見出し画像

桂望実著「終活の準備はお済みですか?」(KADOKAWA)


「終活」には伴走者が必要? 終活相談員に相談にくるひとたちとの5つのエピソード。
          ✳︎✳︎✳︎
「終活の準備はお済みですか?」と問われるような本のタイトルに、はたしてどれくらいのひとが、「済んでいます!」と答えられるだろうか。

「終活」という言葉は、すでに定番化した言葉であり、エンディングノートも身近に売られている。死に対して色々と準備をしておくことはとても大事なことだ。

でも、年老いた親には死を意識させるようで勧めにくいし、自分自身もまだ早いのでは、と思って避けてしまう。

これはきっと、「死」という側面から突き詰められると、死を考えるのが怖くなってしまうからだろう。

でも、この物語を読んで思ったのは、「今」という立ち位置から、まずは自分の人生を振り返ってみること、自分自身と対話をしていくことが、終活の核であり、始めの一歩だ、ということだ。

物語は、終活相談員の三崎清を中心に、終活相談にくるひとたちの話で綴られる。まるで、1話完結の連続ドラマを観ているような感じで、なぜか視覚的に頭に映像が浮かんでくる。

母を亡くし天涯孤独になった独身子なしのキャリアウーマン、兄が認知症になり大掛かりな人生の振り返りを試みる老齢の男性、人生計画通りにいかず仕事や介護に悩むシングルマザー、順風満帆な人生に突然、余命宣告を受けた30代の天才シェフ。そして、相談員三崎清自身。

読者は、いちばん自分に近い登場人物に思いを寄せてしまうだろう。わたしは、母を亡くし天涯孤独になった独身、子なしのキャリアウーマン鷹野亮子にいちばんシンパシーを感じた。

終活はやっておいた方がいいと考えているのにやる気になれない鷹野亮子。三崎清から、まずは自分の人生を振り返って、予想していた人生とどれくらい違っているか今を確認し、それから人生を見直して、先のことを決めていくように助言される。

鷹野亮子は、言われた通りに人生を振り返ってみる。苦しい気持ちになることもあったが、最終的には自分の人生を肯定的に受け止め、定年までに独身女たちの互助会を作る目標まで持つことができた。そのプロセスがほろ苦くも希望があり、わたしは勇気づけられた。

そもそも物語の狂言回しのような三崎清は、終活相談員のプロとは言い難い。リストラに遭い、ハローワークで紹介された葬儀会社に再就職するも、そこでもうまく行かず、葬儀会社の終活のアドバイスをする子会社に回された。だから、終活のアドバイスを声高に言うというよりも、自身も迷いながら生活をしている分、同じ目線で寄り添いながら話を聴いていく姿が良かった。

なお、「終活相談員」に興味を持ち、ネットで求人を調べてみたらわりと出ていて驚いた。小説の中にも書かれていたが、日本では人口も減り、葬儀にお金をかけなくなっている傾向があるという。そんな中、新たなビジネスとして葬儀会社は生前の終活相談を視野に入れているところもあるそうだ。

もしかしたら、数年後には、終活相談員という職業はメジャーになっているかも知れない。現実とフィクションがサーキュレーションする。わたしも終活を始めてみます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?