主人公を落として上げる 創作大賞感想 <小説の書き方>
以前、『主人公を早く困らせないと』という記事で、主人公を苦境に突き落とすことが大事だと書きました(最後にリンクを張っておきます)。
それから主人公の活躍、成長が始まる、という流れがエンターテイメント小説の定番なのですが、この【落として上げる】という展開をいかに書くかが難しいのです。
【落とす】
私の連載している『紫に還る』でも
二親をなくして、頼りなく、自分に自信の無い主人公が、ある日、不思議な力に目覚めて……
という成長ストーリーをつくっているのですが、【落として上げる】には、もっと落差をつくってもよかったかなと思っています。
(私は主人公を【落とす】のに遠慮があるというか、甘くなりがちだと常々反省しています)
【上げる】
上手く主人公を谷底に突き落としたとしても
・這い上がる主人公の変化、成長にしっかりした説得力があること。
・周囲から認められる時には、それなりの理由、説得力があること。
これらが満たされないと、テンプレートっぽくて、わざとらしい感じがしてしまいます。
設定だけ考えても、的確な描写と説明が伴わなければ「はい、これで主人公は成長しました」と読者は思ってくれないのです。
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さて、それではnote創作大賞の応募作から、この【落として上げる】が上手いなあ、と思った作品を紹介したいと思います。
『夢と鰻とオムライス』花丸恵さん
『夢と鰻とオムライス』は花さんらしい、スーパー読みやすさ、巧まざるユーモア(独特のおかしみ)満載の楽しい小説です。
今日は数ある美点の中から【落として上げる】の上手さを紹介できればと思っています。
第一話から主人公が辛い目に遭います。かなり気の毒な感じです。これが
しっかり書かれています。
(暗くなりそうですが、それを母親の一風変わったキャラが救っています)
そこから第四話、こうちゃんというキャラが登場し、環境が変わったことから、主人公は俄然、いきいきとエンジンがかかります。
このスイッチの切り替えが、とても自然です。
主人公はひどい目に遭う、かわいそうな環境
支援者が現れる、活躍に向かう変化・転換
この上向きへの転調が、しっかり書かれていて、それがスムーズにシームレスに読めてしまうのです。
気がつくといつの間にか小説の景色が変わっています。トンネルを抜けて
明るい光に照らされたことに気がつきます。
非常に巧みだと思います。秘訣を聞いてみたいところです。
一話から四話まで読んでもらえると、【落として上げる】上手さがはっきりわかると思います。
しかもこのあと、小説は日常ファンタジーに移行するとのこと。
何が待っているのでしょう。また展開の妙が見られると思うと、わくわくしてきます。
※この記事を書いていたら、その話が始まったようです。読みに行きます。
(ただの読者になっています)
この作品にも、多くの気づきをもらいました。
それではまた。
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