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デザイナーを旅に誘う5冊

読んでしまったがために、あちこち旅して回る羽目になる本があります。実際に私(中森)がそのようになった本をここで紹介したいと思います。

『日本の民家』 二川 幸夫, 伊藤 ていじ

建築写真家の二川幸夫がそのキャリアを始めるきっかけになった1950年代の日本の民家の写真集。茅葺き屋根が作り出す曲面や梁が縦横に走る屋根裏といった日本民家の力強い造形をダイレクトに捉えています。当時の田舎の写真を見ると同じ国とは思えないような幻想的で不気味な雰囲気を漂わせています。この写真集に載っている民家は今もわりと保存されていて、岩手の遠野、愛媛の外泊、瀬戸内の塩飽諸島など古本屋でこの本に出会わなければ行くことがなかったような場所を訪れるきっかけになりました。

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『孤独の洗礼/無の近傍』 ポール・ボウルズ

「私はいったことのない場所を訪れるたびに、そこが自分の知っている場所と出来るだけ違ってくれれば良いと思う」
モロッコのタンジールで人生の大半を過ごしたアメリカ人作家ポール・ボウルズの旅行記。スリランカやトルコ、モロッコ、アルジェリアといった国々についてきめ細やかな人間観察でもって5,60年代の変わりつつあったそれらの国々に眼差しを向ける。この本のハイライトが「孤独の洗礼」と呼ばれる夜のサハラ砂漠で受ける体験についての章で、それが人々にもたらす不可逆的な変化の恐さと魅力を見事に描写しています。

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『インド建築案内』神谷 武夫

ヒンドゥー教、イスラム教、仏教、ジャイナ教、シク教など数多くの宗教に広大な国土が持つ気候のレイヤーが加わって生まれた多様なインド建築をわかりやすくまとめて紹介してくれる一冊です。この本を手にしてから2度インドに行きました。著者が「インド建築の最高峰」と評するラナクプールのジャイナ教寺院は石を木材のように組み上げた建築で、他のどんな場所でも見られないようなその空間の広がりは忘れることができません。神谷さんのサイトはインド建築だけでなく、イスラーム建築やアルメニア建築のコンテンツも充実しています。http://www.kamit.jp/

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『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

この本ではヴェネツィア出身の商人マルコ・ポーロがモンゴル帝国の皇帝フビライ・ハンに対して語るというフォーマットで様々な都市を描写していきます。ただしここで語られる都市は実在するものではなく、都市が持ちうる様々な要素を自由に組み合わせてできたような架空の都市です。そこでは現実では起こりえないことがあたかも当たり前のことのように描かれることで、かえってその都市が実在しうるように思えてくるという面白さがあります。

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『The Story of Art(邦題:美術の物語)』エルンスト・H. ゴンブリッチ

西洋美術を中心にラスコーの壁画からモダンアートに至る歴史を辿る1冊。アートが社会変化から受けた影響や表現の変化、芸術家の系譜などがごく平易にわかりやすく説明されています。このような解説や推測を加えながらもまず初めに作品そのものの表現をつぶさに分析することからはじまるという姿勢が一貫しており、アートの楽しみ方を言葉ではなく態度で示してくれるような本です。さらに中世の絵画や、ギリシャのブロンズ像などあまり普段取り上げられることのないものも平等に言及されていて、芸術の持つ価値の裾野の広さと奥深さを感じさせてくれます。

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AATISMO 中森

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