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ソイル氏は 第2話


名前のないもの

これは一体なんだ?目に見えないが確かにそこに有る。そこに有ることだけがわかる。
「可愛いね。」
何が可愛いのだろう。可愛いというのは目に見えるものに対して使うのではないのか?ピンク色とか、ふわふわした形とか、小さいとか。実際小さいことはなぜか目に見えずともわかるが、小さいことがそっくり可愛いということにはならないだろう。この目に見えないものに対して、なぜ<可愛い>と言うのか。考えを巡らしていると、その<可愛い>ものが動き出したことがわかった。なるほど素早い。小さくて素早い。小さくて素早いと例の人類の敵ともされるべき生き物を想像しがちだが、そんな感じではない。目に見えないが位置を追うことができる、小さくて素早くて、曰く<可愛い>生き物のようだ。
「どこに行くんだろう。狭いから怪我したり、いつの間にか何かの下敷きになったりしたら大変...。」
そう言いながら、彼女は床に積んであったファやキシを棚に戻しはじめた。
「使ったものをすぐに元の場所に戻さないからなぁ...。」
うるさいな。すぐにまた使うから出しっぱなしのほうが合理的なのだ。しかししかたない。片すほかない。ここは私が使う部屋なのだ。そうこうしているうちに、そこここを走行していた例の何かが私の足元にやってきた。