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「おじさん達のフットサル①」



 おじさんが久しぶりにフットサルをしようと思うと、始まる前から思いも寄らぬ労力を使うことになる。

 まず当日に着ていくサッカーウェアが見当たらない。ここか〜ここやろ、と高を括っていた引き出しの中には、昔ライブの幕間に使った映像のDVDが入っていた。僕はそれ以外の場所に見当が付かず、部屋中をひっくり返しての大捜索が脳裏をよぎるのだが、とあえずそのDVDを再生して大捜索からの現実逃避をしたりしてしまう。ぼんやり眺めてる途中で「あれ?この映像使ったライブのDVDも持ってた筈やぞ」などと気になりだして、大捜索から現実逃避をするためのさらなる大捜索が始まってしまう。
 その結果、クローゼットの奥に仕舞い込んだ段ボールかの中から今度はサッカーウェアが出てきたりして、思いがけず現実に戻ってきたりする。ただ現実のウェアはやっぱり少しカビ臭くすぐに洗濯機を回す羽目になる

 その間に玄関へシューズを探しに行くのだが、スパイクやトレーニングシューズなどを含め4足ほどあった筈のサッカーシューズがこれまた一足も見つからない。またも途方にくれて、とりあえずシューズボックスの下に潜り込んでいたサッカーボールに左足で触れてみるが、ボールの空気は抜けておりペシャリとへこんだまま動くことはなかった。

「こりゃもう神様にサッカーやる資格取り上げられてるな」

 そんなことを思いながらスマホでフットサル場のサイトを開き、レンタルシューズの値段を確認してみる。

 シューズレンタル:500円

 ネットで調べたフットサルシューズの最安値が3000円程だったので、6回以上利用するなら買った方がお得になる。
いや微妙やな。これから定期的にやって行こうなんて仲間内で盛り上がってるから3回は絶対するやろうけど、40過ぎたおじさん達が6回も続けられるかな。これならいっそのことレンタル1000円取ってくれたら何の迷いもなくシューズ買えるのに。
 レンタルにするか購入するかを思案してると洗濯機から終わりの合図が鳴り、蓋を開けると接着が弱くなっていたゲームシャツの背番号が剥がれて、ボロボロと洗濯物にも洗濯槽にもこびり付いている。

「ふざけんなよ」と吐き捨て、もう全てが嫌になった僕はおじさん達のグループLINEに「○○日、ちょっと参加出来ないかもです」とメッセージを送る。
 しかしおじさん世代になると、苦楽を共にした記憶や、場所は違えど同じ時代を生き積み重ねてきた時間への共鳴があり、仲間への想いや結束力が若い頃よりも一段と強くなっているので、「じゃあ日にちズラそうか?」とか、僕個人のLINEに「なんかあった?忙しいなら車で迎えに行くよ?」なんてメッセージが届く。

 一度行かないテンションになってしまった若い頃の僕ならもう絶対に参加することはなかっただろうが、おじさんになった僕はこの仲間達の熱い想いに答えなければという使命感に駆られてしまう。折れかけていた心をもう一度奮い立たせ、そして僕は洗濯機に立ち向かうのである。

 まずフットサルが始まる前にこれだけの事態が起こってしまう。

 そしておじさん達のフットサル当日に続く・・

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