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写真と何か。

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おしいつくつくが鳴きやむ頃には

「人間にも油野郎、みんみん野郎、おしいつくつく野郎があるごとく、蝉にも油蝉、みんみん、おしいつくつくがある。油蝉はしつこくて行かん。みんみんは横風で困る。ただ取…

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1年前
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夏になると聞こえる音

「夏の空には何かがある、いぢらしく思はせる何かがある、焦げて図太い向日葵が田舎の駅には咲いてゐる」(中原中也「夏の日の歌」より) 夏の訪れによって聞こえる音があ…

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いろいろな形の名も知らぬ葉

「名をすら知らぬ草ながら、葉の形見れば限り無し、さかづきの形、とんぼ形、のこぎりの形、楯の形、ペン尖の形、針の形。」(与謝野晶子「庭の草」より) 一歩、家から外…

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明るい世界に金色の渦

「孔雀は星の様に美しい瞳――然も銀の雨に打たれてぼつと滲むだ春霞の底から瞶めるやうな美しさで――顔を上げました。」(牧野信一「嘆きの孔雀」より) 光を見た後にま…

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その夜は影がほんとうに「見えるもの」になったのだ…

「恋すれは わか身は影と 成りにけり さりとて人に そはぬものゆゑ」(古今和歌集) 光によって生ずる「かげ」には、影・陰・蔭・翳などいくつかの語があります。 漢字の…

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1年前

拝啓、薫風の候。

「五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする。したたる空色の窓の下で、私の愛する女と共に純銀のふおうくを動かしたい。私の生活にもいつかは一度、あの空に光る、雲雀…

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運命がいかなる道を示そうと、ただその道を行かん

「Et quacunque viam dederit fortuna sequamur.」(Vergilius) 《運命がいかなる道を示そうと、ただその道を行かん》 75.32年周期で地球に接近する短周期彗星、後の「ハ…

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おしいつくつくが鳴きやむ頃には

おしいつくつくが鳴きやむ頃には

「人間にも油野郎、みんみん野郎、おしいつくつく野郎があるごとく、蝉にも油蝉、みんみん、おしいつくつくがある。油蝉はしつこくて行かん。みんみんは横風で困る。ただ取って面白いのはおしいつくつくである。これは夏の末にならないと出て来ない。」(夏目漱石「吾輩は猫である」より)

昼と夜の長さがほぼ同じになる秋分の日、その日を迎える頃になると夏にあれほど賑やかに鳴いていた蝉(セミ)の声の種類が少なくなってい

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夏になると聞こえる音

夏になると聞こえる音

「夏の空には何かがある、いぢらしく思はせる何かがある、焦げて図太い向日葵が田舎の駅には咲いてゐる」(中原中也「夏の日の歌」より)

夏の訪れによって聞こえる音があります。
蝉の声、虫の羽ばたき、夏鳥の囀り、蛙の声、風でこすれる草葉、風に揺れる風鈴、花火や祭りの響き…
そして、それらの夏の音に混じって鳴り始める踏切の音も聞こえてきます。
誰かが奏でた自転車の甲高いブレーキ音や電車の音、パトカーのサイ

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いろいろな形の名も知らぬ葉

いろいろな形の名も知らぬ葉

「名をすら知らぬ草ながら、葉の形見れば限り無し、さかづきの形、とんぼ形、のこぎりの形、楯の形、ペン尖の形、針の形。」(与謝野晶子「庭の草」より)

一歩、家から外へ出てみるとどこかにいろいろな形の葉っぱが見えています。
車やバスから降りるとその場所のどこかにも葉っぱが見えています。
歩いているどこかで、走っているどこかで葉っぱが見えています。
高層ビルの窓から見下ろしても、人が行き交う地下鉄の駅構

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明るい世界に金色の渦

明るい世界に金色の渦

「孔雀は星の様に美しい瞳――然も銀の雨に打たれてぼつと滲むだ春霞の底から瞶めるやうな美しさで――顔を上げました。」(牧野信一「嘆きの孔雀」より)

光を見た後にまぶたを閉じると、何やら明るいものが見えてきます。
金色の世界、あるいは瞬く虹の世界。
意識を集中して思い描く何かを想像すれば、描いたその姿が浮かび上がってくるようになります。
孔雀の姿を思い描いたのであれば、光の中から数多くの目玉模様を持

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その夜は影がほんとうに「見えるもの」になったのだ…

その夜は影がほんとうに「見えるもの」になったのだ…

「恋すれは わか身は影と 成りにけり さりとて人に そはぬものゆゑ」(古今和歌集)

光によって生ずる「かげ」には、影・陰・蔭・翳などいくつかの語があります。
漢字の「影」の成り立ちは、日の光を意味する「景」と模様を意味する「彡」(部首読み:さんづくり)であり、「影」そのものにも「光」の意味が含まれています。
春の日の光や日差しを「春日影(はるひかげ)」と呼び、「月影(つきかげ)」は「月の光」また

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拝啓、薫風の候。

拝啓、薫風の候。

「五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする。したたる空色の窓の下で、私の愛する女と共に純銀のふおうくを動かしたい。私の生活にもいつかは一度、あの空に光る、雲雀料理の愛の皿を盗んで喰べたい。」(萩原朔太郎「月に吠える」より)

ある町に流れる小さな川に架かる橋、ときおり橋を渡る人がその橋の半ばほどでふと足を止めて辺りを見渡す場面に幾度か出くわします。
不思議に思い同じように橋の半ばまで行ってみたら

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運命がいかなる道を示そうと、ただその道を行かん

運命がいかなる道を示そうと、ただその道を行かん

「Et quacunque viam dederit fortuna sequamur.」(Vergilius)
《運命がいかなる道を示そうと、ただその道を行かん》

75.32年周期で地球に接近する短周期彗星、後の「ハレー彗星」(1P/Halley)について予言したエドモンド・ハレー(Edmond Halley, 1656-1742)が、1692年にイギリス学士院(British Academy

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