく。
そのプロセス自身が、自然の摂理であり、努力のない理解である。
最後は、なぜ見惚れていたのかわからないほど、影も形もなくなってしまう。
怒りを、怒りのまま、あなたの中に見ることはできるだろうか?
消えない悩みというのは、消えない怒りのことである。
2023/12/27
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