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伏線って何? <小説の書き方>

伏線は小説にとって、特にミステリにはなくてはならないものです。
しかし、実際に「伏線って何?」と問われると返事に詰まってしまいます。

私の場合は、小説が好きなので、その読書体験の中で「こんなところに伏線があったのか」、「この伏線は二通りの意味があるな」、「回収の仕方がほかの作家と変わっている」などと、なんとなく体感していて、それを自分が書く時に思い出して書いているように思います。

理屈がわからなくとも、言わば経験と勘で書いていました。

それでも、なんとなく書けるし、それで良いのかもしれません。

今回、私は新作ミステリーを書いたのですが、思うところあって、そこで使った伏線を一覧表にまとめてみました。

例です

こんな感じですべての伏線を書き出して、その種類(狙い)、伏線の意味や真相をまとめたのです。

その数、実に97個、ありました。

(この表が下に97行続いています)
ただし、回収した文も入れましたから、実際の伏線はその半分くらいです。
(大概の場合、伏線と回収は対応するはずですから)

私のこれまでの記事を読んでいただいた方は、「この表は【シーン表】の一部かな」と思ったかもしれません。
その通りなのですが、これまでの私の【シーン表】には、他のたくさんの項目に交じって『伏線(回収)』という欄があるだけでした。
つまり、そのシーンで張った伏線、あるいは回収した文章を記入しただけでした。
※【シーン表】についての記事は最後につけておきます。

今回はそこに『伏線の種類』、『内容(意味や真相)』をしっかりと記入しました。

そうすることによって、わかったことがあります。
今日はそれを書いてみようと思います。
例によって私の場合です。ご参考になれば良いのですが。

伏線と一口で言っても、いくつかの目的と種類があると思います。

伏線の目的は以下の2つ

①読者に真相に迫るヒント、手がかりを与える

(主役、メインの謎など)

私の場合ですが、できることなら
半分くらいの読者にはラスト直前で「よし、わかった」と真相を見破ってほしい。
残り半分の人にもラストを読んで、「そうだったのか」と納得してほしい。

なので、メインの謎やトリックについては、中盤くらいまでに何カ所か
ヒントや手掛かりを書いておきます。
それが「伏線」です。これは初めから狙って書いていきます。

読者をこのミステリの世界に誘う感じです。ラストまで行きましょうというガイドでありおもてなしです。

②納得性を高めるために事前にほのめかしておく

(脇役、サブの謎など)

ラスト近くになって、メインの謎やトリックではないものの、大事なポイントになる事柄を提示する時に、唐突感がなく、「あ、あのことね」と思い出してもらえるように、ほのめかす文章です。
これは答を書いた後に、遡って前半に配置することが多いです。

なぜなら、作者も書いている内に、新しいアイディアやストーリーを見つけることがあるからです。
これも「伏線」です。

①と②は同じようですが、読者に与える衝撃度は①が高いはずです。
なぜなら①の伏線と、その答えが、ミステリの核になっているケースが多いから。
分かりやすく言えば、①は主人公のこと、②は脇役のこと、のような位置づけです。
そして作者が伏線を配置するタイミングが異なります。
①は書きながら、②は遡って配置します。

伏線は4種類に分かれます。

(と言うか、私の場合は4種類でした)

ほのめかし
ダブルミーニング
ミスリード
※回収(真相)

ほのめかし 
②に多いです。後半に出てくる事柄を事前に触れておく。よく「たたいておく」と言います。
これをしておくと、二回目に出てきたときに、「ああ、あれのことね」と思い出してもらえます。それがとても重要なのです。

読者の立場で考えると、前に読んだことを思い出すという行為自体が
・覚えていることが嬉しい
・その小説の世界に浸れている
という満足感をもらえるからです。

だから作者は、後々まで覚えてもらえるように、上手に、それでいてさり気なく伏線を張ることが大事なのです。

ダブルミーニング
これは作者のたくらみが発揮されるものです。
同じ文章なのだけれど、読み方によって二通り(あるいはもっと)の意味になる。
たとえば「酒本は左手でフォークを持った」と書いておいて、「酒本は左利きなんだな」と思わせて実は、酒本は事故で右手をなくしていた、というような伏線です。

これはかなり難しいですが、上手く決まったときは書く方も読む方も爽快です。

※もっと掛け言葉風なものが一般的かもしれません。
横溝正史さん『獄門島』の「季ちがい」と「気ちがい」のような

ミスリード
文字通り、読者を間違った答えに導こうとする伏線です。
たとえば「酒本は酔っ払いを見て顔をしかめた」と書けば、読者は「酒本は酒が嫌いなんだな」と思いますが、実は酒本は大の酒好きだけど、飲み過ぎて酒を医者に止められている。本当は羨ましくて堪らないのです。
こういう誤解をさせるのです。

この間違った認識のまま、後半で酒本が酒を飲んで死んでいたとしたら……
自殺だとは思わないでしょう。誰かに飲まされたと思うはずです。
しかし真相は、酒本が大好きな酒を飲んで死んでやろうと、思ったのです。

例が悪いですが、こういう効果を狙います。
(今の私の状態なので、熱く書きすぎました……)

※回収(真相)
正確には伏線ではありませんが、伏線を書いたら回収しないといけないので、しっかりチェックすることが必要です。伏線と回収の内容がかみ合っていないと、残念なことになるからです。


すべての伏線を、先ほどの表にすると、感覚やこれまでの読書体験の蓄積で書いてきた伏線を整理して俯瞰して見ることができました。

あらためてこの伏線の意味はなんなのか、
ダブルミーニングなら何と何のダブルなのか、
ミスリードなら何をミスリードさせているのか
回収はきれいに決まっているか、

それらが、自然にストーリーにはまっているか、

こういうことが確認できたのが、本当に良かったです。
この表から、伏線の文章を変えたり、配置する場所を変えたり、ストーリーをいじったりもしました。

以上、今回のミステリを書いて得た気づきでした。
長文になりました。読んでいただいて、ありがとうございました。

シーン表については、こちらの記事に書いてあります。


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