デザイン品質を上げるヒント-因果のループ図-
「品質」は、奥が深いなと思います。
改めて、学習しようと思って書籍を探しましたが、トヨタをはじめ、品質について言及している書籍はいくらでもあります。
裏を返せば、品質について課題を抱えている会社がたくさんあるということです。
本日は、全ての会社の共通課題と言える「品質」について、整理したことを記しておきます。
前段:デザインファームとしての位置付け
デザイン会社は、言うまでもなく「デザインの品質」が命であり、大袈裟ではなく品質=会社の評価と言えると思います。
アジケも当然、品質を向上することを重視しており、横断的な品質チェックの機能として「品質向上チーム」が仕組み化にチャレンジしています。
「デザインの品質って、各々のデザイナーのスキルに依存するでしょ」と思われるかもしれません。
確かに、デザイナー個人のスキルが品質を左右する割合がとても大きいのは否めませんが、当然、属人化にはリスクがあります。
下図のマトリクスに従ってデザイン会社を分類すると、99%の会社は左下に位置すると言われています。
そんな中、アジケは「組織の力」で「広義のデザイン(ビジネス)」をデザインする、右上に位置する会社です。
つまり、アジケは品質を一手に担う天才がいる組織ではないため、組織力が問われるタイプの会社だと言えます。
こちらのマトリクスを描いた濱口秀司氏は、このように言われています。「背後にプロセス性が少ないのがg(天才)、背後にプロセスがあるのがG(グループ)」。
複数人で構成されたチームで役割を分担しながら進めるため、コミュニケーションや受け渡しが複雑になることは必然です。そこに品質低下につながる落とし穴があります。
次に、品質向上のための入口として、2つの観点から解説してみたいと思います。
デザインの品質が上がらない原因
デザインの品質を上げるための因果ループ図
1. デザインの品質が上がらない原因
まず、品質が上がらない原因を考えてみます。
今回は、下図のように問題に対する原因を洗い出してみました。
洗い出してみると、個人、プロセス、組織の課題に分類できることがわかります。
プロセス、組織課題
適切なフィードバックが受けられない
デザイナーへのフィードバックが甘い
確認のタイミングが少ない
課題設定が誤っている
作業前の認識合わせが甘い
粘りが足りない
デザイナーが掛け持ちしているため時間がない
個人課題
課題設定が誤っている
本質的な課題を捉えられていない
完成形がイメージできない
引き出しが足りない
インプットの効率が悪い
粘りが足りない
進行の効率が悪い
細部の品質を上げるための時間がない
このように、一口に「品質」と言ってもそこには複数の要因が絡み合っていることがわかると思います。品質を向上させることは、対症療法的に一つの課題を対処するだけで解決できる単純な問題ではありません。
2. デザインの品質を上げる因果ループ図
次に、「因果ループ図」で品質が上がるストーリーの原因と結果を繋いでみます。
組織、事業、会社、人と人など関係性が複雑な課題に取り組むことが多い時、俯瞰的な目線を鍛えるにはシステムシンキングが便利です。
因果ループ図を描くために、先ほど洗い出した課題をヒントにします。そして品質が上がるTo-Beストーリーをイメージしてみます。
ストーリー
「解くべき課題の精度」を上げると、
課題を解決するための「適切なインプット」ができ、
アウトプットの「完成形をイメージ」することに繋がり、
進行が効率的になるため、最後の品質を上げるために「粘る時間」ができ、
高いレベルで「課題(イシュー)と解決(ソリューション)がつながり」、
結果的に「スキル、理解度が向上」する。
そして最初に戻ります。
このループ図の内容はあくまで例として書いたものですので、実践することがあれば自社の状況に合わせてループを描いてみることをお勧めします。
どのように取り組むか?
それでは、ループを回すために何をすべきかを説明します。
1. 課題の精度を上げる
「誰の、何を解決するデザインなのか」の理解が間違っていると、当然アウトプットの内容にもずれが出てしまいます。
「最初が大事」なのは当然なので、ここでズレが生じないように注意しましょう。
個人
経験が浅かったり、イマイチ自信が持てない人は、まず自分が把握している課題の内容を言語化します。
できるだけ詳細に書いて認識の齟齬がでないように意識します。
組織
チーム全員で課題内容の認識を合わせましょう。
例えば、キックオフmtgで読み合わせを行うことで認識に齟齬が出ないようにします。
このタイミングでは、課題のすり合わせに加えて、与えたい体験や成果物のイメージなど、具体案につながる内容までイメージすると良いと思います。
目標管理シートに課題を記載
進行プロセスの中に確認のタイミングを設ける
2. 適切なインプットができる
課題設定の精度が上がると、闇雲なインプットではなく効率的なインプットができるようになります。
個人
全体プロセスの中で、10%〜20%はインプットの時間に割くのが良いと言われています。
インプットをほとんどしていなかったり、無闇にインプットしていては後々のアウトプットの精度に関わってくるので、「何を目的としてインプットするのか」を見定めることが重要です。
組織
インプットは、組織の共有知として残しておくと属人化のリスクを軽減することができます。
社内メンバーの誰もがアクセス可能な情報を蓄積し、品質のベースの底上げにつなげることを仕組み化します。
3. 完成形をイメージできる
適切なインプットができると、完成形をイメージした上で具体化する作業を進めることができます。
そして、手を動かす際には最初からデザインツールなどで時間をかけて作り始めるのではなく、手書きのスケッチなどからスタートし、全体像を描いてみることです。次に徐々に細部のデザインへと移行します。
4. 最後の粘りが出る
話は脱線しますが、かつてソフトバンクが電波のカバー率を98%から100%にするために、基地局の数を2倍にする必要がありました。
(過去の記憶なので数字は間違っているかもしれません・・)
同じ話ではありませんが、デザインの完成度の最後10%を上げるためには、それなりの時間がかかります。
そのためには先ほどの図のように、「不確実なものから明らかにする」進め方が求められます。提案ギリギリにやっと出来上がるような進め方ではなく、90%の完成度までは2,3日前に引き上げることを目標にすると、残りの時間で細部の精度を上げ、結果的に上質なユーザー体験を与えることができるアウトプットが出せると思います。
5. 課題(イシュー)と解決(ソリューション)がつながる
当初設定していた課題と、自らが描いた解決が繋がり、「なぜこのデザインなのか」を説明できる状態になります。
アウトプットを見た相手は、無邪気に「なんでこのデザインなのか」、「このように改善すべきなのでは?」と投げかけてきますが、課題と解決を突き詰めて考えていれば、答えに窮することはなくなるはずです。
6. スキル、理解度が向上する
頭の中で理解した課題と、アウトプットとして描いた解決が繋がるものになっていれば、自分の中に蓄積された経験、スキルにつながっているはずです。
これを成功体験として、次のプロジェクトにつなげることで、また新たなサイクルを回すことができるはずです。
個人・チーム両面から振り返り会を実施
目標管理シートに結果や次回に向けての改善ポイントをまとめる。
まとめ
重要なことは、ループを描いて回すことです。
1回転では意味がありません。10回、20回と回していくと、徐々にループが自転していくようになります。
自転車を漕ぐとき、最初は踏ん張ってペダルを踏む必要があります。しかしあるポイントから勝手に進んでいくようになる・・のようなイメージです。
アジケは、改めてペダルを回し始めている最中です。
そのうち、自転していくようになることを目指して、取り組んでいこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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