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🅂14 自滅しない選択への道

「A little dough」 第4章 支出して生活する 🅂14(支出行動と自制5)

 前回に引き続き、池田新介著「自滅する選択」をベースに、自制問題を織り込んだ「賢明」な選択について考えます。

➤適応(自制問題を織り込んだ「賢明」な選択)<前回からのつづき>
 前回は「賢明」な選択の一つとしてコミットメントについて記載しました。コミットメントはそれが外的であれ内的であれ、私たちを未来に渡って拘束することで長期的な利益をもたらそうとする行為です。その目的にもよりますが「過度な拘束」は継続しにくいものです。本人の目的と自制行為のレベルが一致していないと、全体を無駄な行為とみなし中断する可能性が高くなるからです。たぶん私たちは、そうした自制行為を繰り返し行う中で、目的に沿ったレベルの設定ができるようになるのだと思います。

▷計画期間の細分化
 これは私たちが何らかの習慣を身に着けるためによく使う方法です。「自滅する選択」にもいくつか記載されていますが、「子供のお小遣いの期間を刻む」という行為はリアリティがある事例だと思います。私自身の場合は、当初毎日のおやつ代として小銭をもらっていましたが、それがやがて1週間単位となり、中学生のころには1か月単位に変わっていました。幼い頃の私の性格を心配した母親が、自制力の成長に応じて期間を調整したのだと思います。おかげで中学からは好きなレコードも買えるようになった記憶があります。
 こうした期間を刻む行為は、ビジネスや目標管理などいたるところで使われています。第2章でふれたライフデザインは100年ものかもしれませんが、これを10年ごとのビジョンで区切り、更にくつかのマイルストンを置くことで細かく刻んでいきます。小さな成果でも早めのマイルストンへの到達が私たちの背中を押してくれることで、中断のリスクが小さくなっていきます。

▷認知能力や自制心が働く環境を意識的につくる
 池田氏によれば、自制問題の原因となる現在の報酬(満足感)を求める性向は、私たちの本能に根差しておりとても強いものとされています。したがってそのような状況を作ってしまうこと自体が、大きなリスクになっていると考えることができます。例えば、「過度に空腹で入るレストラン」では、オーダーが過剰になりやすいため、はじめからそうした状況を作らないことが重要です。
 また自制問題を伴うの判断を行う場合には、他の認知作業を行わないことが重要であるとも指摘しています。人間は二つのことを同時行うことは苦手なので、そうした状況ではミスをする可能性が高まるからです。
 私たちが「自身の自制力を発揮できるように行動する」、こうした環境づくりはメタ認知活動を記載した折にも触れましたが、自制力を鍛えるという点においても重要なポイントになると思います。以下に「自制と選択の相関」の図を再掲しますが、改めて「自分を知る」ことから「賢明な選択」に繋げ、また「その結果を自己にフィードバックする」という相関を眺めると、これはメタ認知におけるモニタリング活動の一環であることが良く理解できると思います。

自制と選択の相関 (池田新介著「自滅する選択」東洋経済新報社刊 P225より)

➤欲求と自制
 🅂8と🅂9では「報酬系回路」、そして🅂10以降ではこの延長として私たちの「自制」に関する問題を取り上げました。私たちの支出行動は、長い人生において度々難しい選択を迫られることがありますが、結局のところその一方に「現在の支出=現在の満足」が強く君臨していていることがわかります。
 その謎解きとして報酬系回路、特に「欲求回路」の存在があり、これは人間の生存や種の保存と結びついた人間の本能と考えられますから、それ自体の機能や強度は受け入れるほかないものでしょう。しかし同じ報酬系回路においても他方で「制御回路」が機能し、更に🅂8で記載した「罰系回路」も存在しています。こうしたことから、私たち人間の脳には現在の満足を求める強い欲求を働かせる一方で、これが暴走しないようにブレーキをかけバランスよくコントロールするため機能も備わっていることがわかります。
 このような脳内回路の最終的な調整を行っているのは大脳前頭葉に位置する「前頭前野」と呼ばれる部位で、複雑な認知機能や感情の調整、意思決定などを司っています。欲求と自制に関しては、報酬系情報と罰系情報の比較を行い、目の前のリターンとリスクだけでなく長期的な視点や社会規範などとの整合性を考慮し、最終判断を下していると考えられます。そしてこのような前頭前野のはたらきは、直感的な「システム1」ではなく意思的な「システム2」のはたらきと考えるべきものです。

「システム2」には以下のような特徴がありました。
 ►自動的にはたらきにくい
 ►合理的で論理的
 ►時間がかかる
 ►一度に多くの処理ができない
 ►疲れやすい
 ►中長期的視点を持つ…
 これをもう一度「自制心の特徴」として読み返してみると、ほぼそのまま当てはまることが確認できます。つまり「自制心」は多くの部分で「システム2」によって支えられていると考えて良いのかもしれません。
 これを裏返しに考え、自分の自制心を機能させるためには…、
「まず意識的に自制心を呼び起こし、合理的かつ論理的に思考し、時間をかけて辛抱強く、ひとつづつ順番に行い、そして時に休憩し、中長期的視点を活かすよう行動する」ということになります。
 本能的な報酬回路に支えられた「欲求」とこれに対峙する「自制」の関係は、シンプルに「システム1」に待ったをかけた時の「システム2」の働きのようにも見えてきます。


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