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B1リーグ 強化費と勝率の相関関係とは?

今回は、B1リーグのチーム強化費と勝率の関係について書いてみたいと思います。本題に入る前にお伝えしたいことは、私が携わっている新潟アルビレックスBBのチーム強化費がいくらだから、現在の結果なんですという言い訳をしたいために書いているのではありません。
当たり前ですが、予算=勝利ではありません。すべてのチームに共通して言えると思いますが、シーズン中でのチームの勝因、敗因は、明らかに予算とは別のところに原因があります。お金があるから勝ったと言ってしまえば、勝っているチームに失礼ですし、負けている理由も同じです。負けには負けの、勝ちには勝ちの理由はあります。
しかしながら、シーズン全体を通じて、また全クラブを総じて勝敗をデータとして見た場合、予算と勝率には相関関係があることを今回はお話したいという意味です。

今回の内容は、スポーツクラブを経営するにあたり、最大コストであるチーム強化費をいくらに設定すると、どの程度の勝率が予測されるのか?という確率論に基づいて、正しいクラブ経営が行えるためのひとつの指標として、読者の皆様にも情報共有したいと思い、今回このテーマを選びました。

もう1点、付け加えておきますとバスケットボールはチームスポーツなので、選手の組み合わせや、対戦時の自チームの作戦と相手の作戦、ヘッドコーチの采配等によって勝敗が左右されています。つまり、一定の法則で勝敗が決まっているわけではないということです。今回のテーマは、そのような変数を除いた、あくまでも予算と勝率の相関についてだけ数字をおいて、その関係について記載しておりますので、その点もご理解の上、読み進めていただければと思います。

過去4シーズンのデータ

B1リーグの過去4シーズンのデータをまとめてものが下記です。

予算と勝率のまとめ

実はチームによって多少、仕分けが違うと言いますか、記載の金額の全てが統一された仕分け項目ではないので、項目ごとに微妙な差異があるとは思います。ちなみに上記の数字は毎年Bリーグが公表している各クラブの決算データをもとにまとめてあります。

人件費とは主に、選手、スタッフの人件費の総計です。更に詳しく言えば、日本人選手、外国人選手、ヘッドコーチ、アシスタントコーチ、トレーナー、アナリスト、マネージャー等といったスタッフとのプロ契約(業務委託契約)の金額合計と思ってください。簡単に言えば、どれだけ選手、スタッフにお金を使っているのか?という数字です。

運営経費とは、主に遠征旅費や、試合会場の費用、練習会場の費用などが含まれていますが、前述の通り、統一された仕分けルールはないので、この運営経費の中身は、チームによってバラバラだと思います。ちなみに、新潟アルビレックスBBでは、遠征旅費、練習会場費、その他、選手やスタッフへの住居や車両の提供といった福利厚生費まわりが、この運営経費の中に含まれています。当クラブの場合には、ホームゲームの演出費用は、別の原価項目に仕分けられているので、この運営経費には含まれていません。繰り返しになりますが、チームによって含まれているものと含まれていないものに違いはあると思います。

資料の下の方に書いてある丸の中の順位は、そのシーズンの新潟アルビレックスBBの成績を表しています。さらに、その年の強化費(人件費+運営経費の合計)の平均値と中央値が書いてあります。余談ですが、平均値は一部のクラブが突出した費用を投じた場合、平均値そのものが上にズレてしまいがちですので、どちらかというと中央値の方が参考にしやすいかもしれません。

この表をみると、2020-21シーズンから2021-22シーズンの間で中央値が大きく上昇しているのがわかります。2024年の新B1ライセンスの審査に向けて、既に高い収益力を維持できているチームが、チームの強化費への投資に積極的になり始めてきたことがわかります。つまり、優勝争いをするようなチーム、勝てるチームにすることで、チームの人気を上げ、従来のファンから新規層へのファン拡大を図り、高い収益力を更に高めていこうとする戦略が垣間見えるように感じます。

過去4シーズンの予算と勝率のグラフ

先の数値を横軸に予算、縦軸に勝率を配置し、4シーズン分の全データをプロットしたグラフがこのグラフです。全チームの全シーズンのデータ項目に注釈記載をすると、グラフが読み難くなるので、過去4シーズンの新潟アルビレックスBBのプロットだけ文字と点線で指し示しておきました。

これを見て分かるように、新潟アルビレックスBBの2018-2019シーズンの結果はスゴイ(自画自賛)です。グラフ中央にある右上がりの青線が、全体の回帰線ですが、この回帰線から大幅に上側にズレています。回帰線から上側へのズレている距離でも他を引き離しているのが見て分かります。つまり数学的には異常値であると言え、実際に中地区優勝という結果については、なかなか起こり得ない自慢できる誇らしい結果であったと言えると思います。

次に、勝率3割(縦軸の0.3)を下回るゾーンのプロットを見ると、横軸の予算が4億円(400,000)を超えると、全4シーズン 78チームの結果から2チームしか出現していなく、その出現率は2.5%となっています。ちなみに、4億円以下の場合、勝率3割(縦軸の0.3)を下回ったチームは14チームあり、その出現率は17.9%となります。結果として予算が4億円を下回る場合、予算4億円以上と比較すると約14倍の確率で勝率3割を下回る可能性が高くなるということを表しています。なお、現在のB1リーグは年間60試合が行われていますので、勝率3割とはシーズン18勝を意味しています。

次に勝率が高い方も見てみます。このグラフからは年間8億円以上使っても、過去4シーズンのデータからは勝率に差が出ていないことがわかります。もちろん、8億円で十分だと言うことはありません。パフォーマンスレベルが高く、人気、実力ともに価値ある選手と契約することは、優勝争いへの確率を上げることにもなり、またクラブ経営にポジティブな影響を与えますので、予算8億円以上は無駄であるということでは決してありません。ただし、このグラフからは、横軸 800,000より右側では縦軸の勝率でのプロットに変化は見られないということでした。

過去4シーズンの平均グラフ

続いて、過去4シーズンのデータから、各クラブごとの平均を算出しプロットしたグラフです。新潟アルビレックスBBだけ4シーズン前の優勝を含めた場合と、含めなかった場合の2つの平均をグラフ上では表現しています。新潟アルビレックスBB以外のチームは、すべて1チーム=1プロットとなっています。

このグラフを見ると前述の繰り返しになりますが、予算4億円(横軸400,000)以上の場合、勝率が3割を下回っていないことがよくわかります。そして、仮に5億円程度の予算を投じた場合、過去の平均からは、勝率5割程度が見えてくることになります。

このグラフから分かることは、もちろん単年では勝率の下ブレはあるもの、数年を通じて平均して4億円程度(または以上)の予算をチームに投資できるチームは、これまでのシーズンの結果からは、勝率3割以下にはならないという予測が立てられるということになります。つまり勝率で下振れる確率が格段に下がることを意味していると考えられます。
また、平均して6億円超え以上(横軸600,000の線よりちょい右あたり)の予算を投じることが、現在までのデータからは勝率に与える予算の上限になるということがわかります。

選手個々の能力やその組み合わせ、更には試合時の采配など様々な要素を無視して、単純にこのデータから乱暴に言えば、シーズン18勝以上したければ、4億円以上をチームに投資したほうが良いし、優勝争いしたいなら6億円超えから7億円くらいで日本一を目指すのが適切な予算であるということになります。

まとめ

今回は、チームの強化費と勝率について、過去のデータを見てみました。
冒頭にも書きましたが、チームに所属する選手の個々の能力や、その組み合わせ、ヘッドコーチの采配などは一切考慮していない数字上の話を今回はさせてもらいました。
繰り返しますが、当然に、お金=勝利数ではありませんし、お金があったから優勝した、お金がなかったから負けたという単純な話にもなりません。
しかし、今回のように4シーズン分のデータを通して予算と勝率を俯瞰してみれば、その2つには相関があることも間違いではありません。
低予算でも、ある時、“神風”は吹くかもしれませんが、数年に渡り、神風を吹かし続けるのは難しく、勝ち続けていくためにはある程度、勝率を予測した予算も視野に入れておかなくてはなりません。

会社経営の視点から言えば、スポーツビジネスは、期初にチーム予算も含めた原価がドン!と決まり、それを固定費として1年を過ごしていきます。つまり売上に連動した変動費の幅が著しく少ないことを意味しています。
期初に設定された損益分岐点のバーを上回らなければ、簡単に赤字になってしまい、変動費が著しく少ないので、期中に損益分岐点を下げることもまた難しいというビジネスなのです。
言い換えれば、今年は売上が少ないので、ホームゲームを3試合減らしていいですか?とか、契約済みの選手に、今年は売上が少ないので来月から毎月の契約金の支払額を下げてもらっていいですか?とかは絶対にならないのです。

期初に決めた予算をバーとして、営業努力でそのバーを追いかけるのがこのスポーツビジネスの基本であり、健全経営を目指すのであれば、勝率を予測しながら、目指すべき目標(勝利数や順位)とそのために必要な予算を計算しておく必要があります。端的に言ってしまえば、チームの予算決めが最も重要な経営指標になるのです。

チームの勝利数という目標設定をする場合にも、あくまでも個々の能力を除いてにはなりますが、適切な勝利数の目標設定をしてあげることも大事だと思います。神風を別にすれば、ある程度、投じる予算によって順位も見えてくるという仮説も立ちます。

スポーツビジネスは、博打にも似ているような気さえします。勝てると思って予算を使い、勝てるから稼げると思った・・・という世界です。勝っても負けても稼ぐのがフロントの仕事ですが(その話はまた別の機会にしたいと思いますが)、勝敗が売上に与えている影響が大きいのも事実でもあります。だからといって低予算にも関わらず勝てる前提でマーケティングを考えていては、経営リスクだけが高くなりますので、投じる予算に応じた適切なヨミ(目標)もあって然るべきと考えます。
まとめると、今回のテーマでは、投じる予算によって、どのくらい勝つのかを予測して、冷静に経営の舵取りをするのがスポーツビジネスの経営者の仕事であるということをお伝えしたいと思います。

最後の最後に、新潟アルビレックスBBはまずは4億円のチーム予算を工面して、勝率3割から下振れしないところを目指していますので、ぜひぜひ、応援しても良いと思ってくださった法人(または個人)の方がいましたら、パートナーとしてのご契約をお待ちしております。現状は、グラフのような状況ですので、ナマナマしいお話ですとあと1億円くらい足りません。もし新潟アルビレックスBBを通じてスポーツビジネスまたはスポーツマーケティングにご興味ある方は、ぜひご連絡ください。相互にwin-winな関係になるようなご提案をさせていただきます。

今回も読んでいただきありがとうございました。次回もスポーツビジネスにまつわるお話を、つまびらかに?お伝えしていきたいと思います。
そして、スポーツビジネスに興味のある方がいましたら、ぜひお知らせください。本文に関するご質問なども受け付けています。
このnoteを通じて、今、他業界にいる優秀な方々がスポーツビジネスの世界に来てくださることを期待して、そしてその方々への挑戦のきっかけになればと思っています。

ではまた次回をお楽しみに。

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