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赤と黒の狭間で

あーさと申します。
働く人が安らげる空間を模索し続けています。
実体験と思考、2月分の備忘録エッセイです。

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ハートマークとチョコレート

毎年2月になると、バレンタインデーの広告が目に染みる。赤いハートマークと、こげ茶色のチョコレート。型通りの組み合わせをそこかしこで見ると、何故だか、みぞおちの辺りが重くなる。
チョコレートが嫌いな訳でも、2月14日にほろ苦い思い出がある訳でもない。それならば、どうして、ハートとチョコレートに溢れた景色を、重苦しく感じるのだろう。数日後にようやく思い当たった。…赤と黒のせいだ。

19世紀フランス文学の小説名ではない。単に、色としての「赤」と「黒」。その組み合わせを、不快に感じているのではないだろうか? 仮説を立てた私は、自分の身体感覚と向き合う事にした。

苺とコーヒー

あなたには、喫茶店に行く習慣があるだろうか。テーブルには傷がつき、カップを収集しているような、年季の入った店に。
ケーキセットを頼んでみる。ブレンドコーヒーの黒と、ベリーの赤。苺のショートケーキと、コーヒーを並べてみる。これぞ王道、美しいと感じた。

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優雅なティーカップを見ると、童話の『不思議な国のアリス』を連想してしまう。幼い頃の私は、ハートの女王が激昂して「首をはねろ!」と叫ぶ場面が怖かった。トランプの兵やチェスに彩られた、不思議な世界。実は、全てがアリスの夢だったのだけれど。

トランプと賭け事

トランプやチェスに代表されるゲームの類は、虚構の産物だと思う。作られたルールの下で、駆け引きを行い、勝負する。もしも、ゲームそのものを知らない人が見たら、紙束や駒を手に一喜一憂する姿は、さぞ滑稽に映るだろう。そういえば、トランプのマークも、赤と黒の2色だ。フォールスシャッフル(混ぜたように見せかけたシャッフル)の動画を見真似しながら、賭け事について考えてみた。

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ギャンブラーに必要な知識は、統計学と心理学だと思っている。「運」はおそらく、日頃の行いによる事前確率をもとに、ある程度は推測できるだろう。優れた勝負師は、観察力と決断力も兼ね備えている。そして何より、遊び心のトッピングを忘れないものだ。

私が小学校高学年の頃、学校の休み時間には、ひたすらトランプとUNOをしていた。友人と5人で毎日欠かさず、カードゲームに興じていた。ルールに合意して勝負する相手がいるのは、恵まれた環境だと思う。相手がいなければ、駆け引きは成立しない。勝負相手の存在によって、自身の価値を感じられる。だからこそ、対面での駆け引きは、中毒性が高いのかも知れない。

駆け引きの分解

駆け引き、つまり、相手や状況に応じて、自分に有利に事を運ぶこと。
「駆け引き」の語源は、戦場で兵を自在に進退させる事だったらしい。馬に乗って「駆け」て進み、手綱を「引き」退いたのだとか。

「駆け引き」を2軸で分けるとしたら、あなたはどんな基準を選ぶだろうか。私が思いついたのは、「自覚的な嘘の有無」と「相手の期待値の上下」だ。この2項目を使って、4象限に区分けしてみる。そのフィールドの上で、人が馬に乗り、手綱を引いて駆け回る…そんなイメージが浮かぶ。

「第〇象限」だと呼びづらいので、適当に人格を振ってみる。

嘘あり × 期待値が上がる : ファンタジスタ
嘘なし × 期待値が上がる : 誠実
嘘あり × 期待値が下がる : 裏切り者
嘘なし × 期待値が下がる : ばか正直

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…ネーミングセンスは、見過ごして欲しい。(いい案があれば、募集したいところだ。)

「真っ赤な嘘」「公正さを表わす黒」という通念から、嘘の有無で色分けしてみた。やっぱり、目と胃の辺りにモヤモヤとした不快感が込み上げてくる。赤と黒の2色のベタ塗りが苦手なのは、私だけだろうか。

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余白と白

物事には「余白」が必要だと思う。物理的にも、概念的にも。それならば、赤と黒の割合を減らし、白を介在させれば、重苦しさが取れるかもしれない。そういえば、ショートケーキのクリームも、カップやお皿も、トランプの紙も「白」だった。

駆け引きのイメージ図の中心にも、余白をつくってみる。少しばかりだが、色合いのキツさが和らいだ気がする。

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嘘はつかないが、明言もしない。相手からの期待値を、上げも下げもしない。「待機」という選択肢も、駆け引きの重要な手だと思う。

ここで「Win-Win or No Deal」という言葉を引用したい。ビジネス書や自己啓発本としても名高い、スティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』で提唱された、人間関係の見方の一つだ。互いの利益(Win-Win)にならない場合、取引そのものをやめる(No Deal)。ややもすればドライな姿勢だが、私は好きだ。なぜなら、足の引っ張り合いは論外だが、一方が得をして一方が損をする関係も、結局長続きしないから。駆け引きの局面でも、「取引しない」という選択がカギになる、そんな気がしている。

口紅とブラックドレス

『お熱いのがお好き』の、マリリン・モンローの真っ赤な口紅。『ティファニーで朝食を』の、オードリー・ヘプバーンのリトルブラックドレス。どちらも、類を見ないほど魅力的だ。黒いドレスには、赤い口紅がよく似合う。ただ、同時に纏った赤と黒が映えるには、着る人の肌感と余裕が必要だろう。

相手の期待値はコントロールできず、推測するしかない。コントロールできるのは、自分の言動で「何を見せ、何を見せないか」だ。相手も自分も喜ぶ未来を描いて、自分を磨き続ける。そんな駆け引きなら、日々のスパイスになるのではないだろうか。まるで、デート前に鏡の前でお洒落をするように。

あーさ
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2020/02/29 1st edition