見出し画像

知覚過敏症

アイスを食べたらしみる。これは人生でも指折りの不快な経験である。まさに至福の時間に入ろうとする際に水を差されるのは非常に腹立たしい。

私もだ。歯茎が痛むのではない。他者の視点を過敏に慮ってしまうのだ。

コンビニにパジャマで行くことが出来ない。1日の外出がそれしかなくても私は必ず着替える。街中で誰かに見られたら大変である。コンビニの店員が友人だったら。タイプの人に引かれたら。

日本は和をもって貴しとする。それは農民社会における名残であったり、イエ制度の継続であろう。未だに集団で異端児され、痛い目にあうことを「村八分」と表現するほどだ。

この国において異端視され、集団の輪から外れるというのは、飼い犬がリードを外されて突然野生で生きていくようなものである。

長編人気マンガ「カイジ」では、高度な心理戦が繰り広げられ、多くの男性読者の心をつかむ。
不安を緊張感を表す独特な「ざわざわざわざわ…」というオノマトペがすんなりと受け入れられるのはそんな日本人ゆえかもしれない。福本先生の天才的な形容である。

先日、インターンシップのエントリーシートを書いていた。企業といっても三者三様であり、無知な私はCMで見たことのある食品メーカーに応募することにした。

「高校から大学までに継続して頑張ったことは何ですか。」

これはまずい。
おそらく想定解はスポーツ経験の「体育会系」であろう。私はそのような要素は一切持ち合わせていない。

臆病な私が最初にしたことといえば、過去のES検索である。人に評価される「テンプレート」の少し上をいくものを学ぼうとした。
ラグビー、ビジネスコンテスト、アルバイトの開業スタッフ。

まずい。

私が何かを社会に出てやったとすればアルバイトくらいである。
食品メーカーは倍率が高いのだというマイナス情報が嫌でも耳に入ってくる。
これらのヘビー級経歴の中では埋もれてしまう。

堂々巡って行き着いたのは普通に考えていればあり得ないテーマである。

ダイエット。

私は高校卒業から大学までに20kg以上減量することが出来た。その方法は「食事制限」と「運動」である。

後から調べたところ、食品メーカーへのアピールに「食事制限」のエピソードを用いるなど言語道断なのである。
よくある話なのだが、ダイエット前の体重の事実は、元来の「自己管理の甘さ」を暗示してしまうというわけらしい。

なぜ「食品」を売る会社に「食事を制限する」ことを書けるのだろうか。
締切は私の思考を鈍らせ、事細かにダイエットの方法・経緯について400字ぴったりの文章を記し、即座にエントリーした。

個性人と狂人を錯覚してはいけない。
抜きんでようとするあまり常識から乖離しすぎると、多くの拒絶反応に晒される。

どこかの起業家が言っていた気がする。
「どんなに練られたアイデアで渋るよりもまず出しなさい。」と。

数日後、面接の予約フォームが届く。

私は何も分からない。
見えない「普通」に化かされて。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?