ネムレナイ

ある眠れない夜の日のこと。人は、自由を与えられ過ぎると生活リズムが狂ってしまうものだ。人は自由の刑に晒されていると語るサルトルの言葉は、数百年たった現代でも通じるものがある。そんな偉人の言葉が頭にふと降りかかって来たかと思えば、家を後にしていた。誰もいないと想定していたが、目の前は都市高速の入り口。都会の窮屈さを思い知る。いつもは、眠れなくても頑張って寝ようと試みるのだか、今回は何となく外に出て何かしようと思ったのだ。何か得体の知れないものに頭のてっぺんの髪の毛を引っ張られる、もう一人の自分が動かしているような感覚だった。イヤホンから流れるのは巷で有名な洋楽だ。日本人の9割近くが英語を話せないのに、これほど洋楽が流行るというは可笑しな話である。どんなにオシャレで有名な音楽でも、歌詞の意味をよく見てみると、あなたの身体が忘れられないだとか、あなたのような恋人を見つけたなど、私はこんなに元恋人を引きずる人ですよと公言しているものが多かったりする。そのくせ、他人の恋愛話になれば、新しい人を見つけた方がいいなど、本当にご都合主義この上ない。せっかく地球の生物の中で、有数のニューロンを持っているのに、いつまで、本末転倒を繰り返し、不合理で合理的な信念を持ち続けるなだろうか。少し厭世的な感傷に浸っていた最中、雨雲が私を帰らそうとしていた。雨音のおやすみを浴びながら、目的地のない散歩は幕を下ろした。

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