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バイクに乗る理由。22年目の愛車-HONDA CRM250AR-

 暗い道を走り抜けてふっと陽だまりに出た時、ガムシャラに走ってきた人生のご褒美みたいな感じがした。

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 1997年にデビューしたホンダのオフロードバイクCRM250AR、27歳の私はそのスタイルとスペックに一目惚れしてロスホワイトの新車を買った。

散々キャンプツーリングにも出かけ、ライダーの憧れ北海道では先の見えないような真っ直ぐなダートも走った。同じ250ccでも4ストロークエンジンのバイクを軽く置き去りにする加速は痛快そのもの。調子に乗っておもいっきりダートでひっくり返ったりもしたが、腕をパンパンに腫らしながらも一週間走り続けたのは今思えば若さの成せる技だったか。

それ以前に乗っていたホンダXLR250Rのフルチューンから乗り換えてもさらに刺激的で、慣れるのに少し時間が掛かったがそれがまた良かったのだろう、本当に気に入ってどこに行くのでもこれに跨って移動した。

納車から2年目の、1999年のある日とても悲しい事がおこった。

なんとその愛車は借りていた駐車場で盗難されてしまったのだ。自分の車の後に停めていたのだがすっぽり抜かれたように無い、慌てて辺りをさんざん探し回ったがもちろん見つからず、なにが起こったのか上手く受け入れられず呆然となってしまった。初めて買った新車だったし、苦楽を共にしたパートナーを突如失った悲しみは心に傷が入るほど辛い思いだった。あの時の気持ちは今でも本当に忘れられない。

 余談だが、その時の事で一つ引っかかっている事がある。その前日、住んでいたアパートの狭い通路にボロボロなスクーターが放置されていて、あまりに邪魔なので警察に不審車両があるから持ってってくれと連絡したのだ。

しかし、次の日無くなっていたのは僕のバイクで、場所はすこし離れているのだが駐車場に車と車に挟まる様に停めてある僕のバイクをみて、「邪魔な車両ってあれじゃね」って持っていってしまったんじゃ無いのか?と今だに疑っている。被害届を出すときにその通報の話しもして、スクーターはまだ放置されてんのにどうなってんの?と言ったらなんか「ん?」「あれ?」みたいな態度と沈黙のあと、それはそれで、みたいな変な雰囲気があったので食い下がったがどうにもならなかった。実際のところは分からないが今思い出してもあれはおかしい、あんな通報しなきゃよかったと思ってしまう。

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さて、

当時はバイクが無い生活は考えられなかったが、そんなこんなで新しいバイクを買う気持ちになれず、しばらくの間僕の気持ちを察してくれた友達が自分のヤマハTW200を借してくれてそれに乗っていた。

本当にありがたかった。買ったけどあんまり乗ってないのでいいのよって言う事で貸してくれたのだが、まあ、そこは優しさだったと思う。

このTW200、フルスロットルにしてもあんまり走らないバイクだ(⌒-⌒; )。空冷4スト単気筒200ccでとんでもないファットタイヤのマシンなので速いわけないのである。もともと羊を追いかける為に牧草地をとことこと走るバイクだからまあしょうがない、どちらにせよCRMと比べたら殆どのオフロードバイクが遅く感じるのだ、、、

そんなTW200だが当時ドラマでキムタクが乗っていた事で大流行していて、街にはスカチューン(パーツを外して見た目スカスカにする改造)のそれが溢れていた。ありがたい事に僕が友人から借りたのは無改造のノーマル車だったのでその辺の恥ずかしさは無くてすんだ。自称本気のライダーとしてはそういうファッションに行きすぎているスタイルが当時はいやだったのだ。  

TWはそう言うバイクなのだが、とにかくバイクが無いとどうしようも無い生活だったので本当ありがたかった。

エンジンオイル2回交換が必要なぐらいの距離をTWで走った。ぶん回して乗っていたのでチェーンも伸び伸びになった。毎日乗ってそれなりに体に馴染んできていたし、TW最大の特徴である超ファットタイヤは雨の日の安定感は抜群で、これはこれで面白いかなと思ったり、なんだかんだ半年以上乗っていたと思う。

しかし、結局自分のバイクが欲しい。それにやはり2ストのバイクが欲しいと思った。いつまでもTWを借り続けている訳にもいかないし、気持ちを切り替えて購入する決心をした。

候補に上がったのは

ヤマハのDT230ランツァ、これはサイズも排気量も一回りCRMより小さく当時は速いセローとか言われていた。僕の身長だとちょうど良いかもしれない、セルスターターも付いていて乗りやすそうだ。

そしてスズキのRMX250R、これはランツァと打って変わってノンバランサーでレスポンスと振動が凄まじいレーサー剥き出しのエンジン、一人乗り専用設計の強烈にスパルタンな奴。うしろに女の子を乗っけられないのだ、、ツーリングというよりはレースか、目を三角にしてダートへのアタックツーリング用という仕様、、

うーむ。両極端だ、、、

そう考えるとCRM250ARのバランスの良さが光る。痛快な走りとシャープなスタイリング、燃費も良いし排気ガスも綺麗(2ストにしては)二人で乗れるフルサイズのボディ、ホンダならではの完成度。前述の2台意外にも色んなバイクを検討したが結局は変わるものが無いと言う結論に達してしまった。

「もう一度、CRM250ARだ!」

そこですでに生産終了が決まり壮絶な在庫争奪戦の中で、何十件もの店を周りなんとか新古車の最終型を手に入れる事ができた。

本当に奇跡的に見つかった一台だった。散々大きなショップを探し回ったがすべて売り切れで半分諦めていたのだか、甲州街道沿いの小さなバイク屋の前を通り過ぎたときに一瞬見えたような気がして戻ったらそこにいたのだ。我ながら凄い動体視力だったと思うw

それがこのブラックのCRM250AR(MD32)、ホンダ最強にして最後の2ストオフロード車だ。ほとんどモトクロスレプリカと言ってもいい。

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これは最近スタジオに持っていき、最新鋭のライカSL2-Sのインプレッション記事用に僕が撮影した作品だ

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「この白煙がハイパワー2ストロークエンジンの証」

ここでCRM250ARがどれだけパワフルなのか今のバイクと比較して説明しよう。

 今の最新鋭4ストオフロードバイク、ホンダCRF250Lが24馬力、トルク2.3キロ、車重140kgのところCRM250ARは40馬力、トルク4キロ、車重114kgと、パワーウエイトレシオはCRF250Lの5.83kg/psに対してCRM250ARは2.85kg/psとなんと半分以下。(パワーウエイトレシオとは「車両重量 ÷ 出力(馬力)」で算出される数値のことでその車両が1馬力あたりにどれくらいの重量負担があるのかを表す。軽ければ軽いほど加速性能が良い言う事になる)ちなみにスポーツカーのスバルのBRZとかトヨタの86が1,220kg ÷ 207PS ≒ 5.89kg/PSでCRFとほぼ同じ、決して遅くは無い、が。CRMは世界最速の部類に入る日産GTRの1720kg÷600≒2.87kg/PSとほぼ同じになる。。。そう考えるととんでもない話だ

まあ、それも0-50m加速ぐらいまでの話で、そこから先はGTRはあっという間に点になって300kmに達するが、CRMはどんなに引っ張っても160kmが限界だ。

とにかく加速は凄い、体感的には4ストの倍ぐらいの勢いですっ飛んで行く、その加速は22年前のバイクとは思えないほど凄まじいのだ。未だに車検なしの国産250ccオフロードバイクでは最強なのである。いわゆる2ストクォーター(250)最強という奴だ。

軽くてハイパワーでジャンプも結構な高さからの着地もスタンと決まるサスペンション、攻撃的なスタイル。軽量化の為にバッテリーは無い、だからもちろんエンジンスターターモーターも無い、キックスターターを蹴り下ろしてエンジンをかけるという今では意味不明なやり方でエンジンを始動する。まさに「勝つために生まれたマシン」だった。

零戦のような(乗った事無いけど)小型高出力で俊敏に飛び回る戦闘機といった乗り味だ。が故にその戦闘力を解き放つ場所も腕もなかなか持ち得ないのが、まあ悩みでもあり飽きが来ない理由の一つでもあるだろう。(200馬力クラスのリッターバイクよりは全然市街地で回せるけどね)

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この機動力からくる痛快さは今時のオフロードバイクでは到底得られないものがある。仲間とツーリングに行ってバイクを取り替えて乗ったりすると、バビューンと置いていかれてなかなか返してくれない(⌒-⌒; )返してくれる時の顔はみんな半笑いだ。

燃費や排ガスにマイナス面がある2ストだが、それでもCRM250ARは当時の2スト車のなかでは格段に燃費も排ガスのコントロール性も高いバイクだった。

車名にも使われたAR(activated radical)とは世界一過酷と言われるパリ〜ダカールラリーを土壌に開発された技術で、2ストとしては圧倒的な低燃費と高い燃焼効率を可能にするアメリカの排ガス規制を乗り切る為のホンダの切り札ともいえる最新技術だったのだ。 

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ラジエーターシェラウドとバルブカバーにはARの文字

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AR機構を搭載した試験車両ホンダEXP2はパリダカでクラス上位入賞を果たすなど完成された技術だったが、最終的にはさらに強められた排ガス規制を乗り切ることは出来ずにホンダのみならず全ての公道走行可能な国産2ストエンジン車は1999年に生産を終了した。CRM250ARはたった3年しか作られなかったのである、この後期型など1年ちょっとだ。

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まあ。いまやガソリンエンジン車ですら無くなる未来が予定と言えるぐらい現実的になってきたので、2ストエンジンのバイクが公道から無くなったものさもありなん、、である。

無くなってしまうとその価値は跳ね上がるのも世の常で、2ストはその圧倒的なパワーとそれを支えるバブル期の贅沢な車体装備もあり今となっても中古車の人気が凄まじく、特に人気のあるCRM250ARも状態が良ければ新車時の3倍程になっている物もある。

それでも僕には売る気は全くない。

気に入ったものは手放さない主義、しかもその高いポテンシャルのお陰で未だにちゃんと乗りこなせている気がしない、だから22年飽きずに乗り続けてきた。

年齢につれてツーリングの回数が減った時もあったが、乗るたびに新鮮で本気にさせてくれる、車高が高いので視界も広く、アクセル一捻りで空を飛ぶような感覚を味合わせてくれるし、待ち合わせに乗って行って見せたくなってしまうこともある。ここ数年はリターンライダーの幼馴染みや新しい知り合いもできてツーリングの回数も増えてきた。30年来の幼馴染と峠を走り。河原でコーヒーを飲んだり、ちょっとしたダートにも先日いって久しぶりにリアが流れる恐怖と楽しさも味わってきたりした。単純に楽しさや幸せを感じられる時間だ。

そして、最後に大事な事を言おう。

バイクに乗る事には、こういう単純な楽しさとその根底に流れる重要な理由がある。

それは「命」を剥き身で感じられるからだ。バイクと言うのは単純に危ない乗り物である。生身でとんでもないスピードの中に身を置く、一つ間違えばどうなるか分からない状況の中で命を感じそれを守る為に研ぎ澄まされた感覚を無意識に持ち続ける必要がある。

これは動物が持つ命を守る本能を呼び覚まし、潜在的に速さに憧れを持つ人間の感性を鋭く研ぎ澄ます行為でもある。

非現実な憧れに迫りつつも、生存本能を忘れない、このアンビバレンツな行為はクリエイターにはどちらも必要不可欠なのだ。

命をかけギリギリまで研ぎ澄ませた感性でシャッターを切る。そんな作品じゃなければ創る意味がない。

だから今までにバイクを降りようと思ったことは一度もない。
刺激は強ければ強いほどその分感性が研ぎ澄まされる、いわば魂のトレーニングとでも言おうか、そんな事に付き合ってくれるスペックを持っているのがこの愛車なのである。

僕とCRMはそうやって一緒に歩んできた。


こんなふうにみんなバイク乗りには愛車とのストーリーがあるんじゃないだろうか。 

ツーリングでは風景に出会い、人や動物に出会い、仲間と通じ合い、大事な人を想い、自分を磨き、向き合うことが出来る。

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さて、新しいストーリーを作るためにバイクに火を入れよう。それは人生を彩る1ページになるのだから。



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