見出し画像

東京で救荒食物を食べる

割れた腹筋。片耳にピアス。

「親父が自衛官で、家庭の方針で入隊させられたけれど、本当は美容師になりたかったんだ。
反対されたけれど、自衛隊を辞めて夢を叶えたよ。
そして、すぐ結婚して子どもができた。
知ってます?
若い頃の美容師の給料、すごい安いんですよ。
家族を養っていけなかった。
だから今この仕事で食っているんです。」


生きていくには食べなければならない。

ヒトが長い年月をかけて、ヒトの都合に合わせて改良した世界が現代だ。

植物も動物も、コンクリートジャングルも、この現代社会はヒトの手によって私が産まれる前から創られていた。

創られた自然は豊かで、歪だ。

注意

大きな川の支流の、さらに分岐した細い水路に足を思い切り突っ込んで流れに逆らってみた。

その水路はあまり綺麗ではないように見えるけれど、足を突っ込む人はいる。

もちろん怪我をする前に予測、予防したり、無理そうなら速やかに引き返すことは重要だ。

歩いてみてわかった事は確かにある。
経験をしないとヒトは本当の意味で理解をする事はできない。
だから歩いたことのない人の意見を気にする必要はないんだ。

そして水路にはたくさんの植物が生えている。
けれど、知らないものは口にしてはならない。

知識がなければ毒に当たる。

当たると具合が悪くなるし、治療するのは大変であるから、食べる時は徹底的に調べたほうがいい。

例えばすぐ近くの通りに生えている薄紅色...というよりは真っ赤な実のなるハナミズキは食べてはいけない。
私は若い頃に齧って中毒をおこした。
意外と庭のハナミズキに手を伸ばして中毒を起こした人は多いんじゃないかなぁ。

一見美味しそうなものでも、調べもせずに安易に食べてはならない。

お腹が空いている時ほど注意をしたい。

その植物に毒がなくても、ナメクジや生き物が付着しているかもしれないし、寄生虫や病原菌も気にしなければならない。

彼らは都合よく自生しているわけではなく、自分を守るために生きている。

注意しながら、コンクリートジャングルで食べれそうな物を探しに行こう。

山法師

人が絶え間なく歩き、車もひっきりなしに通る東京の中心部。
飲食店がずらりと立ち並ぶ歩道の街路樹が、秋雨とともに赤く実をつけた。

ブツブツしていて見た目の悪いサクランボがアスファルトに落ちている。

食べれるのかな?

率直な疑問が頭をもたげる。
気になると食べたくなってだめだ。
誰しもが備わっている本能だと思うが、危険性がないか最低限把握することは重要である。

インターネット検索はなんて便利なのだろう。

〔赤い実 木 9月 画像〕
...これだ。

【山法師】実は食べることができる。

やった。ビンゴ。
木の枝からもぎって割って食べてみると、モッタリとした食感で甘い桃を感じた。

"予想よりも遥かに美味しい。"

もっとエグみがあったり、苦かったり酸っぱかったりするのかと思ったけれど、純粋に甘いことに驚かされる。
一度認識すると、食材にしか見えなくなるのは不思議だ。

皮は食べない。
数個の種が入っていて、可食部は少なめ。

街中で食材を見つけられると、少し強くなった気がする。

どんぐりクッキー

"社会"はとてもうまくできているんだ。

長い時間をかけて、多くのヒトが納得する社会が作り上げられている。

ルールや掟、法律なんかは頭のいいヒトが集まって考えて、その上でさらにみんなで決めるから国が滞りなく運営されている。基本的には従うことが大切だ。

大きな川の本流を行く人達は、みんなが同じ流れに乗っているから水路に足を踏み入れないし、安易に道端の物を口にしない。

ただ、社会は救荒食として水路の端に食べることができるものを植えておいてくれている。
優しいなぁ。
それを知っておいて損はない。

救荒食物(きゅうこうしょくもつ)

あるいは救荒食(きゅうこうしょく)とは、異常気象や災害、戦争に伴い発生する飢餓に備えて備蓄、利用される代用食物。特に救荒食とする植物は救荒植物という。

サバイバル食というよりも、実際には日常の多様な構成食の一つであるという指摘がある。

wiki

ドングリなんかもそうらしい。

不思議だ。
拾い出すと、まるでそれが硬貨のような気分になって永遠と集められる。
ポッケにぱんぱんに詰まったマテバシイの実はアク抜きしなくても大丈夫である。

原始人みたいに石で叩いたり、コンクリートで踏んだりして割るのが簡単な殻の剥き方である。
家に持って帰ったなら、包丁は滑って危ないからペンチなどでミチミチ割る。

この作業は数時間かかってウケたけど、白い実を綺麗に取り出せると謎の快感がある。
女の本能かもしれない。

1日かけたドングリ粉をクッキー生地に混ぜ込む。
違和感なく美味しいから、試してみてほしい。

スーパーに行って100円くらい払えばクッキーは買えるけれど、そういうことじゃないんだ。

縄文時代のように全てが無料な世界ではない。
合理的な社会におけるどんぐり拾いは救荒食ではなく、ただ豊かだなぁと思う。

風化

「美容師を辞めてこの仕事をしたけれど、結局は離婚しちゃいました。」

彼は夢だった美容師を辞めて、お金のため就いた仕事を現在でも生業にしている。

多くの人は食べないけれど、食べてみたら美味しかったからなのかな。

わからない。

一見綺麗なコンクリートのクラックから染み出した水に触れた。

「頑張ったね。」と声をかけた。

おまけ

植物は相手を利用する時、美味しく無害になる。
お互いに利用し合う関係が自然の基本だ。
食べられることも、食べることも、絶妙なバランスで世界は創り上げられている。
そうでないと絶滅する。

自分を利用させなければならないし、相手も利用した方がいい。

そんな行動を自然に行っても、人工的なコンクリートジャングルではクラックが発生する。
早く修繕しないと、雨水が染み込んで内側から崩れてしまう。

サバイバルするには何を手に入れたいのか、そのためにはいつ、どんな所に行けば良いのかを知っておく必要があるんだな。


飲食店の立ち並ぶ通りで、気づかれず落ちて腐っていく山法師がたくさん足元に転がっていて、補修が必要なコンクリートがそこかしこにあって、今日もこの街は絶妙なバランスで成り立っているな。

この記事が参加している募集

つくってみた

本が欲しい