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二律背反

 最近、恋人に対してアンビバレントな感情を抱くことが多い。
 恋人にぞっこんな気持ちと、同じくらい大きな恋人への腹立たしさだ。
 この相反した気持ちが同居しており、最近の私の心中は穏やかでない。

 恋人とはそろそろ付き合って3ヶ月になろうかという、まだまだ歴の浅い関係だ。だが、この3ヶ月で色々なことをして、それなりに思い出を増やしている。
 たった3ヶ月で分かることなんてたかが知れてるが、恋人は思った以上に私のことを可愛がってくれるし、私を大事に扱ってくれる、とは感じる。生来の優しさゆえの行動かもしれないが、ちゃんと私のことを好いてくれているのだと日々実感している。
 それに、私も恋人のことがめちゃくちゃに好きだ。恋人には、私の思う「格好良い」があらかた詰まっているし、人としてこれ以上ないくらいイケてる。こんな最高な人間がよくもまあ私なんかと付き合ってくれているな、と謙遜してしまいそうなくらい、素敵な恋人だ。付き合った当初から今までずっと、この感情は変わっていない。
 恋人から私に向く愛情と、私が恋人に対して抱いている愛情、それらをまるごとひっくるめて、私は恋人にぞっこんなのである。

 そう感じている一方で、同じ相手に対してどうしようもないほどの腹立たしさも感じてしまう。どんな時にかというと、電話したいと思った日に電話が繋がらなかったり、ふと会いたくなった時に会えなかったり、などである。
 そもそも、1ヶ月ほど前まで恋人は、どんな突然の誘いでも乗ってくれていた。突発的に電話をしてもほぼ繋がったし、いきなり飲みに誘っても来てくれた。それが変わったのが4月に入ってからである。職場の退勤時間が遅くなったり引っ越したりと身辺の変化が多いようで、以前のように突然かかわりを持つことが難しくなった。とはいえ交流の頻度が目に見えて減っているわけではないのだが、それでも以前ほど気軽に会えなくなっているのは事実だ。
 それなのに、交際が始まったばかりの頃に知ってしまった、恋人=いつ誘っても会える人という考えは私の中にしみついている。だからこそ、最近誘いに乗ってくれづらくなってくれたことに対して、悲しいし腹が立つ。

 が、この立腹がお門違いなことなんて重々承知している。私が腹を立てているあれこれの事象について、恋人に非も落ち度もないのだ。恋人は私のことが嫌いで誘いを断っているわけではなく、ただ日常生活が忙しくて私に割ける時間が減ったという、それだけのことだ。他のカップルより頻繁に会っていると思うし、会えばちゃんと私を好いてくれていることを実感できる。
 しかし、私はそんな恋人の事情なんて無視して、声を聴きたいタイミングで電話をかけるし、会いたいタイミングで誘いの連絡をする。その時の私には、恋人と仲良く交流している未来しか見えていない。が、間が悪く断られてしまい、楽しみにしていた未来が実現しない。そのとき、未来が打ち砕かれたことに腹が立つ。
 何が言いたいかって、恋人と関わることに対して、勝手に期待をかけて勝手に失望し、ムカついているだけなのだ。全ては私の中でのみ起こっている出来事である。

 かつてはかけていた期待がほぼ100%実を結んでいたので、こんな失望も立腹も感じる隙がなかった。が、期待が実現しないこともあるという事実をまだ受け入れられていない厄介な私は、恋人は誘いに乗ってくれるという期待を捨て切ることができない。

 いっそ恋人に対して期待なんぞかけない方が、無駄な怒りを感じずに済むだろう。それもわかっているのだが、それでも恋人への期待を持ち続けてしまうのだ。こうした理性と感情の不一致に対してももどかしさを感じるし、全て分かっていながらなお、毎日のように恋人に期待をしてしまう自分の女々しさにも腹が立つ。期待は充足しないし、充足しないとわかっている期待を馬鹿みたいに持ち続けてしまうし、これらは全部自分の中から生まれたものなのに、それが自分自身に負の感情を与えているしで、もうどうすればいいかわからない。
 
 どうしたら恋人への期待を捨てて、軽やかな心で恋人と接することができるのだろうか。これが私の最近の悩みだ。私を縛り、むかつかせるだけの期待ならさっさと捨ててしまいたい。
 もともと重い性格なことは自覚していたが、重さの中にこんな厄介さが潜んでいたとは。20数年の人生を通し、自分の性格の中のよくない部分とはうまく折り合いをつけてきたが、この部分と折り合いをつけるのはまだまだ時間がかかりそうだ。時間をかけて折り合いがつくのを待てるか、この腹立たしさに耐えきれず別れを切り出してしまうのか。私も恋人もお互いと長く付き合っていたいと思っているので、どうか粘って粘って、別れ話なんて血迷ったことを切り出す前に、この感情を自分の中にうまく溶け込ませたい。

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