「普通な」人って誰なんだろう

「普通の人でいいのに!」- 冬野梅子さん

ここ数日Twitterでかなりバズっていた漫画である。

白状すると、私自身はこの漫画を読んで相当ダメージを食らった。漫画を読んで一撃、そして主人公に対するTwitterユーザーのコメントを読んでさらに一撃。コメントのほとんどは「こんな女めんどくさすぎる。読んでてイライラする」か「意味が分からない」のどちらかだった。すでにお分かりだろうけど、私はかなり、"分かってしまう側"の人間だった。「これわたしだ」というコメントをいくつか見つけた時は、仲間がいたことへの安堵でやっと息ができる思いだった。

正確に言えばわたしはこの主人公とドンピシャで同じではない。むしろ、「こうならないように」と気を付けている。だけどその気づきは言い換えれば、「気を付けないとこういう人になっていく」ということ。これを読んで「意味が分からない」と言っている人とは、正反対の場所に居る。

“”主人公は経理として働く33歳の女性。いわゆる"サブカル"的なものを好んでおり、行きつけのバーに集まる"サブカル"的コミュニティに時々足を運んでいる。センスのある人に憧れていて、マッチングアプリでもなかなか理想と合致する人に出会えない。会社の先輩から行為を寄せられるが、大衆っぽい趣味やこだわりのない服装に魅力を感じることができず、良い人だと知りつつも内心で「わたしの理想とはかけ離れている」と見下してしまう.....“”

読んでいくうちに腹の底がざわざわしていく感じがあって、「あーー分かりたくないけど分かりすぎる..... 」の連続だった。古着が好き、アングラっぽい雰囲気や小さなライブハウスやイベントが好き、男性の理想が高く、お洒落な人や変わったセンスがある人が好き.... など、ベース部分はかなり共通していた。ついついコメントにも目を通してしまい、自ら主人公に成り代わって批判コメントを浴びることになった。

話自体は結構長いのですが、ここでは割愛します。色々な人が作者の方の描写を褒めているけど、小ネタが一つ一つ的確すぎて重い。

この漫画に出てくるようなコミュニティにはわたしも心当たりがある。会社の友人伝いに知り合った人達だが、職業は建築士、デザイナー、アーティスト、飲食店経営、ビルオーナーなど。彼らはシェアハウスに集まり、行きつけの飲食店に行き、時にはイベントを開催したりする。わたしもたまの週末に混ぜてもらって、しばし異世界探訪をし、月曜からはまたいつものサラリーマンの日常に戻っていく。

彼らはなぜか眩しく、自分には無いものを持っているように見える。お洒落で一風変わった彼らを見ると、自分や自分の周囲にいる人達がなんだかつまらなく思えてしまう。彼らと一緒にいるときは、自分も選ばれた存在のような感じがする。そんな気持ちを感じたことは一度や二度じゃない。まさにこの漫画の主人公のように。

でも、そういう時は一度きちんと考える必要があると思っている。素の自分で接して一番共感してくれるのはどういう人なのか。これまでの人生において、自分を形作ってきたのはどんな人たちなのか。その思考が無くなると、この主人公のようになってしまう。「こんな人たちになりたい。」そんな気持ちが先行して、実は自分と半分以上の性質を分け合っている大切な人たちを見下してしまう可能性だってある。

憧れの感情自体は悪いことではない。その気持ちは自分の変化も促すし、自分を幸福に近づけることもある。でも憧れのみで繋がれた人間関係の脆さというのは、誰にでも簡単に想像が付く。

タイトルの「普通の人」という言葉もキーワードである。「私たちって個性的だよね~」と自分の所属集団を指して言うのが嫌い、と大学の先輩が言っていて、確かにと思ったことがある。そのなんとなく「いやな感じ」は今回の主人公のそれとも似ている気がする。その話をした当時、色々な知り合いを思い浮かべて本当に「普通の」人っているだろうかと真剣に考えてみた。結局一人もいなかった。濃淡はあれど、みんな深く知ってみればどこかしら癖っぽいとこがあるのだと思った。

結局個性なんてものは、髪型が変わってるとか服がお洒落だとかマニアックな国に行くだとか古い歌謡曲が好きだとかEDMが嫌いだとかアイドルに興味ないとかそんなことじゃない。そう分かっててもつい、憧れたりカッコつけたり他と区別したりしちゃうのが「どうにかして普通でありたくない人」なんだと思う。

眩しく見えている人たちも、実は無理してそこにいるのかもしれないし、じっくり話してみたら超つまんないかもしれない。多様性を体現しているように見えて、実は一番排他的なのかもしれない。(わたしの知ってる界隈の人たちは大体みんな快活でオープンな感じだけども)

自分が良いと感じるもの、美しいと思うものを取り入れる。楽しく気持ちよく過ごせる人と一緒にいる。結局そこがスタートなんだと思う。

時々サラリーマンの自分がつまらなく感じることもあるけど、一方で享受しているものを挙げたらキリがない。この主人公がぐだぐだ腐っているだけなのも、厳しく言えば何の覚悟も無い証拠なのかなと思います。

それにしてもこんなに考えさせる漫画を描くとはすごい。。 そして内容以上に、全然意味わからんという人がかなりの数いたことに相当なショックを受けました。知ってはいたけど自分はやっぱめんどくさい性格なんだな、というのを受け入れて精進しようと思います 笑

ではまた。

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