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花束みたいな恋をした

【花束みたいな恋をした】

▶︎映画



大好きな坂元裕二さんが描く本当にそこに存在する恋人たちの日常みたいなつくり話。


公開当時すぐに観に行きたくて
でもなぜか勿体なくて観に行けなくて
結局ノベライズ本だけを見た。
こんなにふんだんに固有名詞が出てくるのってすごすぎないかと思ったのがひとつ。
自分がこのふたりになり得たかもしれないし、なり得るかもしれないと思ったのがひとつ。
とっても大切に読んだ記憶がある。


あれから3年弱が経ちようやく映画を鑑賞。
たまたま機会が今だっただけなのだが、ちょうどふたりが別れを決断するのと同じ年齢になった。
麦くん(菅田将暉)と絹ちゃん(有村架純)の恋愛は5年目に突入するところで丸4年間だったから、麦くんと絹ちゃんが過ごした年齢とこの作品の封が切られてから今まで自分が過ごした年齢がほぼ同じだったことがこの映画を寝かせた理由だった気さえした。完全なる後付けだけど。

ノベライズ本を読んだときに抱いた思いや感想をこと細かく覚えてはいないけど確実に麦くんと絹ちゃんの見方も終わった後に残る思いも変わった。
あの頃は麦くんも絹ちゃんも精神的に大人になってもう少しお互いを思いお互いに寄り添えることができればうまくいくのにってことを思った。
どちらかと言えば出会ってから社会に出るまでの間ふたりの世界で楽しく幸せに暮らしている麦くんと絹ちゃんが物語の軸に見えていたし最後まで印象に残る姿だった。
別れの決断は、麦くんと絹ちゃんがふたり一緒にいた時間をキラキラさせるものに見えた。

今は変わっていく麦くんも変わらない絹ちゃんも悪くないんだよな、という思い。
たぶんあの頃もそうは思ったんだけど、今なら見ている自分が大人になったからこそ、大人になるにつれて経験して体験したうえで作り出した自分なりの正しさに縛りつけられてしまうし、頑なになってしまって寄り添えなくなるんだってことがわかる。
それだけじゃなくて麦くんと絹ちゃんが無理して寄り添う必要がなかったこともわかる。
出会った頃に似すぎていたふたりだからこそどこかで少しでも歯車が狂ったり歩幅がずれてしまえば別れてしまうことが最初から決まっていたことのようにさえ思えた。
価値観のズレは他人同士で起きるものだけじゃなくて、自分自身の中でも時が経てば起こることだから仕方ないんだと思う。
別れる決断は、この先の麦くんと絹ちゃんがキラキラするためなんだと思った。



これからどんな人に出会いどんな恋をしようと麦くんにとっての絹ちゃんはこの先もずっと絹ちゃんだけだし逆も然り。
ふたりが一緒に過ごした時間は消えないしそれは揺るがない事実。
この人しかいないと確信めいた頃もあっただろうし一生一緒に居るのだと信じた頃もあっただろう。

麦くんと絹ちゃんはお互いが大切な存在であることには変わりない。
だから、ファミレスでの別れ話の時に過去の自分たちを思い出し涙した。
抱き合ったのは恋に対する未練じゃなくて共に思い出を築きあげた同士みたいなそんな気持ちだったんじゃないかな。
ふたりの時間はふたりにしか分かち合えないものだから。
ここまでの間、本気で好きだったから、幸せだったから。

ふたりとも適齢期で傍には長く一緒にいる色んなことを知っている恋人がいたのだからできれば結婚して家族になりたかったんだと思う。
そうすることもできたけど、それを選ぶことで自分たちの過去を、恋を否定することになってしまったはず。
別にふたりの間に恋がなくても合わない部分や嫌な部分を見ないようにすればなんとなく結婚はできるし家族になれるけど、麦くんと絹ちゃんは本気で恋をしたからこそそれを選ばなかった。


あの頃わからなくて、今ならわかる決定的な違いはここなんだよなあ。
綺麗な思い出、とくに青春みたいな時代にしか出来ない恋とか友情とかって大人になってできる思い出とは何かが違う。
もちろん大人になってからも青春みたいなことはできるし楽しいこともいっぱいあるから大人になってからじゃだめってわけではないんだけどね。

綺麗なものを綺麗なまま終わらせることの尊さと儚さというべきか。
好きとは違う意味の未練を残すことで生まれる尊さと儚さというべきか。

ちゃんと恋の終わりが来たことに向き合ってさよならしたからこそ、麦くんにとっても絹ちゃんにとっても花束みたいな恋にできたんだと思う。




そんな麦くんと絹ちゃんが自然体すぎて菅田将暉と有村架純の凄さがひしひしと伝わってくる作品でもあった。
ラブラブなときも喧嘩するときも涙するときもどこかの恋人たちを覗いているかのような自然な掛け合い。綺麗なふたりなのにギラついたオーラが出ていないこともすごいこと。
あの町に住んでいる普通の男の子と女の子。
声も優しいふたりだからこの作品の優しい穏やかな雰囲気を作りあげるのにもぴったり。


清原果耶と細田佳央太も凄かった。
一瞬で初々しい麦くんと絹ちゃんを思い出させる雰囲気をあの会話で作る天才。
台詞の中身はもちろん似せられているけど、間とか声のトーンとかこのふたりじゃないと出せないよなって。
涙を誘われた。



さよならする終わりは悲しいけど
悲しさの残らないあたたかな作品。

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