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清田育宏氏が提訴した内容と所感

はじめにいくつか注意点があります。

・後述するように、ここに記載した内容は筆者の言葉です。URL共有や抜粋等歓迎しますが、あくまで法的な根拠でなく、筆者が書いた事として取り扱ってください。

・以降原則として、清田育宏氏を原告、株式会社千葉ロッテマリーンズを被告と記載します。

・口頭弁論が終わっているため、係争の中身は誰でも閲覧請求が可能です。私は以下の方法で行い、提訴の中身を確認しました。

東京地裁に行く

地下一階の郵便局で150円の収入印紙を買う

北側14Fの記録閲覧室に行く

以下の情報を伝え、事件番号を聞く
原告:清田育宏
被告:株式会社千葉ロッテマリーンズ

事件番号、自身の個人情報を記載し、認印で捺印。申請区分「第三者」として本人確認書類を提示し請求完了

20分ほどで以下条件のもと閲覧可能と告げられる
①一部黒塗りの箇所がある(制限付き文書)
②第三者は判決前に黒塗り個所の開示請求はできない
③第三者は閲覧のみで持ち出し、コピー、撮影の類はできない
④その他事務処理上必要になった場合は、閲覧中でも返却が必要

実際30分ほど読んでいると、④の理由で返却を求められました。改めて閲覧する際は後日同じ手続きを踏む必要があるそうです。

・上記の通り、私は原告の訴えの内容について根拠を示す事はできません。根拠が手元にないので、記憶があやふやな部分はなるべく排除して書いていますが、当方の記憶違いや今後の係争の進行により、実際の内容と異なってくる可能性があります。

・後述する原告の説明を含めた全ての内容には、弁護士によりWebサイトのURLや画面ショット、契約書の写し、週刊誌のコピーなど、根拠となる文書が付録されていました。Web の分について(私は面倒なのでリンクしませんが)、今でも残っているものと思われます。

・当方の知的欲求は、法的争点が何であるか、の一点だったので、その点については明確となった今、以降は個別に内容開示を求める予定はありません。よって本noteは自身に向けた振り返りと併せ、定点的な経過を共有するのみに留めます。

・本係争は現在、第一回の口頭弁論が終わったのみです。別の言葉で言うと、原告が何をもって被告を訴えたかを、原告、被告、裁判所の三者が把握しスタートラインに立った状態です。よって、本noteの内容は、原告の主張をベースとし、被告の反論が無い状態の記録を、閲覧した筆者の解釈でまとめたものであり、記述のすべてが原告および被告のとった行動を証明するものではありません。

原告の訴え

被告に対する原告の訴えは主に五つ

①正当な理由の無い契約解除の取り消し

②契約解除通告から本係争開始時までの未払い給与の支払い(3%上乗せ請求)

③本係争開始時から二年契約満了期日(2022年)までの給与の支払い(3%上乗せ請求)

④社会的地位が失墜したことによる慰謝料

⑤本係争にかかる費用の請求

原告の説明(時系列)

2020年12月

被告は対外向けのインタビューで、「二位に食い込んだ為、必ずしも厳冬とはならず、活躍した選手には年俸アップを考えている」旨の発言。しかし原告には年俸のダウンを提示。

原告はHR、打率、OPSなどでチーム有数の成績を出していた為、その旨を説明すると「全選手に一律で減俸をお願いしている」と、外向けの発言と異なるお願いをされる。

納得できないため契約を保留。すると二度目の交渉で被告から二年契約(6600万×2)※を提示された為サイン。

※報道では500万円ダウンで6000万円の2年となってますが、記録には6600万円とありました。

2021年1月

沖縄自主トレ中に被告→原告に連絡。2020年9月における、婚外女性(以降A氏)との不貞行為に対する週刊誌掲載の件で事情を確認したいので、被告は原告に、即刻自主トレの中断と、以降の自宅謹慎を求める。

以降、内容と当事者別に主張を記する。

A氏との不貞行為における原告の主張

・原告が積極的に会いたいと言ったわけではなく、A氏の誘いであった
・PCR検査、交代検査等を拒んでおらず、むしろ原告→A氏に推奨したが断られた。
・球団が公式HPに掲載した原告のコメントは、原告がコメントしたものではなく、被告が一方的に作成した
・上記の内容について、被告側の球団広報や本部長に説明したが、聞き入れてもらえなかった

自主トレに関する原告の不満

・球団施設の使用禁止と共に、施設外でも野球選手としてのパフォーマンスを保つための最低限の運動も制限され、技術を維持できなかった。
・例えばチームメイトと日中に公園でキャッチボールした事も強く注意されたため、夜に一人で壁当てする日々が続き、精神的にも追い込まれた。

上記の不満を抱えている事から、日本プロ野球選手会 (以降選手会) に報告し、対応を求める。

選手会の被告に対する要求

・どの球団でも、不倫といったプライベートな内容について、当該内容のみを取り上げて厳しい処分を下していない為、被告にも客観的な判断を求める
・プロ野球選手は一般に、12-1月は契約期間外のため、謹慎処分に関する強制力も、法的根拠も存在しない。ある場合はその点の提出を求める

上記に関し、被告から回答が無いため、選手会として団体交渉※を求める最終手段を取る。

※団体交渉とは憲法第28条および労働組合法で認められた労働組合の権利であり、つまり労働組合=選手会がこの権利を行使した場合、球団=被告は原則として拒否できず、話し合いを行う権利を指す。

2021年2月

選手会と被告の間で話し合いがもたれる。ただし、以下の点が問題となった。

・選手会は団体交渉のつもりで開始しようとした所、被告側はこれはミーティングであり団体交渉ではない(非公式の会合の意)と主張する
・被告は当該ミーティングでは謹慎処分に対する法的根拠は示すつもりはないと主張する

当該ミーティングにて選手会より以下を提唱。その場での解決はなく、ミーティング終了。

・謹慎処分に対する法的根拠
・原告の継続的な社会奉仕活動を担保とした謹慎処分の解除

同月、原告がクラウドファンディングサイトを通じ、二度の寄付活動(いずれも数百万円単位)を行う。更に球団施設の清掃やグラウンド整備など、積極的に被告へ奉仕活動の報告と提案をしたが、聞き入れてもらえず。

2021年3月

選手会より改めて団体交渉を求めるとともに、「団体交渉の拒否は法律違反になる」と勧告したところ、被告から初めて団体交渉の受け入れがなされ、何度かの押し問答(生産性が無いので省略)があった上で、原告の球団施設利用が認められる。

この頃、原告の妻がA氏を相手取り訴訟を開始。

2021年4月

原告が、後に三度目の不倫と報じられる、新たな婚外女性(以降B氏)と連絡を取り始める。

理由は「原告ではなくA氏が会いたがっていたという証拠」「PCR検査等を拒んだ様子」など、訴訟を起こした原告の妻に有利な情報を、B氏が持っている事を仄めかされたため。

原告は当時の時勢と自身の立場に配慮し、当該証拠を確認する場所を、B氏の自宅に設定した。以降当該証拠を議題とした密会を、B氏の自宅で重ねる。

同じころ、選手会の数度に渡る交渉もあり、奉仕活動が被告に認められたことで、原告は5/1付で二軍に復帰する運びとなる。

2021年5月

原告とB氏の密会が週刊誌に報じられる旨、被告側に連絡が入る。

原告はまず選手会に連絡し、前述の理由と共に、性的な関係は一切ない事を説明。

上記の背景から、選手会から被告へ、原告に何らかの処分を下す場合、選手会に報告するよう要請。

しかし被告は、選手会に通知することなく、被告に対し契約解除を通告する。(原告はその場で上記の背景を説明するも聞き入れてもらえず)

選手会より被告へ、事情の説明を求める。

2021年6月

選手会から被告への要求は以下。

・契約を解除する妥当性と法的根拠が見当たらないので、その提示
・二年契約のため、途中解除における年俸の支払い

被告の弁護士から選手会への説明は以下。

・法的根拠ではなく、事由として説明すると「不要不急の外出自粛の逸脱」と「行動記録に対する虚偽の申告」が、プロ野球統一契約書第26条(2)の以下に該当する為、解除は可能と判断。
>(2)選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場合。
・球団は二年契約を了解していない。原告との契約は一年契約であり、二年契約の存在を前提とした給与の支払いは想定していない。

同月、原告は個別に弁護士を立て、被告および選手会とやり取りを開始する。

2021年7月

選手会および原告は、以下を被告に主張。

・「不要不急の外出自粛」に、強制力はない。行動記録の虚偽申告は事実だが、外出の自粛とは任意の規定であり、「禁止」としていない以上、罰則はないと考えるのが一般的。
・B氏との会談はあくまで原告配偶者とA氏との訴訟を円滑に進めるための外出であり、不要不急ではない。
プロ野球統一契約書第26条(2)は、2020年チーム内で上位の成績を残し、オフに自主トレを敢行し、謹慎処分中も制限付きの環境で技術の研鑽に努めた原告には当てはまらない。
・不倫といったプライベートな内容が、選手の謹慎や契約の解除といった極めて重大な決定の要因になってはならない。

上記に対する被告の回答

・不要不急の外出自粛は昨年よりチーム一体として取り組んでいる事で、遵守すべきルールという認識。
・野球団という団体行動の和に亀裂を生じさせたこと、虚偽の申告を繰り返した事から、以降の選手としての役割遂行が難しいと判断した。
・不倫といったプライベートな内容が、当該決定に起因したわけではない。

2021年8月

選手会および原告は「野球選手も、労働法上の労働者である」という主張を展開し、本事案は、今後の別の選手においても同様のリスクが顕在する事から、被告らとの協議を継続する方針を確認。

原告は支配下登録期間を待ちつつ、これまでの内容証明を、弁護士を通じて被告側と行う。

2021年9月

NPBにおける支配下登録期限が過ぎたため、原告としての訴訟行動が開始。

2021年10月

第一回口頭弁論が11/4に設定される。

2021年11月

11/4 第一回口頭弁論。原告は約9700万円の損害賠償請求(原告の訴え欄の②③④の合計) 。被告は出席せず、答弁書で請求の棄却を要請。

所感

まず驚いたのは、被告とやり取りを行っている主体は、ほぼ選手会だった事です。

例えば、一番反応が多い契約年数の部分についても、記録上は被告(球団)から選手会に対しての答弁です。

つまり、係争という体裁上、原告の主張という形が取られていますが、中身を読めばその大半は選手会を介したやり取りであり、原告はその記録を残したに過ぎないという事が分かります。

よって今後は、選手会が証人という立場で、極めて重要な役割を担うと考えます。

次に、個人的には、各当事者それぞれで、主張に対し致命的な落ち度が少なくとも一点はあると感じました。

原告:
B氏と性的関係はなし。との事ですが、路上で身体を重ねるように歩き、その関係が複数回週刊誌に目撃されている事から、ただただ証拠がないだけでこの主張を続けるのは、法的にはともかく社会通念上は無理があると思われます。

被告:
原告との複数年契約が存在しない、という発言はかなりの問題と思われます。2020年12月の時点で対外的な報道も出ており、裁判記録には契約書も添付されていたためです。また、それを球団関係者ではなく、弁護士が発言した事も問題と思われます。更に、選手会の団体交渉に対する対応の遅さや、法的根拠を明確に示せなかった事は、法的な観点で問題になると考えます。

選手会:
労働組合としての姿勢は素晴らしく、正しく労働者としての権利を守っているわけですが、「不要不急の外出自粛に罰則はないと解する」はかなり無理があろうと思われます。当時の世相を考えても、当該要請が単なる任意のお願いで無い事は明らかだからです。労組としての姿勢は正しいですが、客観性は無いと思われます。

まとめ

私を含む、多くの方が想像した通り、以下文言の解釈が司法に委ねられるようです。

第26条 (球団による契約解除) 球団は次の場合所属するコミッショナーの承認を得て、本契約を解除することができる。
(1)選手が本契約の契約条項、日本プロフェッショナル野球協約、これに附随する諸規程、球団および球団の所属する連盟の諸規則に違反し、または違反したと見做された場合。
(2)選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場合。
http://jpbpa.net/up_pdf/1620708754-568754.pdf

また、不倫という行為そのものの不貞さは、当事者双方が排他している様な記述が目立ちますが、節目ごとの判断に、その行為の非道徳性が起因していた事も証明されていくかもしれません。

この辺は原告とともに、被告にも不利に働く可能性はあります。

私はこの記録を読むまで、原告を擁護できる要素は、誰もが持つ裁判を起こす権利程度かなと思っていました。

ただ、球団側の対応や、契約に対する認識の問題を見て大きく考えが変わりました。

今では、給与の面一つとっても、提訴する妥当性はあったのではないかと感じています。

もちろん、冒頭に書いた通り、現在の情報は原告の主張が99%ですので、今後被告側の反論で、食い違うところも出てくるでしょう。

ただ、私としては、あくまで上記文言が司法にどう判断されるか、そして以降の球界に良い影響をもたらすかに注目して、この裁判のゆくえを注視したいと思います。

今後本件について、法の専門家や、スポーツ界識者の方々から、様々なご意見が出される、その素材となる事を願い、本noteを締めたいと思います。

長々とお読みいただき、ありがとうございました。

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