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「#25 あの巨大な料理がここにも来るのか」


 テレビでデカ盛りグルメを紹介する番組がやっていると必ず見てしまう。
 大食いの人が挑戦するような特別メニューのあるお店ではなく、「お客さんにお腹いっぱい食べてもらいたいと考えた結果、いつの間にかこんなにも大盛りなメニューになっちゃいました」的なお店を大好きなのだ。

 若い頃は番組を見ながら「ここやったすぐ行けるから一回食べてみたいなぁ〜」なんて思っていたが、今ではもう絶対食べれないので、「お願いしたら普通盛りでもやってくれんのかなぁ」とか、「二品頼んで四人でシェアするんはアリなんかなぁ、取り分ける小皿とか出してくれるんかなぁ」などと、どうしても弱気な発言が口をついてしまう。だったらもう最初から普通盛りの店に行けばいいのだが、どうしてもあのデカ盛りのフォルムに憧れてしまう自分がいるのだ。
 18個ぐらい細かく仕切られたプレートの中に、少量のおかずが散りばめられた旅館の朝食にテンションが上がる女子と、真逆ではあるが感覚的にはかなり近い。

 そんな憧れのデカ盛りグルメ店に、僕は偶然にも訪れる機会があった。
 それはたまたま昼時に入った町中華で、店構えがすでに美味しそうだったので僕はなんの情報を持たぬまま初めての店に入ったのだ。
 店内は意外に広く、僕は二人掛けのテーブル席に案内された。メニューを見るとすぐにエビチャーハンという文字が飛び込んで来たので、迷わず僕は大盛りで注文をした。
 厨房からは小気味よく鍋を振る音と、油の弾ける音がハーモニーとなって店内に流れ込み、壁に貼られたメニューは少し油でくすみ年輪のような味わいを醸し出している。

「ここは絶対に美味い店だ」

 そう確信を持って料理を待っていると、ラーメンを運んだ店員が僕の前を横切った。

「あれ?なんか器がデカかったな」

 何気なく思った僕がそのまま店員を目で追うと、客の前に置かれたラーメンの丼はやはり通常の2倍ほどの大きさに見えた。少し背筋を伸ばすようにして丼の中を覗くと、そのデカい丼の中にぎっしりと麺やチャーシューなどの具材が詰まっている。
 次にまた店員が天津飯らしき物を運んで横切って行ったのだが、卵で覆われたご飯が皿から山のように突き出していた。

「ここはデカ盛りの店だ!」

 テレビで見て憧れていたはずだったのに、デカ盛りの店だと気づいた瞬間にあぶら汗がどっと吹き出した。楽しみなど一つもなく、食べられないかもしれないという恐怖で頭がいっぱいになった。
「もう今更キャンセルとか出来ひんよな、鍋振る音聞こえてるもんな」などと考えていると、店員が厨房から炒飯を持って現れた。大きめのお玉で二杯分ほどの炒飯が盛られている皿はゆっくりと僕の前を通り過ぎ、斜め前のテーブルに座る男の前に置かれた。

 いやちょっと待って、あの量の炒飯が俺のテーブルにも運ばれて来るの?えっ、ていうか俺、大盛り頼んでなかった?待って待ってもしかしてやけど、あれが普通盛りで大盛りはもっとデカいってこともありえんの?それはないよな?流石にあれが大盛りやんな?まぁそれでも食べられへんけど。

「お待たせしました、エビチャーハンの大盛りです」

 あれ普通盛りやったやん。どうすんのよこれ。

 そこからはもう味がどうこうではなく、ただ少しでもこのチャーハンの山をなだらかにすることだけしか考えられなかった。いくら食べても量が減らず、気持ちが焦ってしまい普段よりも食べられずに満腹感が迫り上がってくる。
 なんとかチャーハンの山から丘と呼べるくらいにはなだらかにしたところで限界を迎え、レンゲをそっと皿の淵に置いた。
 虚な目で店内を見渡すと、何人かの客が同じような動きをしている。目を凝らして見てみると、余ってしまった料理を皆プラ容器に詰めているのだ。

 耐えたぁ〜、助かったぁ〜、そういう救済措置があるわけね。まぁあんまり残されても店側もリスクがあるからね。

 会計を済まし店を出ると、僕はプラ容器に詰まったエビチャーハンの重みを感じながら、もう二度とデカ盛りの店には来るまいと心に誓った。
 



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