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世界の水辺都市アムステルダムと福岡の水郷・柳川を比較したら、日本の観光に足りないものが見えてきた(写真多数)


この1年間、お仕事で福岡の「水郷」柳川へ携わっている天野です。
先日「世界の水辺都市の観光はどうなっているのか!?」実態を探るべく、会社の研修旅行でオランダの首都アムステルダムへ行ってきました!!

オランダといえば水車にミッフィー、チューリップなどが有名ですが、もう行ってみたらとにかく、それはそれは美しい屋外空間と水辺の観光の楽しさ、そして観光の整備がなんと素晴らしきこと!

今日はそんなアムステルダムと柳川市の、水辺の観光事情を比べてみようと思います。

△初ヨーロッパに浮かれるわし


数字で見るアムステルダムと柳川


柳川市は福岡県の南部にあり、福岡市中心部(天神)から電車で約50分。
太宰府や糸島と同じように、柳川も日帰りで行ける身近な観光地として人気です。

△柳川といえば「川下り」と「うなぎ」が外せない観光コンテンツ

お仕事で柳川の観光に関わることで感じたのは、とても素晴らしい場所であるということと、もっと観光客を楽しませられるポテンシャルがあるということ。
少々強引ですが、柳川の素晴らしさを皆様にも伝えたい&もっと柳川の観光を良くしたいという思いで、私の大好きな柳川とアムステルダムを比較させていただきます!!!!
まずは2都市の概要を比較してみました。

アムステルダムは人口が柳川市の約12倍、面積は約3倍。
福岡で言えば、久留米市に、今の2.7倍の人が住んでいる感覚です。
観光客数は1800万人と柳川の10倍。キャナルシティ博多の来場者数と同じくらいでした。

そして、驚くべきは運河・水路の全長です。柳川は「水都」と呼ばれ、その名を冠した観光列車も走っていますが、なんとアムステルダムの面積1/3の柳川に、9倍の水路(掘割と呼ばれる)が張り巡らされています。こんな都市はほかのどこにもなくって、柳川の最も誇れる特徴だと言えるはず。
でも、そんなビッグポテンシャルを持ちながら、観光客数がアムステルダムの1/10ってもったいなくないですか!?

△迷路みたい。柳川に張り巡らされた掘割(ほりわり)


観光立国に必要な4要素の比較


次に、「柳川って、観光地として発展していくには不利な条件なの?」という疑問を胸に、「観光立国に必要な4要素」を比較してみました。この4要素は、デービッド・アトキンソン著『新・観光立国論』から引用した、観光立国として高い評価をされている国が満たしている4条件です。
単位が国でなく地域だとしても、この4つが豊かであれば、観光地として発展していく優位性はかなりあるのではと思います。

・気候・・・ほどほどの気候で観光がしやすい、またはさまざまな気候があることで色々なニーズの観光客を受け入れられる(ウィンタースポーツを楽しみたい人やビーチを訪れたい人など)
・自然・・・都市では見られない雄大な自然や動植物、ガーデニングなどが見られる
・文化・・・その土地ならではの文化にふれられる歴史的建造物やエンターテイメントなどがある
・食事・・・その土地ならではの料理が食べられる

これらを見てみると、「気候」はアムステルダムは冬の日が短いので、その点は柳川のほうが優位だと言えます。

「自然」については、アムステルダムにはバチカン市国と同じくらい大きな公園があったり、花市が定期的に行われ、まちの至るところに花があったりして、都市の中の自然はとても豊かです。
一方で柳川は、「都市の中の自然」という意味では劣るかもしれませんが、季節によって楽しみのある花畑があるほか、とても綺麗な有明海の夕日も見られます。

△アムステルダムで一番大きな公園、フォンデルパーク

△こちらが柳川の有明海!私が柳川で一番驚いた光景です、ほんとすごいのですよこれ、遠くの方まで一面ずーっとこの眺め

けれど柳川がとてももったいないのは、この素晴らしい有明海の景色を見るには交通アクセスがとても悪く、どこをどう行けばここに辿り着くのかがほとんどわからない状態になっていること。
そしてここに来たとしても、なぜ海を向いてこんな建物が立っていて、向こうのほうに棒がたくさん立っているのか、なぜこんなにも海が干上がっているのかなど、柳川の特徴を伝えるものが何も整備されていないことです。

※この建物「くもで基」は、有明海の干満の差が激しいのを利用して、ここから網で魚をすくい取ることができる伝統的な漁法「くもで網漁」をするもの。向こうのほうの棒の下では海苔が養殖されている。有明海はものすごく干上がるために、ここで養殖をしている海苔は一時的に太陽にさらされることになり、旨味を増して美味しくなる

実際にここに車で行ける道を整備するのはとても大変ですが、例えば柳川の宿泊施設が、宿泊客にガイド付でここまでサイクリングをするオプションツアーなどをしたとしたら、とても高い満足度を得られると思いますし、柳川が誇るべき有明海苔の価値も伝わり、売上ももっと上がるのではないかなと思います。((少なくとも私はその情報聞くと絶対に有明海苔をお土産に買う!!))


次に「文化」です。アムステルダムは歴史的建造物だらけですが、それだけではなく、あらゆる「文化」が観光客を向いていて、きちんとその物語が伝えられるようミュージアム化されていました。
例えばGoogleマップを見てみるだけでも、ミュージアムの多さがわかります。チーズ博物館もあるし、ビール工場見学もできるよ!

対して柳川は、建築物としては旧柳川藩主立花家のお屋敷「御花」がありますし、柳川生まれの白秋が住んだ「白秋生家・記念館」などが整備されているほか、歴史ある神社も点在しています。
そして驚くべきは、「歌碑」が32個もあること!!!ただ、歌碑を批判するわけではないのですが、これを見ただけでは、全く知らない人にはその歌にどんな意味があるか、詠んだ人がどんな人なのかなどもわからないので、なかなかにコアなファン向けと言えます。

△市のHPより画像拝借、このエリア内では歌碑がコンビニの約3倍

そしてもう1つ文化と呼べるものとして、「さげもん」という、お雛様と一緒に飾られる伝統的な飾りびながあります。実はそれぞれのモチーフには1つ1つ意味があり、子どもの健康を願う気持ちが込められています。
春の「柳川雛祭り さげもんめぐり」の際には、一般の家も家びらきをして、まちにさげもんとお雛様を大公開するのですが、期間外のときには施設内に留まり、なかなかそれ以外の展開がされていません。更に言えばひな祭りは、同じ時期に福岡の他の地域でも行われていますし、毎年同じことを繰り返すだけでは集客力を高めるのが難しいです。(実際、今年の客数は減少)

△色とりどりの可愛いさげもん

例えばさげもん作り体験が御花などの施設内でもできるようにして滞在時間増にもつなげるとか、冬のひな祭りなどと題して、川下りの利用者が減る冬に、お雛様とさげもんを乗せた舟を特別運行したりしても楽しそうなんだけどなあ。川下りの舟に乗りながらさげもんを作ってみるのも楽しそう!


最後に「食事」ですが、アムステルダムにはご存知「ハイネケン」の旧醸造所がありミュージアムとしても開かれていますし、市内の飲食店ではさまざまなクラフトビールが楽しめます。オランダはチーズ大国としても有名ですね。

△マーケットで見つけたチーズ屋さん。お土産にも◎

柳川の食事も負けておらず、市内に20軒以上も「うなぎ」屋があるほか、ここでしか食べられない珍魚も多くある「有明海料理」、さらには久留米の城島など含む筑後地区という大きな地域で見れば、日本有数の酒どころでもあります。

△鮮魚店には有明海の珍しい魚介類が並ぶ

ただ、柳川市内の観光スポットが一番集まる沖端地区でさえ、うなぎ屋は17時や18時に閉店、長いところでも22時まで営業する料理店が2,3店舗のみ。当然飲食店以外の店も17時頃に閉まってしまうので、福岡のほうへ帰るか、ホテルに帰るかになってしまっているというところが、観光客がまちにお金を落とすチャンスを逃していて、とてももったいないのです。

宿泊率6%という数字にも納得してしまう!!!!
もったいないよ〜〜〜!!!!!!

本当は福岡県でもかなり大きめの鮮魚市場があって見学もできるし、朝市もやってるし、くもで網体験もできるし、かわいいムツゴロウ釣れるし、歴史的な神社も点在してるし、全国第2位の福岡県の麦生産量をむちゃくちゃ支えてる筑後の麦を使ったうんまいパン屋も行かないとダメだし、有明海の夕日も見ないとダメだし、夜のムーディーな掘割沿いをウットリ眺めて一杯やってほしい、みんなに!!!
もっと言うと漁師さんに舟にのせられて有明海にも出てみたいし、まちじゅうの掘割を自分でボートを漕いで探検したいし、川下りの舟に揺られながら音楽ライブを聞いたりしたい!!!!!
路上ライブスポット的な場所が、水上にもあったりしたら楽しいのにな!!

以上ここまで4要素を比べてみたけれど、結果的には「柳川は観光地として不利な条件ではない」と思う!


水辺のアクティビティ比較

最後に、大事な大事な水辺のアクティビティを比較してみたいと思います。
最初に特徴に挙げたように、柳川市内には「掘割(ほりわり)」という水路が張り巡らされていて、全長930kmもあると言われています。この掘割を使った川下りが、柳川の外せない観光体験。どんこ舟と言われる舟にのって、船頭さんの歌やお話を聞きながらゆっくりと移動します。

対してアムステルダムには運河があり、クルーズ船での運河クルーズが、同じく外せない観光体験として存在します。
これらを「値段」「食事」「営業時間」「ガイドサービス」「交通」「予約」「その他特徴」としてまとめたのがこちら。

まず柳川の川下りですが、2000円以下での体験で、それ以上の値段の幅はありません。予約をすれば川下りをしながらうなぎを食べたりも実はできるそうなのですが、その案内は川下りを運営する会社のサイト上にはなく、自社の運営するうなぎ屋の店舗内で食べるうなぎの値段がお得になるという、セット売りのコースが用意されているのみです。

これに対してアムステルダムのクルーズメニューは、音声ガイドつきのシンプルなもの(1時間およそ€16=2000円ほど)から、ディナーつきのもの、手漕ぎボート、オープンボート、バスでの周遊もセットにしたものなどさまざまで、値段も1万を越えるものまでありました。予算を抑えてシンプルにクルーズを楽しみたい人、運河上で少人数の仲間とお酒を飲みたい人、ディナーをここで楽しみたい人、自分で舟を漕いで好きな場所に行ってみたい人など、色々なニーズに応えています。時間も22時まで運行していて、駅前の乗船所には夜にはものすごい行列ができていました。
お金を落とすポイントがしっかりあるし、メニューが多様性に富んでいます。(なんとアムステルダムには運河のゴミを拾いながらクルーズをする「plastic whale」というのもあるよ!!まちはお金をもらって更に運河も綺麗になるという仕組み!素晴らしい)

△サインもむちゃくちゃわかりやすい

アムステルダムの運河クルーズを体験した中で特に驚いたのは、音声ガイドが19カ国語に対応していて、その内容がとても良かったこと。
柳川の船頭さんによる案内と比べて、イヤホンで聞く音声ガイドはいささか無機質な感じがするか?と思っていましたが、船長とのコミュニケーションもありますし、そんなことは感じさせないほどガイドが素晴らしい。

「ここは大金持ちの商人たちがたくさん住んでいる地区で、建物が大きく見えるように作られている」とか、「第二次世界大戦後に住居を確保するために居住用の舟が増えて、今でも2400人が舟に住んでいる」など、運河沿いの各地区の特徴や建築物の歴史にふれながら、人の暮らし方やまちの産業の話に至るまでを教えてくれました。フォトスポットではスピードを落として、全員が写真を撮れるようにもしてくれました。

△ここにイヤホンをさして言語を選ぶ

△みんな撮ってたフォトスポット

柳川で初めて川下りをした時には、私が体験したのが短いコースだったのと、調査目的で色々と細かな質問をしたからかもわかりませんが、どんな有名人が柳川に来たかや、川下りには食事の持ち込みがOKなこと、掘割はモーター付の舟でなければ誰でも舟やボードを使って周遊してよいというのを教えてもらい、あとは歌をいくつか歌ってもらったのと、スリル満点な橋や枝の下をくぐったということしか覚えていません。。。(楽しかったのだけれど、アムステルダムがそれをひょいと上回ってしまった)

後に知ったのですが、実は「掘割」の歴史は弥生時代にまで遡るほど古いとのこと!
もともと市の南西部一帯は海で、激しい干満の差によってできる干潟を、水はけするために掘割を作り、掘り上げた土を盛ることによって土地を陸化してきました。海を埋め立てた土地は井戸を掘ると海水が出てしまうため、人々は掘割へ雨水をためることで、それを飲料水や生活用水、農業用水として利用してきたという歴史もあります。掘割は手で掘ったので、漢字の手へんが使われているという話も、詳しい方から聞きました。
このすごさ・価値が観光客に伝わっていないとしたら、とてももったいない。
「楽しかったー!」でもよいのですが、せっかくなら記憶に残るように、「ここがすごいんよ柳川は!」と自慢したり、語りたくなるような情報も伝えてほしいなと思いました。

△観光スポットで自由に乗り降りできる「Hop On Hop Off」のボート

△舟を貸し切って自由にパーティーしてた人たち。舟という資源の用途がたくさんある

交通面でも、アムステルダムのクルーズが、コース中にある観光名所で自由に降りられるものがあるのに対して、柳川の川下りは片道運行で、基本的に乗り降りはできないようになっています。

メインの観光エリアである沖端地区から駅までは、約3kmと歩くにはキツい距離です。ここの間を移動するには川下りの舟に乗るか、あまり本数がない上わかりづらいバスに乗るか、タクシーを使うか、レンタサイクルを借りるかになります。駅から沖端地区へ向かう「行き」は川下りの舟に乗れるのですが、帰りは乗られません。

帰りも交通手段に舟を使えば、これが柳川のユニークな移動手段だよというPRにもなるし、どうせ空舟で川を上るところに舟は移動させているので、空舟がお金を生み出すようになり、一石二鳥だと思うのだけどなあ。


最後に


長々と書きましたが最後に。
ここまで比較してみて気づいたのは、
「お金を落としてもらうポイントを見落としている」
「色々な観光客のニーズに応えるための多様性がない」
「まちの歴史や施設についての説明が足りず、わかりづらい」
「交通の便が見落とされがち」

というのは、何も柳川だけに言えることではなくって、日本のあらゆる観光地に言えるよなあということでした。

帰国してから、文中でもふれた『新・観光立国論』を読みましたが、「おお、確かに」と言えるところばかりで、とても耳が痛い。
例えば「外国人観光客」をターゲットにするにしても、どんな年代の、どの国の人に来てほしいのかで打つ施策は変わるはずですが、私が携わっていた観光施策も、思えばその辺りに関してはざっくりとしたターゲットを設定しているだけです。自分含め日本の観光におけるマーケティングの弱さやコンテンツの多様性のなさを痛感しました。


そして最後に、長いけどこれもつづっておきたい。私がプロフィール文に書いている「消費されない観光をつくる」というのは、学生のときに何度か行った、陸前高田にある「奇跡の一本松」での体験から至った思いです。
そこでは大型バスに連れられたおばさま方がぞろぞろとやって来て、松のそばに着くやいなやピースをして記念撮影をして帰っていったという光景を見ました。

あらゆる場所が単なる「写真を撮って何となく終わる観光スポット」として、その裏にある歴史やドラマにふれられることなく消費される観光。旅行会社と交通会社にしかお金が落ちない観光。そんなのひでーな、と思ったのがきっかけです。
観光客に、「意識高い観光をしろ」と言っているのではありません。無邪気に楽しんだ結果でいいから、まちにお金が落ちてほしい。そういうしくみを作っていきたい。そんな思いでこれからの観光の仕事にも携わっていきたいな。

これからは今回学んだ視点もさらに取り入れながら、まちの課題を楽しく
解決できる方法を、引き続き妄想して形にしていきたいと思います。

では!

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