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〔掌編小説〕遅刻



 まもなく蝋が尽きる。ずいぶん遠くまできたものだ。しばらく歩いている気がするが、どこにも辿り着かない。数時間前、ふと気がつくと道の真ん中に立っていて、近くにあった燭台を手に取って薄暗い中を歩いてみてはいるものの、いかんせん出口も見当たらなければ、行きつく先もわからない。闇雲に歩くほど道の選択肢はなく、ただ真っ直ぐな暗闇が続いているだけだった。
 進む気力も蝋の灯りも消えかけたその時、なにかの声が聞こえた気がして耳に手を当てた。音は壁に反響しているが、妙にはっきりと、向かう先から聞こえてくる。行き先に何がいても構わない。この孤独と不安から救ってくれたら悪魔でも妖怪でもなんでもいい。期待は疲労に塗れていたはずの足の回転を上げた。自分の燭台以外が放つゆらゆら揺れているかすかな光をみつけたときには、やった、と声が漏れた。
 開けた空間では数人が円卓を囲んでいた。全員の前には蝋燭が置かれている。切れた息を落ち着かせようと、立ち止まって様子を伺っていると、一人が顔をあげて朗らかに話しかけてきた。

 「やっときたー!もー、おそいよ。遅刻じゃないか。みんな待ってるよ」

 お前、去年、死んだろ。

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