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Time goes by

時の流れは早い。

数年前のことでも昨日のことのように思い出される。

思い出は全て儚く、色鮮やかで、そして美しい。


友人と解散して帰宅しようと夜の街を歩いていたら、偶然高校の同級生と遭遇した。

彼は私が高校時代に本気で好きだった人だ。

少し、心拍数が早くなった。

本気で好きだったけど、そうだったのは私だけで、彼は最後まで手に入らなかった人。

もちろん今は恋心はない。だが脳がその当時のことをそっくり呼び覚ますので、私は彼と話す時いつも緊張してしまう。


本当に偶然だったので相手もびっくりしたようだった。

相手はバイクの脇に立っていた。


就活の結果を軽く話した。

前に一度、就活の話をするために会ったことがある。

その時に、彼は大企業や、一流企業に行きたいと思っていると言っていた。

実際に選考を受けているところも、名の知れた企業だった。

だが、この日会った時彼が言うには、結局大企業に行くのはやめて、その上前に言っていた志望業界とも全く違う業界を選んでいた。

他の友人の噂で、その当時第一志望だったところの選考には落ちたと聞いた。

それも関係しているのかも知れないが、結局は、ベンチャーに行くことにしたらしいのだ。


数年前までは私たちは学生で、同じ高校に通っていたはずなのに、もう就職だ。

勤務地の影響で地元を遠く離れた場所に行くことが決まっている。

ついさっきまで高校生だった私たちは、もはや新たなステージにたとうとしている。

ついさっきまで好きだった人は、もう東京に行こうとしている。

ああ、これほどまでに早いのかと思った。

無常さを密かに呪った。

時間が、確実に流れている。



私が「何しにここにいるの」と聞く前に、

彼は「バイト終わりの彼女のことを迎えに来た」と言った。

「優しいね」とそう、一言告げた。

数年前の私がいたかったポジションを今、その人は簡単に取っている。

私が求めていたものが、彼の中にはなくて、

彼が求めていたのもが、その彼女の中にはあった。

それだけの話なのだ。

それだけの話なのだが。

やっぱり、少し寂しいと思わずにいられなかった。

バイトを終えた彼女が近づいてきた。

私じゃダメだった理由が、なんとなくわかった気がした。


時間が経つと、何もかも変わって行く。

時間は無情にも、私たちの間をすり抜けてその実態を変えていってしまう。

あの時、私が好きだった人は、もうどこにもいない。

想定外の彼女がいて、想定外の就職先に就職する。

性格も丸くなり、かつての鋭さも、やんちゃさも無くなってしまった。

私はそこが好きだったのに。

今の彼にはもう、私が彼を好きだった時の面影はなかった。



時間は無常で無情。もう巻き戻せない。



2人を乗せたバイクが私の横を通り過ぎた。

走る車のライトがやけに煌いて見えた。

Time goes by.

その言葉が思い浮んで離れなかった。





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