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私立G幼稚園 お受験体験記

2022年、私たちは幼稚園受験をしていた。
その時の体験を誰かの何かに役に立つかもしれないから、ここに記録しておこう。

そういえば、願書に使うボールペンの指定はされていないけど、指定されているらしい。ウケるよね。
指定していないという暗号。
それは、「ご自由な服装でおいで下さい。」と同じだ。

確かにボールペンにも太さや質感、いろいろある。
友人はわざわざ買いに行っていた。
さすがだなぁ。

私はわかっててそこらへんにあるものを適当に使った。
さすがでしょ?

目の前の児童館を活用する

11/5(土)9:30に幼稚園に集合というはがきが来た。
集合時刻30分前に家を出て、幼稚園の前にある児童館で開始10分前まで待つ。

G幼稚園は区立こども園の真向かいに位置する私立の幼稚園なのだ。
区立こども園は複合施設になっており、児童館も併設されている。
だから周辺環境に詳しければ、開始時刻まで遊びながら待つことができるんだ。
登録さえすれば、区外の子でも児童館は使えるからオススメ待機場所である。
受験前に子どもの遊びたい欲など、いろいろ発散できるしね。

受験会場の周辺に詳しい方がいいよ。

知ってるようで知らない世界

さて。
自由を謳歌する区立と、規律を重んじるカトリックは対極にある。

実は息子は、目の前の区立幼保一体型のこども園で生活していたのだ。

そして長女も、こども園と一体型となっている区立の小学校に通っていた。
だから教室からはG小学校と幼稚園が見えるし、小学生の特徴的な体育の授業も、学生は窓から覗くこともできたんだ。

G幼稚園のお迎え時には、全身紺色で身を固めた女性たちが列をなして歩く。

区立幼稚園に通っている立場の私は、わざとポテトチップ柄とか、ペコちゃん柄など絶対に相手の幼稚園の保護者が着れない服に、相手は絶対乗れない電動自転車でお迎えに行っていた。それをするのが区立の特権なんだ。

なんて区立は自由なのだろう

しかし受験日ばかりは紺のスーツに紺のバックを下げ、紺の靴を履き、髪をぴっちりと結わいた。
あぁ、懐かしの規律と秩序。
紺スタイルが多かった長女の時には多少息苦しくも感じていたが、思い返せば私は割と縛られるのも好きだったりする。

苦しさは記憶に残り、思い出とともに快感になるのだ。

G幼稚園へ

持ち物はスリッパ、受験票、上靴のみである。

服装は一般的なお受験スタイルだ。
短パン、短白ソックス。
少し肌寒かったので白の長袖、紺のベスト、その上にジャケットを羽織った。

保護者1名と受験者が手を繋いで警備員さんに挨拶すると、受験番号と名前を訊ねられた。

保護者2名で来ると受付で1人追い返される。
ごめん夫。さよなら。

園庭にある小さなブランコが花壇で囲まれている。
その脇の石畳みを通り、スコップが並ぶお砂場を横切り、消毒を済ませ、園内に入ると受付がある。

スリッパと上靴を履き、ジャケットを自分で脱ぎ、受験票の確認が終わると1階踊り場に案内される。

自分の受験番号のところに座ってゼッケンをつけて待つ。

いよいよ試験開始

私達を含めて8組の親子(7組が母親、1組が父親)が席に着いた。

全員がゼッケンをつけ終わるまで待機する。

その間は必要以上のことは話さない。

我が子が騒がずに、手を膝にして背筋を伸ばして待っていられてホッとする。

何もない空間でただじっと待つことは大人でも苦痛だが、4歳の男の子にとってはもっと難しいんだ。

おそらく受験対策をしてこなかったであろう親子が1組、私たちの前にいた。

その子はつけられたゼッケンをとても嫌がって脱ごうとしている。
椅子に座れず、お母様の膝に横になって寝ようとしている。

あぁ、これはまるで2ヶ月前の息子だ。
何十万払って幼稚園対策塾に通うことの、一番の成果が今である。

心が痛い。
あの子はいつもと違う場の雰囲気にのまれてグズグズになっているけれど、当事者の親も子もこの状況をどうすることもできない。

そうこうしている間に、黒のロングスカート、白のブラウスを着た先生が前に立つ。
長年幼児教育に携わってきたことが伺える芯のある声で、全員に向かってにこやかに話しかけた。

先生「みなさま、ゼッケンの番号順に一列になってお二階へどうぞ。」

誰も一言も喋らない。

木でできた階段を登る最中、前の子がゼッケンを脱ごうと四苦八苦しているが、お母様に手を強く引かれて連れていかれている。

息子も自分のゼッケンが気になり出したのか、手を胸に伸ばす。私が首を小さく横に振ると、そっとまた階段の手すりを掴んだ。
感化されないか冷や汗が出る。

階段の途中、真っ青なステンドグラスが目に飛び込む。

「青だ!」
息子の声が響いた。

「そうだね、青だね」と抑止の声色でそっと言う。
それ以来息子は、他の受験生と同じく押し黙った。

ゼッケン君

先生「これから別の先生をお呼び致します。それまでしばらくお待ちください。
前から4組の保護者様は前方、後ろの4組の保護者様は後方の待合室をご自由にご利用くださいませ。」

そう言われて、先生が場を離れた。

するとすぐにゼッケン君が床に寝そべって、彼の全力でこれから始まるであろう受験に対する抵抗をはじめた。

やばい、この状況で寝っ転がって駄々をこねるのは、君、やばすぎるぞ。

ゼッケン君が息子の目の前にいるため、常に視界に入る。

つられて息子もしゃがみそうになるのを、少しキツい目線と繋いだまま離さない手で抑止する。
(それだけは、マネするのをやめてくれ)

先程の先生が、スポーティーな先生を連れてきた。
ストレートな黒髪を1つに結んで日に焼けている活発そうな女性だ。

先生「はい、手を繋いで並んでねー」

先生方が子ども同士手を繋がせて2人組にさせる。
これから母子分離で試験がはじまるのか。

ゼッケン君と他の子のペアを組ませようとしたその瞬間、事件が起きた。

ついさっきまで床に寝そべっていたはずのゼッケン君が全速力で走りだす!

脱走を試みたのだ。

さっき登ってきた階段に一目散に向かい、素早く降りる。

先生「〇〇番(ゼッケン番号)、私が行きます!」

そう言い残し、ゼッケン君の後をさっと追う先生。

まるで刑務所だなぁ、なんて思った。

階段中程でゼッケン君が先生に捕まったが、お尻でずり落ちるようにして抵抗しながら私の視界から消えていった。

「スポーティー先生〜、そちらはよろしくお願いします〜...」

ゼッケン君お母様「あの、難しそうでしたらもう...あの、、ほんともう、、」

あぁ...胃が痛い...

取り残されたスポーティー先生は、2人1組で手を繋いだ子どもたちを1列に再度並ばせた。

この騒動にも息子を含めた他の子たちは動じない。
静かにサッと整列する。

塾に行っていてよかったと心から思った。
むしろ、塾に行ってないと無理だと思った。

そして振り向いて保護者へのご挨拶をしましょうと促される。

子どもたち「行ってまいります!



自省時間

...

小さな木製の十字架が白い壁にかけてある。
窓際の低く丸い机には、マリア様がキリストを抱いている聖母子像の置物がそっと佇んでいる。


6歳児用の教室に机と小さな椅子4組が、それぞれ部屋の対角線を向くように配置されている。

私は窓を向いた椅子に腰掛けて、子ども用の少し低い机に脚が当たらないように膝をそっと伸ばす。

あぁ、何分経っただろうか。

保護者同士の視線が絶対に合わない角度。

みんなそれぞれ壁を見つめる。

自省の時間みたいだ。


ふわりと揺れるレースの白いカーテン。
同時にパラパラと、子どもの名前が書いてある折り紙で作られた工作物が床に落ちた。
貼り直してあげたいけれど、あいにくセロハンテープは持ち合わせていない。

子どもの掌より大きな松ぼっくりが、大人の掌より大きな聖母子像の足元に2つお供えしてある。

約15センチ四方の小さな水槽に赤い金魚が1匹ゆらゆらと泳いでいる。

縁日で売っているような鯉みたいな金魚ではなく、尾鰭が割れて4つにみえる、優雅なタイプの金魚だ。

その金魚が、透明すぎてエサのカケラも見当たらない水槽の水面を何度も何度もパクパクする。

パクパク、ゆらゆら。

...お腹空いてるのかな。
ずっと1匹だけなのだろうな。

エサは水槽の脇に置いてある。


りゅんぬ


ぐるりと、無音の部屋を見渡す。

後ろにいる保護者は持参した本を読んでいるが、他の2名はただジッと時が流れるのを待っているようだ。


本棚には図鑑。

「エルマーと竜」の大きなコピーがコルクボードに刺さっている。

運動会でリレーをする様子を子どもたちがクレヨンで描いた絵。
動物園のカレンダー。
黒いピアノ。
空っぽにされた子どもたちのロッカー。

透明な衣装ケースにひとまとめにされた銀色の防災頭巾。

子どもが描いたロケットと月の絵。


スーパーマーケットのお買い物カゴに、黒いマジックで手書きされたりゅんぬ

...?

"りゅっく"かと思って目を擦るが、

やっぱり、りゅんぬだ。

時間がゆっくり流れる空間で15分が経っていた。


"りゅんぬ"ってなんだろう。


息子はどこに行ってしまったのだろうか。

ちゃんと先生の指示を聞いて行動できてたらいいな。
猪突猛進に走り出さないでいてくれたらいいけれど。

...ゼッケン君は大丈夫かな。

金魚が水面をパクパクした後、水槽の砂を口に含んで吐き出した。

...時計が10時になる。
息子と離れてから、20〜25分ほど経ったのだ。

先生の声が突然する。
ドアを背にして座ったので、気配に気が付かなかった。

試験終了

「みなさまお疲れ様でした。お子様達を廊下の突き当たりでお迎えしてください。」

廊下の突き当たりは、おそらく体育館になっている。

子どもたちが一列に並んで、前の子の肩に手を乗せて帰ってきた。
「汽車ポッポ」だ
緊張がほぐれている。かわいいなぁ

先頭はゼッケン君になっている。
よかった。ゼッケン君もちゃんと体育館に行ったんだ。

受験番号からすると先頭の配置にはならないはずだが、先生から配慮されたのだろう。
ゼッケン君が突然しゃがみこんだので、真後ろの息子がバランスを崩した。

肩から外れてしまった手をどうしていいかわからず息子が困惑の表情をみせる。

「お父様お母様の元へどうぞ」と声がかかると、歩いて帰ってきた。
走って帰ってきてはいけないんだ。

先生「階段を降りてゼッケンを返してください。以上となります。」

考査が終わった。

「ありがとうございました。」
とお礼を言い、階段を降りる。

ゼッケンを親が畳んで、息子が再度お礼を言い返却する。

体育館で何していたのか?

母子分離されたあとは椅子に座って緑の四角を作る工作や、迷路、パズル、赤いお花の花びらをハサミで切ったりしていたみたいだ。

息子の暗号みたいな話を繋げて試験内容を解読したのでどこまでが本当かわからないけれど、手先の器用さ、巧緻性をみられていた。

おまけ

G幼稚園はフランス人の神父様が創立者であった。
だからなのか。

「りゅんぬ」とはフランス語で月を意味しているらしい。

たしかに子どもたち作ロケットと先生作の月の絵が大きく貼ってあった。

りゅんぬ、私の中ですごい気になったなぁ。

幼稚園受験はいい体験となった。
そしてゼッケン君は、普通の反応だと思うんだ。

おもしろい世界だね

息子を考査してくださってありがとうございました。
そしてこれから受験される方、頑張ってくださいね。

おわり

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