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〔掌編小説〕ファーストペンギン



 おいしいカレーを食べよう。この美しき地球が産んだ植物を使って、絶品の料理を仕上げるのだ。そう思い立ってすぐに、僕は飛行機に乗っていた。数年前に作ったパスポートがまだ使えてラッキー。最高のスパイスは日本じゃ手に入らない。暑いところへ、カレーの本場のインドとネパールへ。こうして苦労して材料を手にするのが最上級のスパイス、ってね。
 あらかた材料も揃ったところで、現地の人においしいカレーを食べないかと誘われた。たしかに、味のリサーチはいくらやっても足りないのだ。素直について行くことにした。街外れのビルの地下にどんどん降りて行く。灼熱の外気と違って、降りるほどに空気が冷えていく。どんなカレーに出会えるのか、ワクワクが止まらなかった。床一面に不思議な模様が描かれた部屋にたどり着くと、真ん中にある椅子に座るよう促された。さぞ特別なカレーなんだろう。どうやら料理が出てくるまで、目を開けていてはいけないらしい。ははあ、製造過程は秘密なのか。期待に胸が高鳴る。
 肩を叩かれて瞼を開くと、目の前の小さなガラステーブルには見るからに美味しそうなカレーが置かれていた。意気揚々とそれに手を伸ばすと、僕の周りを囲んでいた無数の男たちが一斉に跪き、手を合わせて何やら唱え始めた。僕が入ってきた扉付近には刃物を持った屈強な人間が2人いて、何かを待っているようだった。早く食べ始めろということか。
 匙でカレーをすくって、口に入れる。うん、まあまあだな。

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