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【archive】2014.7. 被災地を巡るパリ・オペラ座のダンサーたち 

*バレリーナへの道vol.99 へ寄稿した記事です

6月初旬、衝撃的なニュースが舞い込んできた。パリ・オペラ座のエトワールが私たちのスタジオでワークショップを開催するというのだ。

知らせを聞いた時、バレエダンサーを志していた10代の頃に、オーレリ・デュポンとマニュエル・ルグリ主演のパリ・オペラ座版「眠れる森の美女」のビデオを毎日観ては、その豪華絢爛な舞いに酔いしれていた頃を思い出した。

バレエを始めてから早20年になるが、パリ・オペラ座は私の憧れの存在である。
ワークショップ当日までの約1ヶ月半、胸が高鳴る思いで、レッスンに励んだ。

待ちに待ったレッスン当日、35度を超える猛暑の中、福島市のバレエ教室はもちろん、いわき市や白河市など福島県全土から100名近いバレエを志す生徒が集まった。ジュニアクラスが始める1時間前から受講するほぼすべての生徒が集まりウォーミングアップをしている姿をみて、皆がこの日を心待ちにしていたことが伺えた。

ワークショップの講師については、エトワール・ガラに出演するダンサーのうち3名が講師として来るとのみ知らせを受けていたため、レッスンを受ける誰もが「誰が来るのだろう」と期待で胸を膨らませていたことだろう。

レッスン開始10分程前に、講師のダンサーを乗せたタクシーがスタジオについた時、子どもだちの惚れ惚れするようなため息が聞こえてきた。
現れたのはパリ・オペラ座エトワールのエルヴェ・モロー、スジェのローラ・エケ、そしてシュツットガルト・バレエのプリンシパルであるフリーデマン・フォーゲルだ。
ジュニアクラスはローラ・エケ、マスタ―クラスはエルヴェ・モローとフリーデマン・フォーゲルが担当することになった。
ジュニアクラスを見学したが、ローラ・エケがお手本を見せてくれる度に、皆が釘付けになっていた。
体の軸を保ったまま、腕の動きに併せて肩や首を大胆に動かしていくのだが、パリ・オペラ座のスタイルを強く彷彿させるそのエレガンスな動きに魅了されてしまった。
無駄の無い鍛え抜かれたダンサーを目の前にし、身を削るような思いをして、人の心を揺さぶるような地点に達するのだということを改めて感じた。
レッスン内容ではタンジュがとても多く、つま先をダイアモンドのように研ぎすませるように繊細に使ってとアドバイスがあり、美しい脚さばきが有名なパリ・オペラ座ならではレッスンだと感じた。
ジュニアクラスレッスン終了後に、スリムな体型のローラ・エケへ生徒が、空腹時に何を食べているかと質問したのに対し、好きなものをバランスよく食べるようにしており、空腹のまま踊り続けたり我慢をすると病気になるので、皆もちゃんと食べたい物を美味しく食べて欲しいと答えており微笑ましい気持ちになった。

私はマスタ―クラスを受講したが、エルヴェ・モローと、フリーデマン・フォーゲルが交互に振付けをし、バーレッスンとフロアレッスンが行われた。
男性ダンサーだが、やはり足先の動きがとても柔らかく繊細だったのがとても印象に残った。
シュツットガルト・バレエのフォーゲルは変則的なリズムや、背中の使い方を特に意識するような振付が多く、集中力を要するレッスンで、とても勉強になった。

レッスン終了後には、懇親会が行われ、パリ・オペラ座エトワールのドロテ・ジルベール、バンジャマン・ペッシュ、プルミエ・ダンスールのオードリック・ベザールが参加してくれた。
懇親会では憧れのダンサーと話を出来たことはもちろん、在日フランス大使の通訳等を務める三宅薫子さんや、レッスンのピアニストを務めて頂いた村木洋子さんとお話をすることができ、バレエを通して貴重な時間を過ごすことが出来た。
懇親会終盤に、ドロテ・ジルベール、バンジャマン・ペッシュがスピーチをし、その中で「過去を悲観せず、未来へ向かって前向きに前進して欲しい」と述べていたのがとても印象に残っている。

福島は2011年の大震災により、多大な被害を被った。原発の問題もあり、全く安心が出来る状態とは言えない状態である。そんな中で、今回のようなワークショップが開かれたことは、福島にとってとても意味のあることだと改めて感じた。
私自身はもちろん、受講したすべての生徒が、今回のワークショップを通して福島で生まれたこと、福島で育ったことに劣等感を抱くのではなく、不安が渦巻くなかでも、希望を持って何かに取り組むことが出来るということを誇りに思えるようなそんな時間を過ごせたはずである。
どんな時でも、夢とロマンを持って、生きてゆくことの大切や、憧れる想いは豊かな何かを心に残してくれるということを肌で感じた一日であった。
このような機会を設けて頂いた、在日フランス大使館、エトワール・ガラ実行委員の方々に感謝にするとともに、この貴重な経験を糧に、福島や東北を希望に満ちた場所にしていけるよう、日々力を尽くして精励していこうと思う。

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